カスタム~トロール2枚を添えて~
両手にパンパンになった買い物袋を抱えてやっとの思いで家に帰ってこれる。
抱えた買い物袋には今日散々煽てられて衝動買いした大量の服が入っている。
今思えば外に出る予定なんて数回しかないのでこんなに要らなかったと後悔する。
長時間朱音と由香里の着せ替え人形にされて体育祭よりも疲れた体でゲーミングチェアに座る。
背もたれを倒し舞希の切り抜きを見る。
配信を全て見ているので切り抜きを見る意味はないと思っていたが切り抜きは切り抜き師によってより面白くなることに最近気づき見漁っているのだ。
見ていると初めて俺がマッチで当たった時の切り抜きなんかも出てきて恥ずかしくなる。
丁寧なことに俺の視点まで編集されているので余計にだ。
そんな羞恥に悶えているとスマホにメールが来る。
この人との履歴はお互いのクリップで埋め尽くされている。
内容はこれからある『rex』のカスタムに出ないかというお話。
このカスタムはV杯を主催している冬馬さんが配信者とリスナーを集めてやっているものだ。
もともと出る予定だった人が急遽出られなくなったため俺に白羽の矢が立ったようだ。
もう1人の方は関わりが少ないため少し躊躇ってしまったがすぐに出る旨を伝える。
昔では考えられないことだ。
これも昔では考えられないことだがカスタムに出れることをツイートする。
『まるで配信者』から『配信者かぶれ』くらいには成長したのではないだろうか。
カスタムコードが公開されたのでカスタムに入り配信を始める。
通話サーバーには誰も入っていなかったのでまだ入っていない。
「どーもー」
カスタムの本配信ではカスタムが始まる前に選手紹介があるはずなので俺はリスナーと話す。
「ツイートもしたけど冬馬さんのカスタムに参加することになりましたー」
・ちゃーす
・カスタム珍しいね
・楽しみやー
・メンバー分かる人います?
・まだ発表してないはず
・あざます
まだツイートでもメンバーを発表していないのでリスナーは誰も知らない。
早く知りたい人は本配信の選手紹介を見ているはずだ。
俺はサブモニターに本配信を映す。
リスナーと体育祭の事とか今日の事とかを話しているとサーバーに1人入ったのが見えたので俺も入る。
相手は配信の事もあってスピーカーミュートにしてるのでまだ話さない。
待っている間に舞希に教わったやり方でサーバーのオーバーレイをだしたりする。
「あ、……どうもこんにちわ」
V杯で天外さんと同じチームだった禰衣吹さんがスピーカーミュートを解除して話す。
まだ数回しか話したことがないのでちょっと緊張する。
「あ、こんにちわ」
・おおお
・きたあ
・衣吹ちゃんか?
・そうだね、配信取ってるよ
・珍しいな
・V杯の2次会以来かな
リスナーの反応を見るとまだ俺のメンバーは発表されていないようだ。
というか2人だと会話が続かないので早くもう1人来てほしいと切実に願う。
「えっと……ロータスさんはあれですよね。V杯の時以来ですよね」
配信者の性かアカデミーの教えか話題を振ってくる。
同じコミュ障として分かる。これは無理に話そうとしているやつだ。
「そうですね。ただ『rex』は一緒にやったこと無かったですよね」
長いこと舞希や凪咲ちゃんとかと話していたからか前よりスムーズに話せるようになっている。
俺の脳は勝手に話し方を学習しているようだ。
「はい。多分私が初心者だから足引っ張っちゃうと思うんですけど」
「そこはもう1人の人に任せましょう」
「あー確かに。そうですね」
初心者と言ってもV杯からは1か月くらい経っているので気にするほどではないと思う。
まあ俺達がどれだけ足を引っ張っても後1人が強すぎるので何の問題もない。
本配信で紹介されたのでコメント欄でもちらほらともう1人のメンバーの名前が出ている。
そして俺と衣吹さんが話していると通話サーバーに1人入ってくる。
「ごめん、遅れました」
いらさん。プロゲーマーで俺と舞希が凸待ちを行った際凸者として来てくれた人だ。
サシで配信上で絡むのは初めてだが配信外で話したりしているので気が楽になる。
「まだカスタム始まってないから大丈夫じゃない?」
カスタムのロビーにいらさんが入ってくる。
本配信では選手紹介が終わりカスタムを始めると言っていたので俺は本配信を閉じる。
すぐに画面はカスタムのロビーからマッチに変わる。
「ロータスさん知ってるかもだけど俺達武器1つしか持ったらダメだからね」
「え?なんで?」
いらさんの突然の縛り宣言に驚く。
「さすがに日本1位が2人もいたらバランス壊れるって言ってた」
「日本1位2人って言っても日本1位と日本1位(笑)だから大丈夫だよ」
・武器1つでも強いだろ
・ロータスさんはいつも武器1つしか使ってないよ
・常に縛りしてるみたいなもんだからな
・日本1位(笑)の実力は伊達じゃないぞ
・ただ何気にこのカスタム他のプロも出てるんだよな
ただ今何を言ったところで主催の冬馬さんには伝わらないので大人しく武器1つで戦うことにする。
初動は降りていた敵が全員別のランドマークに避けていったので初動ファイトがない。
まあいらさんと初動ファイトとかしたくないだろう。ちなみに俺が敵だったら全然被せる。
ウィンチェスターを拾たので俺の漁りは終わる。
「俺漁り終わったんで移動できます」
話していなかったが多分オーダーはいらさんになるのでしっかり報告しておく。
「おっけー。めっちゃ早いね」
