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謎の集まり

 寝落ちしたと思われる、枕の隣に置いてあるスマホを手に取り日時を確認する。

 土曜日。目をこすってもう1度見ても土曜日。

 土曜日なのにこんなに気が重いのは初めてだ。

 2度寝を決め込みたいが迷惑はかけられないので起きる。


 居間に行くとまだ見慣れないでかいソファーが置いてある。

 1人暮らしにはオーバースペックなそれを見て身支度をする。

 

 チャイムが鳴ったので見ていた舞希のアーカイブを閉じてドアを開けに行く。

 来たのは多分凛か由香里だろう。

 陽斗がちゃんと予定時間に来るはずがないから。

 ドアを開けると2人の女性が立っていた。


「おっすー」


「おはよう蓮」


 予想通りの2人だった。

 まさか同時に来るとは思わなかったが。

 

「おはよう」


 入ることを促すようにドアを大きく開けて押さえる。

 1人は慣れたようにもう1人は初々しく対照的に入ってくる。

 

「あれこのソファーあったっけ?」


「あー、買った」


「買った!?」


 由香里は驚いたように高い声を出す。

 凛は昨日見ているので驚かない。

 ちなみに昨日同じ反応をしていたのは秘密だ。

 

 このソファーは今日人が来るにあたって買ったものだ。

 舞希におすすめされて速攻でぽちった。

 事務所に置いてあるもので舞希もかなり気に入っていると言っていた。


「めっちゃ座り心地いいー」


 凛が昨日と同じことを言う。

 特にやることも無いため俺も座る。

 

 皆というか2人が話しているとまたチャイムが鳴る。

 陽斗にしてはかなり早い時間ではないだろうか。

 ドアを開けるとすぐに理由がわかる。


「蓮先輩、おはようございます」


 頭を軽く下げて挨拶してくる朱音さん。

 そして陽斗と海さんもいる。


「おはよう。一緒に来たの?」


 疑問は陽斗に向かって言う。

 

「ああ、家に来たんだよ。もっと遅くに行きたかったのに叩き起こされた」


「よかったな」


 何がいいのかは分からないが適当に返しておく。

 多分海さんに言われたんだろうな。

 心の中で崇め奉っておく。


「うわー綺麗ですね」


 朱音さんが家の中に入って言う。

 違うんです。物がないだけなんです。

 ちょっと罪悪感が芽生える。

 

「おーソファー増えてる。さすが有名配信者。稼いでるなあ」


 陽斗が俺にしか聞こえない声量で言ってくる。

 手刀を脇腹にさす。


「ウ゛ッ」


 脇腹を押さえてぴくぴくと体を震わせている。

 そんな茶番を繰り広げている間に皆は雑談している。

 ほんと何で集まることになったのだろう。


「え!由香里先輩って家隣なんですか?」


「うんそうだよ。つい最近知ったことだけどね」


「なぜか俺が1番早く知ったんだけどね」


 陽斗も会話に交じっていく。

 ヨウキャスゴイ。

 俺は飲み物を配るため冷蔵庫を開ける。

 昨日スーパーで買ってきたがもしかしたら苦手な人がいるかもしれない。

 聞こうと思ったが雑談しているので不可能に近い。というか不可能。無理。

 

「皆苦手な飲み物とかある?」


 凛こちらに来ながら聞く。

 皆特にないようだ。 

 

「手伝うよ」


「ありがと」


 聞いてくれてありがとうと、手伝ってくれてありがとうという2つの意味を込めて言う。

 

「これって何時までいるの?」


 陽斗が俺の代わりに聞いてくれる。

 もしかして皆俺の心読めてるのかと不思議に思う。

 

「私は特に決めてないですね」


「私も。予定もないし」


「私は12時くらいかなあ」


 まじかあ。

 由香里が12時までなのは部活があるからだろう。

 良かったことと言えば今日はコラボの予定がなかったことか。

 

「蓮ー。パソコン借りてゲームしていい?」


「代行になるだろそれ」

 

 流石の陽斗も女子会には混じれないようで暇だと言う。

 せっかく日本1位にまでなったのにBANはされたくない。


 結局この集まりは体育祭の愚痴大会となった。

 担当の人たちが言っていいのかと思ったが担当の人たちだから愚痴が出るのだろう。

 

「じゃ、またなー」


 そう言って陽斗と海さんは帰っていく。

 由香里と凛は既に帰っている。

 これで少しは気が楽になった……のか?

