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誤解が……

「あら由香里、何してるの?」


「あ、お母さん!おかえりー」


 家に入ろうとしていた体はそんな会話によって止められる。

 陽斗と綾さんが去った方を見ると由香里によく似た女性が立っていた。

 違うのは髪の長さと色くらいだ。

 ここで関係ないように家に帰ると何となく失礼な気がしてできなかった。

 

「お隣さんですよね。初めまして由香里の母の花澄(かすみ)と言います」


「初めまして赤坂蓮です」


 制服を着ていたからか「由香里の母」という説明をする。

 1年ここに住んでいるのに初めましてと言われて出不精なのを再認識する。


「住み始めて1年くらいよね?それなのに今初めて挨拶するの不思議な感じよね」


「まあ俺1人暮らしでほとんど外でないので会わないと思います」


「その年で一人暮らしなの?今日のお夕食は自分で作るの?」


 こういう反応を見ると本当に由香里に似ていると思う。

 いや由香里が似ているの方が正しいか。

 久しく話していなかった母と話したように感じる。


「そうですね今日は」


 陽斗が今日生徒会があると言っていた時に思い出した。

 ただ作ると言っても冷凍食品だ。

 誰かに振る舞うわけでもないのにわざわざ面倒臭く作りたくないからね。

 

「じゃあうちで食べていかない?」


「え、いやいや大丈夫ですよ」


 唐突過ぎてびっくりしてしまう。

 提案は嬉しいのだがさすがに気まずいので断っておくが……


「遠慮しなくて大丈夫よー。さあおいでおいで」


 肩をつかまれ強引に家に連れ去られる。

 顔だけで後ろを見ると由香里が「ごめんね」という様に顔の前で手を合わせている。

 

「お母さんご飯作るから蓮君は由香里と遊んでてねー」


 理由は分からないが心臓にちくっとした痛みが走る。


「え、いや手伝いますよ」


 さすがにご馳走になる立場なのでそう言うが花澄さんはまるで聞こえていないかのようにリビングに歩いていく。


「こうなったらお母さん何も聞かないよ」


 由香里に連れられ部屋に入る。

 間取りは同じはずなのにおしゃれすぎておよそ同じマンションとは思えない。

 俺の家は物がなさ過ぎて綺麗に見えるが由香里の家はそれとはまた違った綺麗さがある。

 由香里の部屋は父からもらったと言っていたごついパソコンが光り輝いている。

 ただそれが違和感を覚えないようにこの部屋に馴染んでいるので不思議だ。


「適当に座っていいからね」


 そう言われたがどこに座っていいかわからず由香里と床のテーブルをはさんで対に位置するように座る。


「なんか緊張しちゃうな」


「由香里は慣れてると思ってた」


「なんでよ」


「え、ほらよく友達とかと遊ぶのかなって」


「あーなるほどね」


 今の由香里の反応で友達認定されていない説が出たな。

 今思ったが女子の友達……と俺は思っている人の家にいるってやばいな。

 

「それよりごめんね。お母さんが勝手に話し進めちゃって」


「俺は大丈夫だよ。何なら助かってるまであるし」


「そっか、なら良かった」

 

 お互い何をするわけでもなくただ座っている。


「最近配信楽しそうだね」


「そうだね楽しいよ。って見てるの?」


「そりゃあもちろん」


 なにがもちろんなのかは分からないがちょっと恥ずかしくなる。

 何か変なこと言っていないよなと心配になる。


「V杯の時かなり悩んでたみたいだからちょっと心配でさ」


「あったなそんなこと。あの時はかなり由香里に救われたよ」


「へへ、そっか、ならよかった」


 満面の笑みを浮かべる。

 

「ただV杯終わった後の方が辛かったな」


「あーなんか言ってたね」


「うん、まじ何にも手に付かなくてさ、あの時はやばかったなー」


「その時から雑談配信増えたよね」


「そうだね、意外と面白いことに気づいた」


「え、その前の時は面白くなかったってこと?」


 笑いながら聞いてくる。


「いやーだってゲームしてた方が面白いし」


「それもそうだね。あの時さ何で雑談配信しようって思ったの?ゲームもできないレベルだったんでしょ?」


 そのときの事はかなり鮮明に覚えているので考える間もなく答える。


「別件で舞希と話しててその時に相談してさ」


「へー」


「ほんと凄いよあの人。自分のこともきちんとやって他の人の悩みに的確にアドバイスするんだから」


 俺が推しについて語りだすと由香里が両手を俺の頬に当てテーブルから身を乗り出す。

 由香里の髪が俺の顔に掛かるほど近づいてくる。

 その目はハイライトが消えたかのように暗かった。


「ねえ、私の前であの人の話するのやめて……ほしい。っごめん。ただの友達なのに気持ち悪いこと言って」

 

 言われたことを反芻しちょっと反省する。

 嫌いな人の事をオタクが長々と話すのは嫌だよなと思う。

 由香里が舞希の事を嫌いなのかは分からないがこの反応を見るに嫌いなのだろう。

 それよりもだ……よかったー友達って言ってくれて。

 俺のような人間は相手から友達と言ってもらわないと知り合いか友達かのラインが分からないのだ。


 俺が頭の中で反省会をしているとコンコンとドアがノックされる。

 世の母親は誰も同じようで返事を待たず入ってくる。


「ご飯できたわよー……ってごめんなさいお邪魔だっだわね。ご飯は温めなおせばいいからゆっくりねー」


 そう言ってドアの向こう側に消えていく。

 俺達はドアの方を見つめ数秒経ってから、


「っっっっっお母さん!違う、違うから!なんか変な誤解してる!お母さん!」


 由香里が大声でそう言いながら追いかけるように走って行く。

 何で母親という生物はこうも悪いタイミングで部屋に入ってくるのだろうか。

 そういう能力でも持っているのではないかと疑いたくなる。


 由香里の必死の説得により誤解を解いた後夕食をごちそうしてもらった。

 家は隣なので見送りはいいと言ったのに由香里は外に出てくる。


「ほんっとごめん。お母さんのせい、というか元はと言えば私のせいなんだけどお母さんに変な誤解させちゃって」


「気にしてないって。ちょっとびっくりしたけど」


「そういってくれると助かる。じゃあ気を付けて帰ってね」


「うん。まあ家隣なんだけどね」


「あはははは、確かにそうだね」


 俺が自分の家のドアノブに手をかけた時、


「ねえ蓮、また時間があったら遊びに行ってもいいかな?」


「いいよ。起きてるか分からないけど」


「ふふっ。じゃあ、また明日」


「うんまた明日」


 俺達は今日2度目の別れの挨拶をして自分の家に帰る。

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