res.凛2
俺は由香里と朱音に煽てられて買った服に着替えて凛の隣の歩く。
すっかり外は蒸し暑くなり道行く人は全員風通しのよさそうな服を着ている。
凛はふふふと笑って嬉しそうな顔をする。
「嬉しそうだね」
「まあねー。蓮とデートするの久々だから」
「デートじゃないでしょ」
「デートって言うのは男女が日時を決めて会う事を言うんだけど蓮は何を考えていたのかな?」
そう揶揄ってくる。
正論で殴られて返す言葉に迷ってしまう。
凛はまあいいけどという様に前を向き直す。
「彼女、作らないの?最近仲いいじゃん」
今度は前を向いたまま聞いてくる。
名前を出さなくても誰の事を言っているのか分かる。
「作る理由がないから」
「……はぁ」
分かってないなあとため息をつく。
「付き合う理由なんて好きだからってだけでいいんだよ」
「この好意が友人としてなのか恋愛感情なのか分からない場合は?」
「男女の友情なんて学校の都市伝説よりも信用できなんだから恋愛感情だろ」
だとしたら俺は舞希と由香里と朱音ちゃんと凛と凪咲ちゃんに恋愛感情を待っているという事になる。
いや俺一体何者だよと思ってしまう。
おい誰だ、女の交友関係狭いって言った奴!男の方が狭いんだからな!
因みに男だと陽斗と慶さんだけだ。
「じゃあ俺と凛の関係はなんていうの?」
「……もしかして私は論破されてしまったのか?いや蓮の事好きと言う事で論破されてないことにできるな」
「やめとけやめとけ」
凛が意地を通し始めた。
「ま、私も好意の違いなんて分からないからそれが普通だと思うよ」
そう言われ少し安心する。
俺と凛、たった2人の証言なので正しいのかは分からない。
それに俺たちは過去の境遇が似ているので似た考え方になっているのかもしれない。
ショッピングモールに入ると腕に当たる冷たい風に少し身震いをしてしまう。
外が熱いから冷房をつけているようだ。
涼しいのは良いのだが外に出た時余計熱く感じてしまうので嫌になってしまう。
「寒いんだったら腕に抱き着いてあげようか?」
「悪かったって、謝るから。だからもう普段通りに戻ってくれ」
さっき論破されたのをまだ気にしているようでそんなことを言ってくる。
どうも凛にこういうことをされると調子が狂ってしまう。
ショッピングモール内を1周する。
「何か気になるのあった?」
「特には」
「うーん、これは困った」
凛が顎に手を当て考えている。
まだ時間が早く、前来た時よりも人通りは少ない。
俺の精神衛生を保つためにもこのままの人の少なさでいてもらいたいものだ。
「あ、映画でも見る?丁度始まる時間だし」
俺達は2階にある映画館に足を運ぶ。
凛は食べ物を、俺はチケットを買う。
こういう時、効率的に動いてくれるとめんどくさがりの俺は非常に助かる。
何を見るかも決めていいと言われたので俺はチケット売り場の横に置いてある上映されている映画の一覧が書かれた紙を手に取る。
俺が見たいものは……いや判断基準は凛が見たいものにする。
だが考えていくうちに凛とこういう話をしていなかったことを思い知らされる。
いやもしかしたら話していたかもしれない。聞いていなかっただけで。
「まだ買ってなかったの?」
声の方向を向くと小さめのポップコーンと2つのドリンクをのせたトレーを持った凛が立っていた。
「凛どういうの好きなのかなって思って」
「別に私に合わせなくていいのに」
うーんと悩んでから俺の持っていた紙のとある映画を指さす。
「これにしよう。これが1番蓮が見たさそう」
「え?」
予想外の事を言われ体が固まる。
「分かってるよ、気を使って私に合わせようとしたことも。昔から見てきてるからね、これくらいの事手に取るように分かっちゃうんだなー」
そう言って胸を張る。
俺をおいてチケットを買う。
映画館の中の人は少ないため特に気を張らずに見れそうだ。
これから見る映画は異世界もののアニメが元でとあるキャラクターの過去編となっている。
世界最強と言われ主人公たちを助けるポジションだのキャラクターだ。
可愛くも美しくもあるビジュアルから多くの人気を獲得している。
映画の序盤で心配になって隣を見ると飲み物もポップコーンも手に付けるのを忘れ食い入るように見ていて安心する。
衝撃の過去に驚きながら物語は進んでいく。
両親を魔物に殺されさっきまでのほのぼのとした日常から一変、場所は地下闘技場に移る。
弟の分も戦いどんどん心が廃れていく様子が生々しく描かれている。
対戦相手も観客も皆殺しにした後、恨みを抱えて魔界に乗り込む。
親から遺伝で受け継いだその圧倒的な力で夥しい数の魔物は地に倒れていく。
だがまだ本編にもでていない新キャラ、魔界の王族の2人に諭され魔物を殺すのをやめる。
そこからは現世に帰り人との関りが増えてくる。
そうしていつも物語で見る姿が形成されていく。
エンディングも終わりゆっくりと照明がつく。
ふと気になって隣に目を向けるとそこには目から大粒の涙を大量に流した凛がいた。
「え!?」
ついそう声を発してしまう。
それに気づいたようで俺の太ももに顔をこすりつけてくる。
「うううう。こんなのってないよ~悲しすぎるよ」
感動しやすいタイプなのだろうか。
俺の太ももで大号泣をしている。
人が少ないと言っても全く見られない訳じゃない。
そんな羞恥になんとか耐えながら凛が落ち着くのを待つ。
「ふー、ごめんね。迷惑かけて」
取り出したハンカチで涙をぬぐいながら言う。
俺達は少し遅れて映画館を出る。
凛の目元はまだ少し赤かった。
フードコートで飲み物を飲んで落ち着く。
さすがに昼食にするには早かった。
映画を見てる間にかなり人が増えたようで周りの音がうるさくなる。
「こういううるささはちょっと落ち着かないよね」
「そうだね」
ちょうど同じことを思っていたところだった。
俺も凛もこういううるさい場所には慣れていないのだ。
いや静かな場所に慣れてしまったという方が正しいだろう。
「いやー映画面白かったなー」
「そう?なら良かった」
そう言って凛は思いっきり背伸びをする。
凛が楽しめてくれたなら俺としては満足だ。
「この後ちょっとだけ本屋に寄ってもいいかな?」
「いいけど、何か買うもの見つかった?」
「うん。さっきの映画の原作買おうと思って」
「ハマってんじゃん」
「へへへ」
「でもあれ俺の家にあるよ?」
「えー、本は自分の部屋に飾っておきたくない?」
「まあ分かる」
俺達は飲み物を持ったまま本屋に向かう。
「人も増えてきたしそろそろ帰る?」
「そうだね」
まあそれも凛が買い終わったらだ。
本屋の前にある椅子が置いてある少し広い場所はあまり人がいなかった。
本屋に入ろうとした時見知った顔の人に名前を呼ばれる。
「蓮……?」
人が少なかったからこそすぐに誰かわかった。