 2人を見送って居間に戻るとまだ1人ソファーにチョコンと座ってる。


「ごめんなさい。まだ居座っちゃって」


「いや大丈夫ですよ。特に予定もないので」


「ありがとうございます。1人暮らしですもんね」


 よく知っているなと思う。

 陽斗からでも聞いたのだろうか。

 

「何で敬語なんですか?」


「いや何でって言われても」


 舞希といい凪咲ちゃんといい敬語ってそんなに嫌なものなのだろうか。

 敬語でもタメ口でも話される機会が少ない俺は分からない。


「じゃあこれからはタメ口で」


 最近同じことを言われ過ぎてさすがに慣れてしまった。


「ふふ、よろしくお願いします。その調子でさん付けもやめてくださいね」


 今までの経験上絶対に言われると思った。

 敬語禁止とさん付け禁止はセットなのか。

 そう考えていると「1つお願いがあるんですけど」と朱音は敬語を使って言う。

 

「『rex』のプレー画面見せてくれませんか」


「え、俺の?」


「はい。他に誰がいるんですか」


 そんな満面の笑みで言われてもなあ。

 なんで『rex』をやっていることを知っているのか疑問に思いながら自分の部屋に行く。

 昨日片づけをしたので汚くはないはずだ。

 すぐにパソコンの電源がつく。


「見やすいように好きにしていいから」


 リアルで人に見られながらゲームをすることなんてないので緊張する。

 舞希達とやっている時とは違う種類の緊張だ。

 

「分かりました」


 そう言って俺の膝の上に乗ってくる。

 予想外の出来事に操作していた手が止まる。


「どうしたんですか?」


 顔だけ後ろを向いて言われすぐに操作に戻る。

 もしかしてこれ物凄くやばい状況なのでは。

 そう考え出すと思考は止まることを知らずフル回転し始める。

 上に座られているからか凄く体が熱くなる。

 顔もアンタレスのように赤くなる。

 まあ顔を見られることは無いと思うのでそこは安心だ。

 ただ朱音の背中がぴとっと俺にくっつけているので早くなった心臓の音は聞こえてしまうだろう。


 今回のランクマッチの初動は敵がいなかった。

 やっぱり配信してると来るものだなあと思う。何がとは言わないけど。

 戦闘が好きなので少し寂しく感じる。

 

 だが第3ラウンドになると残り5部隊という俺のランク帯では異例なことが起こっていた。

 まだ1度も敵と会っていない。


「何でこんなに減りが早いんでしょう」


 朱音も疑問に思っているようだ。

 もしかしたら朱音も『rex』をやったことがあるのかもしれない。

 ゴールド帯やプラチナ帯だと偶にこういうことがあるので朱音はそれよりも上という事になる。

 動画で見てるだけという可能性もあるが。


「あ!これチーターじゃないですか?」


 朱音がモニターに指を指して言う。

 そこには言われないと気付かないレベルで小さい、空を飛んでる人影があった。

 空中浮遊とオートエイムだろう。

 俺に気づいていないのでウォールハックは積んでないと思う。


 俺はウィンチェスターのスコープを覗いてそして撃つ。

 バンという銃声から少し遅れてキルログが流れる。


「え?……え゛ええぇぇぇ」


 俺も驚いたがそれ以上に朱音が驚く。


「何で今の倒せるんですか!?」


 目を輝かせて聞いてくる。

 何でって言われても弾が当たったとしか言いようがない。


 この試合は1位を取ったがキル数が少なすぎて-10ポイントになった。

 1位とってマイナス食らうって運営は何を考えているんだ。


「さすが日本1位は強いですね」


「ありが……ん?」


「ロータスさんですよね?」


 そりゃあゲーム名でバレるよなあ。

 完全にやらかしてしまった。

 

「私めっちゃファンなので生で見れて凄い嬉しかったです」


 俺にファンなんていたのか。

 

「まあ、うん。喜んでくれたならよかったよ」


 少し複雑な気持ちだがまあいいだろう。

 

「これじゃあフェアじゃないので私も言いますね。実は私、凪咲ちゃんのママなんです」


 ……


「ぅえ?」


 俺の脳のキャパオーバーだ。

 

「まあ配信に出たことは無いので分からないと思いますが」


 配信に出てたとしても舞希以外の配信は見たことがないので分からないだろう。

 スマホを見て朱音はバックを持ってくる。

 

「ごめんなさい、こんな時間までいて」


「帰るの?」


「はい。次来るときはパソコンと布団持ってきますね」


 うちでゲームしようとしてないか?

 そしてちゃっかり泊まろうとしている。


「あ!先輩のベットで一緒に寝るので布団はいらなかったですね」


「泊ってもいいから布団は持ってこい」


「はーい。ふふ、今日は楽しかったです。また遊びましょうね」


 そう言って帰っていく。

 1人になってから考える。

 パソコン持ってくるってことはやっぱり『rex』やってるよな。

 

 

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