同じ称号でも実力は違う
カスタム4試合目、最終戦。
これまでトロールにトロールを重ねてなんと総合順位が最下位になっていた。
「えっと―、これは……?」
「っスー、まあ最後何で真面目にやりましょうか」
困惑する衣吹さんにいらさんが気まずそうに答える。
本来ならいらさんが気まずい思いをしなくていいはずなのに。
まあトロールをしている俺と衣吹さんが責め続けたせいなのだが。
こういう時日本1位だと勝たないといけないというような義務が発生しているように感じてめんどくさくなる。
相変わらず敵の居ないランドマークを漁る。
漁りながらいらさんがムーブについて話したりしている。
真面目にやると言ったことを有言実行するように真剣にムーブを考えている。
こういう雰囲気を感じると昔陽斗と真面目にランクを回していたときの事を思い出す。
あの時の地獄を思い出しながら俺はこれまで通り周りに敵がいないか見ておく。
ただこの試合は敵1人見えなかった。
ここが立入危険狙撃地帯だとわかったからだろうか。
これまでで1番速く移動し安地内の家を取る。
いらさんはバイクで外を駆け回り衣吹さんは家の中でじっとしている。
俺はウィンチェスターを構えてチラチラと窓から外を見る。
いらさんが見ている方とは別の方を見ているとミニマップで微動だにしない衣吹さんを見つける。
「衣吹さんそれ何やってるんですか?」
「FPS最強戦術の角待ちショットガンです」
クソ戦術の間違いではないだろうか。
ショットガンで床を撃つ。
銃声を聞く機会が少ない武器だがそれでもわかるのはトラウマからだろうか。
「きもいなあ」
俺の持っているウィンチェスターと角待ちショットガンは相性最悪なのでつい本音が出てしまう。
「勝負の世界にきもいなんてないんですよ。勝った方が正義です」
まあそれは俺も同意見なのだが。
あまりのきもさに敵に同情してしまう。
そんなことを考えていると下から足音が聞こえる。
衣吹さんのではない、敵の足音だ。
彼らが衣吹さんの餌食になるのかと思っていると
「え!?グレネードはきもいって~」
1瞬で矛盾することを言う。
待っていたところにグレを投げ込まれ即座に俺の方に逃げてくる。
カバーするように階段下にいる敵を狙って撃つが胴体だったようでダウンはさせられなかった。
ただ外にいたいらさんが戻ってくる。
丁寧にヘルスの少ない敵から撃っていく。
キルログにはいらさんの名前でダウンと確キルの計6つが流れる。
「つえー」
「これが(笑)じゃない方の実力かあ」
衣吹さんが圧倒的な強さに若干引き気味になる。
下のデスボックスを漁りに行こうとすると俺と衣吹さんが使っている弾、回復、アーマーがすべてデスボックスから抜かれて床に置かれていた。
さっきの戦闘後から5秒も経っていないはずだ。
それなのにいらさんは必要な物資を全て床に置きもうすでに外に出て索敵している。
俺がこれと同じ日本1位と言われているのは些かおこがましいのではないだろうか。
安地最終円。
俺たちの居る家から少し出たところが最終安地となっている。
最初の移動から1度も移動していない。
見事にいらさんの安地読みが当たった結果となった。
いやほんと凄すぎでは?
正直レベルが違い過ぎて鳥肌が立ってくる。
「敵こことここにいるからね」
そう言って2つピンが指される。
家の前の塀の裏と家の1階。
いつの間にか1階に入ってきた敵には驚いたが見た感じ1人だけなので大丈夫だろう。
何より階段のところで衣吹さんがクソ戦術で待機中なので心配はいらない。
「安地ギリギリで降りますよ」
家の中の安地もほとんどなくなり降りる窓に3人でくっつく形になる。
窓から見える弾道的に敵同士が撃ち合っているようだ。
塀裏の敵も安地にのまれそうになり俺達と同時に平地に降りる。
1階にいた敵は倒されているようだ。
純粋な3対3の撃ち合い。
フォーカスがあっておらず1対1を3つやる形になる。
何とか敵を倒せたが被弾して俺のヘルスは30くらいになる。
敵もカバーできないようで俺が倒されることは無かった。
ただいらさんと衣吹さんはダウンしており1対1の状況になった。
もう1人の敵は倒してくれたようだ。
「ごめんそれ全然削ってない」
いらさんでもそういう事があるんだなあと思いながらダウンした衣吹さんの後ろに隠れている敵を撃つ。
少し出ていた頭に当たり残りのヘルス関係なく1発で倒せる。
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛??????」
「な……ん?……え?」
「ナイス―」
いらさんの咆哮に耳が死にそうになる。
最後に1位を取れてよかったなと思いながら癖でロビーに戻ってしまう。
「ロータスさん俺がベンチ温めておくので大会出ませんか?」
「いや無理無理」
ちょっと前の俺ならその話題に乗れていたのだろうがここまで実力差があると分かると無理だ。
今日のカスタムはこれで最後となりカスタムは解散される。
チャットではファイナルラストなんて言われていたが冬馬さんはそれをぶった切って終わらせる。
「今日はありがとうございました」
いらさんが配信を終らせる流れを作る。
「ありがとうございました今日はキャリーしてもらって」
「まあ最後だけですね。それ以外はトロールしかしなかったので」
「そうですね」
「え!?肯定マ!?そこは否定する流れじゃない?」
「だって……ねえ?事実だし」
「まあ事実だし」
「……」
沈黙するいらさん。
今日意外といらさんが弄ると面白い人だという事が分かった。
「この人たちとの関係は今日で終わりかな」
「始まってすらないけどね」
少しの間無言になったいらさんが通話サーバーから抜けていく。
「お疲れさまでした。またいつか遊びましょう」
最近できたコラボ配信終わりの定型文を口にして俺も通話サーバーから抜ける。
自分の配信を閉じて1位を取った気持ちよさで爆睡する。




