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体育祭1

 6月2日。体育祭当日。

 日に日に気温が上がるこの季節に外にいるのは灼熱の地獄にいる気分になる。

 今もなお太陽は日に慣れていない俺の体を焦がそうとしている。

 意識が飛んで戻ったら体育祭が終わってた、なんてことがあればいいのに。

 そう思っているのは大体半数くらいだろうか。

 校長先生のくだらない挨拶をBGMにして体育祭の担当者の列からチラチラと周りを見る。

 俺のような人とは対照的に運動部に所属する人はいまかいまかと目を輝かせている。

 まあ何が言いたいのかというとここにいる生徒全員が早く校長の挨拶終われよ、と思っているわけだ。


 校舎の反対側、校庭の奥側にある2つのテントの1つ、紅組のテントに入る。

 凛もいるかと思ったが見当たらない。

 もしかしたら体育祭担当用のテントにいるのかもしれない。

「ぜってえ勝ぞおおお」

 3年生だろうか。長身の筋肉質の男子生徒が叫ぶ。

 それに呼応して周りも叫ぶ。

 そんなにやる気があるなら俺の徒競走も代わりに出てほしいものだ。

「よお、めんどくさそうだな」

 俺の肩に腕を回してそんなことを言う陽斗。

 相変わらず人の心を読む能力が高いことで。

「めんどくさいに決まってるだろ。運動苦手なんだから」

「そうか?意外と足早いし持久力もあると思うけど」

 容姿端麗、運動神経抜群の完璧人間でも目は悪いようだ。

 いやもしかしたら頭が悪いの方に分類されるのかもしれない。


 1競技目は3年生の徒競走。

 1巡目にはさっきテント内で叫んでた人が見える。

 スターターピストルの音が鳴ったと同時に走り出す。

「うっへえ、やっぱ龍先輩足速いなあ」

 龍先輩というのはさっき俺が見ていた人の事だろう。

 現在超独走中なので足速いと言われる人は1人だろう。

「よく知ってるな」

 さすが交友関係広男だ。

 俺なんて顔も見たことなかったぞ。

「お前の方が知ってるだろ。だってあの人生徒会役員だぞ」

 生徒会という事は俺と同じ体育祭担当者という事になる。

 となると担当者で集まった時もいたという事になる。

「……覚えてない」

 かなり時間を費やして思い出そうとしたが全く記憶にない。

「お前なあ……」

 呆れたように頭をガクッと落として言われる。

 しょうがないだろ。周りの視線を気にしないようにと生きている人間なのだから。

 

