体育祭2
テントに戻り借りていたタオルを朱音に返す。
「ありがとう。助かった」
そう感謝を伝えると朱音はニパっと笑う。
「いえいえ~。じゃんじゃん頼っちゃってください」
ドヤっと無い胸を張って威張る。
それでも憎めないのは実際に頼りになるからだろうか。
朱音がそれよりもと語気を強めて言う。
「何であそこから1位取れちゃうんですか」
まるで未確認生命体を見る目を向けてくる。
実のところ俺も何であそこから1位を取れたのかは謎だ。
思っていた以上に走れたというかなんというか。
まるで無自覚チート系主人公のようになる。
2年生の借り物競争も終わりが見えてきたころどこかに消えていた凛がテント内で指示を出す。
2年生の俺たちは次の1年生借り物競争のサポートらしい。
準備という準備が無いためサポートという事になる。
「ごめんね、めんどくさいこと押し付けちゃって」
各々が移動し始めたタイミングで凛が俺に耳打ちしてくる。
その言い方だとまるで俺が面倒事運動大嫌いクソガキヤローのようではないか。
大正解だ。
ただ逆に感謝もしている。
多分俺に割り振られた仕事は簡単な部類だ。
「まあしょうがないよ」
そう言ってから俺は由香里の後を追う。
謝るとしたら凛ではなく俺に当たりくじを押し付けた前の席の人たちだ。
まあ俺も前の席だったら同じことをするだろうが。
俺は借り物競争のサポートという名のただ突っ立っている人になっている。
だって俺が動く前にみんながやること終わらせてるんだよ。仕方ないよね。
ただそんな俺についに仕事が訪れる。
体育祭担当の仕事かと言われたら100人中100人がNOと答えるものだが。
「蓮先輩!貸してください。さっき私も貸したのでいやとは言わせませんよ」
お題を取った朱音が俺にそう言う。
さっき貸してくれたことがなくても全然貸していたのだが、
「俺が持っているやつなの?」
1番の問題はここだ。
テントまで戻るとなるとかなり時間を食うことになる。
「はい大丈夫です」
そう言って俺の手を取る。
俺は引っ張られるようにさっきも走った場所を再度走らされる。
あーこれはあれだ、ラブコメでよくあるやつだ。
俺はそう考える。
周りの視線を気にしないようにして疲れた足を動かす。
お題の物を見つけるまでにかかる時間が少なかったからか朱音は1位でゴールする。
やったと言い小さくガッツポーズをする朱音。
「初めての共同作業ですね」
共同作業と言うが俺は何かしたのだろうか。
ただ手を引かれて走っただけなのだが。
「お題なんだったの?」
「あ、聞くの忘れた」
持ち場に戻ると由香里に聞かれて思い出す。
そういえば朱音のお題は何だったのだろう。
さすがに大衆が想像しているあのお題ではないはずだ。
このお題は凛もチェックしているので変なものは入っていない……いや凛ならあり得るのか。
気になりすぎてモヤモヤしてくる。
そんなモヤモヤを抱えたまま体育祭は進み最後の競技のリレーになる。
まあこの後に閉会式とかいう最もめんどくさいものがあるが競技としてはこれが最後だ。
今までの競技は3年、2年、1年という順番だったがリレーだけはこれが逆になる。
リレーは1クラス4人参加となり12人が走る。
メンバーが決まった時から放課後練習していた。
勿論俺はそこに含まれていない。
そんなめんどくさいこと引き受ける訳がないのだ。
「蓮先輩はどのクラスが勝つと思いますか?」
リレーを走り終えても疲れを見せない朱音が隣に座る。
「うちのクラスかなあ」
「自分のクラスの人しか分からないからですよね」
図星である。
いよいよ本当に顔に書いてあるのか疑いたくなってくたな。
「実際先輩のクラスの人めっちゃ足速いですよね」
「そうなの?」
「陽斗先輩とか学年で1番速いんじゃないかってくらいですよ」
そうなのか。
陽斗が足が速いのは知っていたがそれほどだとは。
「陽斗先輩って何か運動してるんですかね?」
「さあ、昔何かやってたんじゃない?毎日グラウンド50周走ってたとか」
「本当にやっててもおかしくないレベルですよね」
実際のところは分からない。
陽斗の過去の話なんて聞くタイミングもないし聞く必要もないからな。
そんな事を話している間にリレーは始まる。
うちのクラスの最初の走者は由香里だ。
「おおお由香里先輩速ーい」
朱音はくすくすと笑って俺に耳打ちする。
「お胸が揺れてますなあ」
「え、なに。急におじさんが転生した?」
「違いますって。でも見てくださいよ。ね?揺れてるでしょ?」
「……うん。まあ」
「今の由香里先輩に言ってもいいですか?」
「何でもするので許してください」
「何でも?」
「ほんとにおじさんが転生したのか?」
熱いリレーをよそにけたけたと笑う朱音。
そしてはあと息を吐いて急に冷静になる。
「由香里先輩見てると殺意わいてきません?」
「急に展開が殺戮ものになったな」
「あははは。考えてもみてくださいよ。私の前であの胸を見せつけられた気持ちを」
そう言われて俺は朱音の胸を見る。
そして次は由香里の。
うん。分かるな。
「女性ってそういう視線気づくんですけど蓮先輩どこ見てました?」
「え……壁?」
「殺しますよ」
ニコっと笑う。
ただ目は全然笑ってない。
顔の上部と下部でこんなにも違う感情が表現できるものなのか。
今まで向けられてきたどの視線よりも殺意がこもっている。
「冗談冗談。気にすることないと思うよ」
そんな視線に耐えられず降参の意を込めて言う。
「おお先輩は貧乳派でしたか」
パッと顔が明るくなる。
壁はダメで貧乳は良いのか。
「いや別にどっち派ってこともないけど」
「あー、あれですか、先輩は女性は中身だよってほざく人ですか」
ほざくってなんだよ。
本当にそういう人がいるかもしれないだろ。
こんな会話をしている間にもリレーの熱は増していきアンカーの陽斗にバトンが渡った。
「蓮先輩って由香里先輩のどこが好きなんですか?」
朱音はリレーに興味がないのか俺に話を振ってくる。
まあ俺もさして興味がないのでいいのだが。
え、いまなんて言った?
「それはどっちの意味の?」
「恋愛の方に決まってるじゃないですか」
マジかよこの人。
距離の詰め方がバグなんだけど。
「ほらはやくはやく」
そう言って回答を急かしてくる。
「恋愛かは知らないけど俺に期待しないところが好きかな」
「おー、なるほど?」
いまいちピンと来ていないように言う。
「じゃあ私の好きなところは?」
「……」
「私たちの関係が崩れた音が聞こえました」
「崩れるほど関係あったか?」
「蓮せんぱーい」
泣き真似をして俺のお腹をぎゅっと抱く。
俺の腹に頭をグリグリと押し付ける。
「おい、リレー終わったよ」
「あれ?ほんとだ」
俺のお腹から頭を離し顔を上げる。
今は皆テントの前で応援しているので気づかれていないがリレーが終わったとなると話は変わる。
見た感じうちのクラスが1位だったようだ。
ゴールの所では珍しく陽斗が感情を爆発させて喜んでいた。