まだ移動しないようなので俺は周りに敵がいないかを見る。
昔周りを見ていなかったら陽斗にオーダーしてないんだから周り見とけよと半ギレで何度も言われたので体に染みついている。
くるくると視点を回して見ているとモニターに豆粒ほど小さな敵を見つける。
スコープを覗くとよく見えたのでフリックで頭に弾をぶちこんでダウンさせる。
味方と思われる2人がダウンした敵を追う様に移動しているのが見えたので詰める。
詰めながらに空に向かってグレネードを投げて漁夫が来ないか周りを見ながら敵の居る岩の裏にくっつく。
さすがにこの超至近距離なのでスコープを外す。
さっき投げたグレネードが降ってきてパリンというアーマーが割れる音と共に2つの与ダメージのエフェクトと1人のダウン表示が出る。
残っている人のダメージエフェクトが右だったので右にリーンしてクイックショットで倒す。
敵の箱から味方のために多めに回復を取って帰る。
「なんか大暴れしてる人いない?」
「こ、これが日本1位(笑)の実力かあ」
・ああまたやってるよこの人
・こういう味方の反応新鮮やな
・みんな感覚バグってるんだよ
・マジで強いな
・何気に戦闘中の立ち回りうまいな
・戦闘中の立ち回りは参考になるよ
・戦闘中の←ここ大事
2人が遠くからジト目で言ってる絵が容易に想像できる。
気づいたらミニマップにも映っていないくらい離れていた。
俺と衣吹さんで車に乗ってバイクに乗ったいらさんの後ろから付いて行く。
いらさんが先頭を走り敵のいない場所を探してくれている。
いらさんは山の坂を使い宙で1回転する。バイクでしかできないキャラコンだ。
「おおお凄い。かっこいい~」
「へへ、もう1回やっちゃおうかな」
衣吹さんに褒められていらさんが調子に乗る。
わざわざ戻ってきてもう1度やったので俺は宙に浮いているいらさんが乗ったバイクを打ち落とす。
このゲーム、車にもバイクにも耐久がありアーマー3つのフルアーマーをつけた人2人分で500となっている。
ただ車の裏側にあるコアを撃つとすぐに壊れるという小技があるのだ。
ウィンチェスターだとすぐに500は与えられないのでそこを撃つ。
そうするとバイクは爆発しいらさんの体力は0になる。
「ええええええええええええ」
「あっははははは」
・あ
・草
・無駄にエイム良くて草
・調子に乗ってはいけない
・これは教育番組です
・違います
爆発したバイクの音をかき消すくらい大声でいらさんは叫ぶ。
俺はダウンしたいらさんの前で煽るように屈伸する。
見かねたように衣吹さんがいらさんを蘇生してあげる。
「衣吹さんは優しいなあ」
遠回しに俺の事を非難する。
蘇生中も俺が屈伸していると衣吹さんが蘇生終了ギリギリで手を離す。
蘇生は終わらずいらさんが起き上がることは無かった。
「え?」
「ああ、すみません間違えました」
「間違えたのか、よかったよかった。わざとかと思いましたよ」
「わざとな訳ないじゃないですか」
「そうですよね?そうですよね?」
「衣吹さんがわざとやるわけないじゃないですか」
・ん?
・わざとじゃないか
・偶々だよな?
・偶々に決まってるだろ()
・あの衣吹さんがそんなことするわけw
わざとな訳ないと全員が言ったが勿論そんなわけない。
衣吹さんはもう1度蘇生してギリギリで離す。
「ん?」
「ああ間違えました」
「ああ」
そう言って何度も蘇生してはギリギリで離すという事をやる。
俺もずっと屈伸しているとパンという銃声の後いらさんと同じ姿勢になる。
「「「あ」」」
・あ
・あ
・うーんこの
・これはトロータス
・日本1位(笑)君さあ
・調子に乗ってはいけない
俺を倒した敵が車で最後に残っていた衣吹さんを引く。
部隊全滅と出た後に倒された敵の視点に変わる。
「何か言いたいことはありますか?」
いらさんがまるで俺達が悪いかのように言う。
まあその通りなのだが、
「ファーストダウンしたいらさんが悪いと思います」
「私も完全同意の意を示しておきます」
「ええええええ。俺が悪いマ?」
・こいつらまじかw
・まあファーストダウンは良くない
・しかも日本1位が
・いらさんファーストダウンは良くないって
・このチームトロール2枚積みか
・そのトロールの人他のトロールに殺されてんねん
まさかの回答に困惑している。
「公式大会で日本1位になった人が最初にダウンするのは良くないと思います」
「うんうん」
公式と言わないと後で俺がファーストダウンしたときに何か言われそうなので予防線を張っておく。
そしてまるで後ろから石を投げるように衣吹さんが肯定する。
「うえーん衣吹ママー。ロータス君がいじめてきまーす」
泣き真似をしながら気持ち悪いことを言う。
間違えた。
めっちゃきもい。
いや、
クソきもい。
家にゴキブリと白アリとムカデが出るよりも気持ち悪い。
「え、きっs……きしょ!!」
「でてんのよ。1回我慢できたやん」
「ごめん私の口じゃ抑えきれなかった」
・????
・きss
・フォロー解除しよ
・きもいな
・衣吹ちゃんよく言った
・心の底からのきしょだったな
衣吹さんも俺と同じ感情のようだ。
衣吹さんもというか全人類が同じことを思っただろう。
そんなことを言い合っている間に1試合目は終わりカスタムロビーに帰ってくる。
引っ越してインターネットがつながらなかったため投稿が遅くなりました。
言い訳じゃありません、サボってないです()




