リアルで
期末テストも俺は無事終わり皆がテストの返却にそわそわしている時期、俺はスーツケースをもって駅にいた。
かなり前から計画していたことで『これくちお』の公式番組に出させてもらうことになっていた。
事務所で配信するらしくそれに伴い俺は東京に行くことになった。
高校生という事もあり事務所の方で大分俺に予定を合わせてくれた。
夏休みに入ってからでもいいと言われたが丁度今日から3連休だった為今日にしてもらった。
早朝であまり人の居ない駅から新幹線に乗る。
起きてから意識も曖昧なまま来たのでやっと一息付けて自分がご飯を食べていないことを思い出す。
さっき買った駅弁を食べながらよくこんな朝早く起きれたなあと自画自賛する。
まあ企業が関わっているお話なのでそれこそ遅れたら俺の胃に穴が開く。
窓からパラパラ漫画のように移り変わる景色を見て暇つぶしをする。
インターネットがないところで動画を見たくない民としては新幹線という場所は学校と同じくらい退屈なのだ。
何度目かの駅に止まった時もっとこの場所の居心地が悪く思える出来事が起きる。
1番後ろの窓側に座っていた俺の隣に座ってくる男性がいたのだ。
いや男性というよりも男子という方が正しいだろうか。
見た目は俺と同じくらいの年に見えるのだが纏っている雰囲気が大人びている。
その人は失礼しますと言うと共に軽く頭を下げてから座る。
「何かご趣味とかあるんですか?」
ここを婚活と間違っているような質問が飛んでくる。
陽斗みたいな人だなと思いながら丁度外の景色を眺めるのも飽きていた俺は答える。
「うーん、ゲームしたり配信見たり……ですかね」
考えてみたがこれといった趣味がないことに気づく。
最近は配信をすることが趣味になりつつあるがそんなこと言えるはずもなく。
ここで具体的なゲーム名を言えないのは若干恥ずかしさがあるからだ。
「いいですねー。俺最近ゲームできてないんですよねー」
「何でですか?」
「え!?あ……えっと……歌とかダンスとかの練習で時間取れなくて……」
慌てて目をそらす。
何かまずいことを聞いてしまっただろうかと不安になる。
「前まではFPSとか好きで、知ってるか分かんないんですけど『rex』とかやってましたね」
ゲーム好きで『rex』知らないなんていないと思うと共に同じゲームを好きなことに嬉しくなる。
「あ、俺もやってますよ、『rex』」
そう言うと尻尾を振る犬のように分かりやすく表情が明るくなる。
「そうなんですか!?最高順位どこか聞いてもいいですか?」
ランクではなく順位で聞くなんて珍しいなと思う。
「えっと一応1位かなあ、みたいな……」
前と違い今の俺には堂々と日本1位ですという自信はない。
それでもこの人はさらに興奮したように身を寄せてくる。
「すごいっすね!俺9位だったんすよ」
思っていたより高い順位が口から出てきて驚く。
そんなに上の人だから順位で聞いたんだなあと少し納得する部分があった。
「好きな武器とかあります?」
新幹線の中とは思えないくらい大声で話す。
周りの視線が痛いのでやめてほしいのだが。
「ウィンチェスターですかね。逆にあります?好きな武器」
「ウィンチェスター好きなんすか?変ってるっすね~。俺は無難にショットガン系っすかね」
全然無難じゃないだろと心の中でつっこむ。
興奮は冷めず周りの声が聞こえないようだ。
「やっぱショットガンって!「あの」角待ちして敵1発で倒すときが!「あの」滅茶苦茶キレてるんだろうなって思うと!「あの!」え?何ですか?」
やっと俺の声が聞こえたようで話すのをやめる。
他に乗っている人からのうるさいなという雰囲気を感じながら俺は静かにという意味を込めて口元に人差し指を立てる。
この人も気づいたようで顔を赤くして小声ですみませんすみませんと何度も謝る。
こういう仕草にかわいらしさがあるのはズルいと思う。
ひと段落するとまだ話し足りないようで今度はちゃんと小声で話す。
「好きな配信者とかいますか?」
落ち着いたのか無意識に出ていたタメ口が無くなっている。
「舞希……さんが大好きですね」
つい癖で呼び捨てにしたのを焦ってさんを付け直す。
「ああ舞希せ……さんいいですよね」
お互いの間に少し気まずい空気が流れる。
だが新幹線は進み続け気が付けば目的地についていた。
窓側なので降りるときは通路側の人となんか気まずい感じになるのでそわそわしていると丁度この人も荷物をもって出たので続いて降りる。
「えっと……きみもここで降りるの?」
「はい」
「そっか」
どちらも名前を言っていなかったので呼ぶのに困ったようにきみと呼ぶ。
俺が人を探しているとあの人は慣れたように進んでいく。
さっきとは比べ物にならないほどの人ごみの中で待ち合わせの約束をしていた舞希と凪咲ちゃんと慶さんを探す。
一緒に企画に出るので案内すると言われて待ち合わせしたのだが顔を知らないので見つけれるわけがない。
まあ詳しいことを言うとリアルで合うので中の人という事になるのだが。
「蓮君?」
人混みの中から近づいてきた3人組の1人の女性が俺に話しかける。
それは今までずっと聞き続けてきた声ですぐに誰か理解できた。
「はい。そうです」
相手も理解できたようでついてきてと言った後に歩き出す。
俺は慣れない人ごみの中で慌てて付いて行く。




