有名配信者と2
レミアさんとclademさんと13マッチほどやった頃やっと緊張が解けてきた。
緊張が解けてきたからと言って普通に話せるようになったかと言ったら違うのだが。
ただそれでも最初よりかはスムーズに話せている……はずだ。
『あー疲れた。だんだん眠くなってきたなー』
レミアさんが言う。
ゲームをしているのとは別のモニターで時刻を確認すると既に3時を回っていた。
レミアさんが眠くなるのも当然だろう。
更にかなりの時間ゲームに熱中していたので体力も消耗していたのだろう。
『いやいやまだ寝ないでよ。もっとやろうよ』
『なんでよ。寝させてよ。最近生活習慣よくなってきてるからもう眠いんだよ』
『じゃあ昨日何時に寝たの?』
『……朝の8時くらい……』
『何が生活習慣よくなってきてるだよ』
・やばw
・正気かこの人
・もう寝ろよ
・配信者の鑑
・生活習慣終わってて草
・逆に何でこの時間に眠くなる
俺も長時間配信しているので視聴者も慣れているためこういう反応を見ると正常な感性を持っているのだなと思って安心する。
ただ俺の場合は学校があるのでちゃんと夜――深夜ともいう――に寝て朝起きているのでそういう意味では俺の視聴者は慣れていないのだろう。
それにしても8時ってなんだ。
どれだけ配信してるんだ。
いや配信してるとは限らないのか。
その場合8時まで何してたんだ。
生活習慣終わりすぎだろ。
もっと俺を見習った方がいいよ。
『もう、うるさいなあ。じゃあ朝までやる?』
『やるー!』
『lotusさんもやるよね?』
なんか圧を感じる。
コミュ障に圧をかけてはいけないって習わなかったのか。
「あ、はい。俺は何時まででも行けますよ」
そう言って俺たちはまたマッチを始めた。
だんだん降りる場所が固定化されてきて漁ること慣れてきたので会話をしながらプレーすることがスムーズに――コミュ障基準だが――できるようになってきた。
『はーいウィンチェスターはっけーん』
なんだかテンションがおかしくなったレミアさんが言う。
『よーしロータスさんにキャリーしてもらうぞー』
なんかクラデムさんもテンションおかしくなってないか?
『ウィンチェスターを持った僕らのロータスさんは最強なんだからな』
絶対この人たち眠いだろ。
脳が働いてないよ。
『ロータスさんはいつも誰とゲームしてるの?』
脳が死んでいてもちゃんと質問してくる。
配信者すぎないか?
俺は2人より比較的起きてる脳を頑張って使って喋る。
「いつもはリア友とやってますね。ただルーター壊れたらしくてゲームできないので今日は1人でやってた感じですね」
『他の友達とかネットで募集とかしないの?』
「rexやってるリア友が1人しかいないので。後コミュ障はネットで募集なんてできません」
・草
・これは俺にも刺さる
・友達いるだけいいだろ!!キレるぞ!!
・コミュ障激怒でワロタ
・今まで2人でrexやってたの?
『え、てことはさ2人でチャンピオン帯まで来たの?」
「そうですね」
『めっっっっっっちゃ強いじゃん』
何故レミアさんがここまで言うのかというとチャンピオン帯の1個下のダイヤ帯からポイントを盛る難易度が爆発的に上がるからだ。
どれくらい難しいかというとプロくらいの実力者が3人集まらないとポイントを盛ることができないくらいだ。
そのせいでチャンピオン帯の人が少なくダイヤ帯の人とマッチングしたりする。
「でもレミアさんもクラデムさんと2人で来たんじゃないんですか?」
『いや3人でやってたよ。ただ今日は予定があるらしいから2人でやってたんだよ』
「そうなんですね」
そんなことを話しながらチャンピオン帯を蹂躙していく。
1人でやっていた時よりも圧倒的に盛れている。
わちゃわちゃふざけながらやっているはずなのに何故だ。
まあ、明確な理由があるのだが。
ある、というか居る。
この2人が強すぎるのだ。
正直俺は日本1位という事でそれなりに自信があったのだがこれでは自信喪失してしまいそうだ。
このマッチも残り3部隊になってしまった。
いやほんとに早すぎない?
ポジションも山上で安地内だと1番強いだろう。
完璧すぎるな。
この2人が日本1位の方が納得がいく。
『あ、敵いたよ』
『ほんとだ』
レミアさんが敵を見つけてピンを指してくれる。
毎度のごとくレミアさんとクラデムさんがエリアを広げてくれて俺の射線が通りやすくなる。
そこからは相手の頭に弾丸を打ち込む作業。
こんなんでいいのかチャンピオン帯。
いやまあ、ダイヤ帯の人も来て実力差あるんだろうけど、それでもさ……
3人分のキルログが流れるとこちらに走ってくる敵を見つける。
さっきの戦闘で弱った俺たちが回復する前に倒したいため来ているんだろうが残念ながらこちらは被弾ゼロで体力マックスだ。
俺は特に何も考えず初心者のように真っ直ぐ走ってきた敵の頭を抜く。
そこで俺は今まで生きてきた中で一番驚いた。
凄いフリックを決めたとか、後ろの人にもあたって2枚抜けたとか、そんなことではない。
俺が驚いた原因は今倒した敵の名前だ。
このゲーム、ダウンさせたりキルをすると画面の下に相手の名前が表示されるのだが、今表示されている名前は『碧舞希_vt』。
さっきまでというか未だに隣のモニターに映し出されている俺の推しだ。
「え゛?嘘だろおおおおお」
『うわ、びっくりした。どうしたの』
『めっちゃ声でかいじゃん』
・うるさw
・うっさ
・この時間に出していい声量じゃない
・どしたん
・今倒した相手舞希さんか
・本物やん
放心状態の俺をよそにレミアさんとクラデムさんが残りの2人を倒して気づいたら1位を取っている。
「やばいやばい……俺……舞希さん……倒しちゃった……やばい……ちょっ……やばいって!!」
『あはははは。オタク出てるって』
『あー、なるほどね。今のVtuberの碧舞希さんだったのか』
『でもさ碧さんってこのマッチに入れるほどやってたっけ?』
放心状態だった俺は今の質問を聞いて思考が回りだす。
基本的にオタクは自分の推しの話が出るとこちらのターンが始まる。
「いや舞希さんはそんなにやってないんですけどパーティーメンバーの2人が今ダイヤ帯なんですよ。今度ある大会のメンバーで今から練習してるんですよね」
『めっちゃ早口じゃん』
仕方ないだろ!
こっちはコミュ障でオタクなんだぞ。
『ロータスさんって碧さんのこと好きなの?』
「え?あ、はいそうですね。配信者の中で1番好きです」
ちょっとした自慢だが俺は舞希さんがデビューしてからリアタイしなかったことなんてない。
他の人の配信に出ていてもすぐに聞きつけリアタイする。
唯一参加型に参加できていないのが遺憾だがコミュ障にそんなことできるはずもなく。
『倒した時の反応やばかったもんね』
『あんなおっきい声出して怒られないの?』
「あ、俺1人暮らしなんで大丈夫ですよ」
『へーそうなんだ』
『どうする2人とも。もうこんな時間だけどまだやる?』
『あれ?明日っていうか今日なんだけど、何曜日だっけ』
『月曜日だよ』
ん?月曜日
俺は心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
『そっか僕月曜日予定あるからもうやめようかな』
「え、今日月曜日なんですか?」
『そうだけどなんかあった?』
「今日学校でした……」
『『あ……』』
あー……その……うん……なんていうんだろ……終わっ……た……