3人の朝
目が覚めると柔らかいもので体を包まれていることに気づく。
床で寝たはずなのに柔らかいそれに疑問に思っていると頭1個分上から声をかけられる。
「蓮起きた?」
寝起きでもうるさいと感じない優しい声が聞こえる。
手にスマホを持っていたので起きて暇つぶしをしていたことがわかる。
「ん~」
声を出すのがめんどくさくそう答える。
丁度目の前に抱き枕のようなものがあったのでギュッと抱きしめて顔を埋める。
カーテンの隙間から差し込む光から逃げるように目を閉じて2度寝をしようとするがそれに反して脳は覚醒していく。
寝る前に感じていた床の硬さではないこと。
首元にあるいつも使っている枕よりも柔らかく暖かいもの。
抱き枕だと思って抱きしめているものの正体。
何故か隣で横になっている由香里。
……
「え!?」
寝起きにしては大きくかすかすの声が出る。
飛び上がりベットから降りようと力を入れた体は背中に回されていた手に阻まれる。
「どうしたの?」
横になった状態でヘッドボードの方を見るとキョトンとまるで何も不思議なものはないという顔をしている。
いやなんだこれ、夢か?
俺は冷静に、いや冷静を装って状況を確認する。
床で寝たはずなのに今の俺は何故かいつも寝ているベットにいる。
そして由香里の上腕に頭をのせている。
もう片方の腕は上から俺の背中に回されてぴとっと体がくっついている。
トクントクンと心音が聞こえるほどに近い。
その心音は俺が初めて舞希と話した時よりも早いように感じた。
「えっと……これはどういう状況?」
「さすがに床で寝させるのはなって思ったからこっちに連れてきちゃった」
「なる……ほど?」
なるほどなんて言ってるが全く理解できていない。
「因みに朱音ちゃんはまだ寝てるからね」
「ああ、分かった」
うるさくするなという意味だろう。
こうして人のぬくもりを感じていると眠たくなってくるもので気づかない間に俺は深い眠りについていた。
「ちょっと由香里先輩!!何やってるんですか!!」
そんな体育祭の応援よりも大きんな声を聞いて今日2度目の朝を迎える。
相変わらず俺を包む腕は柔らかく暖かい。
何やら2人が言い合っているが寝起きの耳には入ってこない。
ただそんな声の中でも心音が聞こえてくる。音としてではなく触覚として。
「いいからその抱きしめている手を離してください!」
そう聞こえると俺の体に手が回され思いっきり後ろに引っ張られる。
ただ回されていた由香里の手にも力が入りそれは阻まれる。
「あのーそろそろ起きたいんですけど―」
上を向き胸と顔しか映っていない視界で言う。
「あ、そう?分かった」
そうすると俺に回されていた手の力が弱まる。
そして後ろに引っ張られベットから落ちる。
「私今日1日これで過ごすので!」
俺に背中から抱き着いた朱音が言う。
俺は背中に朱音を抱えたまま朝食、時間的には昼食を作りに居間へ向かう。
思っていた以上に歩きにくい。
「あー、おも「先輩?」
抱きしめている手に力が入って俺の肉を爪をたたてつかむ。
危ない危ない。危うく地雷を踏むとこだった。
まあ半分くらい踏んでいるが。
俺がご飯を作りまた3人で食べる。
手伝うと言ってくれたが疲れているだろうからそれは断った。
凛リスペクトだ。
ていうのは半分冗談でほんとの理由は俺の拙い料理技術を見られるのが恥ずかしかったからだ。
「蓮先輩、買い物行きませんか?」
「いいけど何買うの?」
「特に決めてないですけど」
「なら私も行くー」
由香里も話に乗ってくる。
「蓮先輩と一緒に寝てたから由香里先輩はダメです」
「さっき朱音ちゃんも蓮にくっついてたからチャラだよ」
「全然釣り合ってないですよ!」
「どっちも寝てたんだから釣り合ってるよ」
「寝てたからこそですよ!」
仲が良いのか悪いのか。
そんな朝にはちょっとうるさい声を聞きながらご飯を食べる。




