友達の定義
放課後、テストの返却が終わりクラスのみんなは清々しい顔をしている。
稀に暗い表情を浮かべているものもいるがかなりの少数派である。
暗い表情をしている人の大半が点数が低かったのだがそれは点数が低かった人が暗い表情をしているのと同義ではない。
どちらかというと悪い点数を取ろうが気にしない人の方が多いだろう。
「れんー、一緒に帰ろーぜ」
どことなくいつもより明るい声をした陽斗がこちらに近づいてくる。
「テンション高いね。なんかあった?」
そう聞いたが何となく察しはついている。
陽斗は誇った顔で何も言わず今日返された5教科の点数が全て見えるように手に持つ。
「何とも言えねえ……」
5教科の全てが50点を超えていた。
前の点数と比べるとすごいのだが、そんなに誇った顔で見せられたのでもうちょっと高いのかと思ってしまった。
これめっちゃ高いんだよねえと言われ想像した金額よりも実際は低かったのと同じ現象だ。
「いや高いだろ!!」
「だって90点くらいとってた人の顔だったじゃん」
まあ陽斗からしたら普通の人が90点取ったのと同じくらい嬉しかったという事だろうか。
別に人の点数にケチ付ける訳ではない。
「そういう蓮はどうだったんだよ」
そう言われて俺はカバンの中にしまったテスト用紙を机の上に出す。
「はああああ!?お前頭良すぎだろ!!」
机の上に出したテスト用紙の右上には1つを除いて赤ペンで100と書かれていた。
もう1つ、英語だけが99点だった。
「うわ惜しかったな。後1点で全教科100点だったのに」
そう言って陽斗は英語のテスト用紙を手に取って目を通す。
一通り目を通した後ん?と首を傾げる。
「これどこが間違ってるの?」
「ああ、名前日本語で書いちゃった」
学校によって変わるかもしれないが俺の学校は英語のテストの名前は英語で書かないといけないのだがすっかり俺は日本語で書いてしまたのだ。
「……前言撤回、お前バカだろ」
「俺より点数低い奴に言われたくない」
「そういう意味のバカじゃねえよ……」
呆れたように額に手をつく。
そんなやり取りをしているとテスト勉強をしたメンバーの綾さん、拓、由香里が俺の机の周りに来ていた。
「ええええなにこれ!?すっっっっっご!」
陽斗の持っていた俺のテスト用紙を綾さんが横から見る。
そして陽斗は英語のテストの名前を指さす。
「あ……うーんこれは……」
3人ともさっきの陽斗と同じ反応をする。
「実は頭悪い?」
「頭悪くないかあ?」
陽斗がどっかのおじさんの真似をする。
俺が頭悪いコンギョを言え!!コンギョを!!。
あ、名前ローマ字で書かなかったからか。
由香里と一緒に帰路に就く。
陽斗と綾さんと拓もいたのだが皆家の方向が違く段々と人が減っていって結局2人になった。
そのまま流れで由香里は俺の家に来る。
最初は人が家に来るたびにそわそわしていたのに最近では慣れてきている自分に驚く。
「負けちゃったなー」
由香里は胸元についてあるリボンの紐を緩めてソファーでくつろぐ。
負けたとはテストの事を言っているのだろう。
皆でテスト勉強したときに今回は勝ちたいと言っていた。
「何点だったの?」
「蓮の点数見た後に私の点数なんて見せられないよー」
その言葉に反してカバンの中からテスト用紙を取り出す。
由香里はそんなことを言ったがテストの点数が悪いなんてことは無かった。
それは前回の俺の点数を上回ってすらいた。
ただ今回に関しては人に教えるという1番効率のいい復習をしたので俺の点数が伸びてしまった。
由香里は無言で何か少し考えた後再度口を開く。
「東京、楽しかった?」
それが耳に入ってくると首が閉まるような感覚に陥る。
あれからずっと由香里の前で舞希の話をしないようにしていたのにまさか由香里の方からこの話を振ってくるとは思わなかった。
直接舞希の事は口にしていないが当然この話をすると舞希が出てくるのは由香里もわかるだろう。
「ほんとはねリアルで合うって知って手足縛ってでも止めようと思ったんだよ」
「え゛!?」
「冗談だよ」
全然冗談に聞こえないんだけど。
「でもさ、そんなに束縛されるの蓮いやでしょ?」
「うーん、それでも友達になってくれるんだったら俺は嬉しいよ?」
「……蓮のそういうとこ良くないよ」
急に怒られてしまう。
友達の少ない俺にとっては束縛されようが大切な友達なのだ。
さすがに法律違反とかはダメだけどね。
「でもそれって同時に蓮の好きなことさせてあげないことになるじゃん。私欲張りだからそれもいやなの」
思いの内を語る。
そこに暗い表情は無かった。
「だからねちょっと考えたんだよ」
そう言って由香里はソファーに寝そべる。
俺の膝に頭をのせて。
「私の時間も作ってもらおうと思って」
そう言って下から笑顔で言う。
俺はこれが友達の域に収まっているのか疑問に思いはじめた。