 次は3年女子だ。

 何巡か走ったが誰1人として見たことがない。

 正直見るのすら飽きてた頃やっと知ってる人がスタートラインに立つ。

「お、生徒会長さんじゃん」

 陽斗も気づいたようだ。

 前の巡の人たちが全員走り終わってからスターターピストルが鳴る。

「はあ!?速すぎだろ」

 陽斗が立ち上がって叫ぶ。

 それでもうるさく感じないのは周りの声援が大きすぎるからだろうか。

 そういえばどうしてこんな過剰な反応をするのだろうと思っていたが陽斗は去年の体育祭を休んだんだったな。

 雨の中練習して風邪をひいたのだ。

 馬鹿でもわかるくらいの風邪とは恐るべしだ。

「頭も良くて足も速くて顔も良くてスタイルも良くて性格も良くて……いったい何もんだよ」

 つい心の中でお前が言うなと言ってしまう。


 徒競走を走り終えた俺は体育祭担当者用のテントに向かう。

 そこでは凛が担当者メンバーに指示を出していた。

 指示を受けていた人と入れ替わるようにテントに入る。

「お疲れ様。まだやることないからゆっくり休んでてね」

 タオルを渡して凛はどこかに行ってしまう。

 生徒会長って大変なんだなと思う。

 特にふき取る汗も無いため首にタオルをかけグラウンドを見る。

 丁度由香里が走っているところだった。

「はっええ」

 僅差ではあったものの由香里は1位を取る。

 競り合っていたのは確か陸上部の人だ。

 なぜ吹奏楽部の由香里が陸上部の人に勝てるのか不思議でならない。

「あ!蓮、おつかれー」

 全く疲れを感じさせない満面も笑みを浮かべてテントに入る。

「お疲れ」 

 本当に疲れているか怪しいがそう返しておく。

「いやー危なかった。ギリギリ1位だったなあ」

 俺の隣のパイプ椅子に座ってそんなことを言う。

 今になって呼吸のペースが速くなっている。

「ていうか蓮意外と足速いね」

「周りの人が遅かっただけだと思うけど」

 俺の順位は1位だったがそれは俺の足が速いからによるものではないと思う。

「陸上部の人いたけど」

「……入って1日目とか?」

「1年生の時からいたね」

「……エイプリルフールだと勘違いしてる?」

「6月1日でしょ」

「……俺の走ってたレーンの土にバネが入ってたとか?」

「ないね」

「……天気イイね」

 話題を変えることにする。

 雑談配信で身に着けた俺の話術だ。

「そうだね。ちょっと暑すぎるかも」

「……え、俺の事嫌いなん?」

 行った後で肯定されたら傷つくことを思い出す。

「いや好きだよ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「ちょっと水飲みに行ってくる」

 そう言ってから立ち上がると腕をつかまれる。

「ダメだって。ズルいよ」

 何がズルいのか分からないが顔を真っ赤にして言われる。

 熱中症?

 自意識過剰に思われるかもしれないが俺は別にさっきの好きだよの意味を履き違えてたりしていない。

 勿論正しい意味の友人としての方で受け取っている。

 それでも直接好意を伝えられたことがない身としてはそれが恥ずかしく思えてしまうのだ。

 別に照れてるとかじゃない。照れてない。


 1年生の徒競走も終わりさっき凛に指示されて動いていた人が借り物競争の準備をしている。

 順番の事を考えると俺達1、2年がやった方がいいのだろうがどうせ凛は休んでてよーて言うと思う。

 

 借り物競争、よく小説の中でお題に好きな人と書かれていてラブコメが始まる競技を龍先輩は筋肉で1位を取る。

 簡単なお題を取って先頭を意気揚々と走っていた人はご愁傷さまだ。

 走り終わった担当者は休む間もなく競技の準備を始めている。

「なんか3年生だけ動いてて申し訳なくなってくるね」

 由香里がテントにいる他の人には聞こえないように少し近づいて言う。

「まあ生徒会長が言ってるからなあ」

 というのを免罪符に俺はゆっくりと休ませてもらう。

 勿論何か指示が出たら動く。

 それまではこうして休んでいるつもりだ。

 

 何故か1巡目で走ることになった借り物競争。

 お題の所まではゆっくり走って行く。

 俺のお題はタオルだった。

 ふつうのお題で安心する。

 もし好きな人とかだったら不可能だったからな。

 バーチャルの世界から連れてこなければならないことになる。

 さて誰から借りてこようか。

 交友関係の少ない俺では借りれる人はおのずと絞られる。

 由香里と陽斗は列に並んでいるので無理だろう。

 凛は準備をしているのか見当たらない。

 妹の瑠亥は白組のテントにいるので紅組の俺が入るのは気まずい。

 あれ誰から借りればいいんだ?

 ていうかタオルはさっき凛から借りたんだよ。

 借り物じゃなくて借りたものじゃダメなのか?

 借りたもの競争でいいだろ。

 絶望しながらあたりを見渡していると借してくれそうな人が目に入る。

 俺はさっきまで自分がいたテントに走って戻る。

「タオルある?」

 首にかけてあるのは見えているが前置きとしてそう言う。

「え?あ、はいどうぞ」

 察してくれたようで首にかけていたタオルを渡してくれる。

「ありがと」

 そう言ってゴールに走って行こうとすると、

「蓮せんぱーい。私から借りたんですから1位とってきてくださいねー」

 朱音が立ち上がって手を振りながら言ってくる。

 テントにいた他の人の鋭い視線から逃げるように全速力で走る。

 

「はぁはぁ……ゴホッゴホッ」

 俺は死にかけの人のようにゴール奥のフェンスに寄りかかる。

 何とか言われた通り1位でゴールできたが立てないほど体力を消耗している。

「お前めっちゃ足速いな」

 急に頭の上から言われ顔を上げる。

「話すのは初めてだな。俺、川崎拓(かわさきたく)。よろしく」

 そう言って手を差し出してくる。

 確か同じクラスの人だったはずだ。

 よく陽斗と話してる爽やかイケメンヤローだ。

「赤坂蓮。よろしく」

 息を整えてできる限り最小限の自己紹介をする。

 敬語じゃないのはこのタイプはどうせ後で敬語やめろと言ってくるからだ。

 差し出された手をつかむと思いっきり上に引っ張られる。

 握手じゃなかったのか。


 拓は紅組のテントに戻って行ったので俺は担当者用のテントに戻る。

 

1話で書ききれませんでした。

次話で体育祭が終わります。多分。

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