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クリップが

 椅子に座ったまま思いっきり腕を上にあげて体を伸ばす。

 ずっと同じ姿勢だったので背中からボキボキと音がする。

 2人とも通話サーバーから抜けて静寂に襲われる。

 舞希の配信もいつの間にか終わっていた。

 ゲームをしていてちゃんと見れていなかったので初めまで巻き戻してもう1度見る。


 今日は配信を取ってなかったのでクリップを上げようと思い今日やったランクのクリップを適当に編集をしてツイートする。

 4部隊を1人で倒したクリップだ。

 感度を変えてからかなり調子がいい。

 

 イヤホンをサブモニター用のオーディオインターフェイスにさし舞希の声を聞く。

 あーまじで可愛い。

 およそ地球上の生物の遥か上を行くかわいさをしている。

 

 配信を見て口角を上げるという至福の時間を1通のメッセージによって強制終了される。

 ゲームをやめてデスクトップに戻ったモニターの右下に映されている。

 凪咲ちゃんからだ。

 今すぐサーバーに入れとの事。

 何でだと疑問に思う。

 舞希の配信が終わっているという事は凪咲ちゃんの配信も終わってるはず。

 イヤホンをさし直す面倒臭い工程を挟んでからサーバーに入る。

 配信をしていた舞希と凪咲ちゃんと慶さんがいた。


『蓮ちゃーん。遅いよーう』


 なんだかテンションが高い凪咲ちゃんが言……え?

 あれ?今……本名で呼んだか?

 俺は身の危険が迫ったテンレックの子供のような見た目になっている。


『おーい蓮ちゃーん聞こえてるー?』


 いややっぱ本名で呼んでるよな。

 何で知ってんの?

 意味わかんないって。

 本名バレとかマジでシャレにならないって。最悪や。


『大丈夫?蓮ちゃん』


「うっ……」


 推しに名前で呼ばれてる。最高や。

 ちょっとこれは破壊力高すぎるかもしれないな。

 なんか死んだはずの祖父母が川の向こうで手を振って……


『え、本当に大丈夫?』


「あ、はい大丈夫です」


 危ない危ない。もう少しで昇天するとこだった。

 

「何で俺の本名知ってるんですか?」


 ずっと気になっていたことを聞くと凪咲ちゃんが待ってましたと言わんばかりに意気揚々と答えてくれる。


『さっき蓮ちゃんがツイートしてたクリップで名前呼ばれてたんだよね。それよりさあ』


 いやなに次の話しようとしてんだ?

 さっきのクリップ?

 あ……そういえば由香里がいたんだった。

 いつもの癖で人の声を消さずに投稿したせいでバレたのか。

 ていう事は苗字はばれてないわけだ。


『嫁をおいて他の女とゲームするとはどういう事かな?』


「はい?」


 何言ってんだこの人?

 配信をするメンバーは決まっていたのだから仕方なくないか。

 

『嫁さん、他の女と遊ぶ夫の事どう思いますか』


『嫁じゃないし誰と遊んでてもいいんじゃない?』


『嫁さんはそう言ってますが夫はどう考えていますか』


 うっぜえこの人。

 後でブロックしておこう。

 ていうか今気がついたがついさっきクリップをツイートしたのに見てくれてるってことだよな。

 めっちゃうれしいな。

 舞希のチャンネル登録欄から俺を探してヘッダーに設定する。

 登録者25万人というのが見えて目を細めてできるだけ見ないようにして画面を戻す。

 

『何で私たちがさっきのクリップを見ているのかと疑問に思ったそこのあなた』


 もしかして凪咲ちゃんってテレパシー持ってたりする?


『それはあのクリップに映ってる通り私たちが蓮ちゃんに轢き殺されたからでーす!』


 ……え?同じマッチ入ってたの?

 最近配信者と当たりすぎな気がする。

 なんだ?俺は近々死ぬんか?


「まじ?」


『まじまじ。もしかして気づいてなかったの?オタク名のってるのに?それは世間は許してくれないよ』


 許してくれるだろ。

 すぐにクリップを見直してみると本当に3人の名前が映っていた。

 因みに由香里が俺の名前を呼んだのも確認できた。

 

『ていうかこれから蓮ちゃんって呼んでもいい?』


 凪咲ちゃんが確認を取ってくるがもうすでに呼んでるだろ。

 前もこんな感じだった気がする。


「ちゃん付けなんですね」


『うん。ちゃん付け確定』


「イタイからやだ」


『はいしか言っちゃダメ』


 まあ呼び方なんてなんでもいいけど。

 たださすがにちゃん付けは恥ずかしい。

 ローちゃんに関しては活動名なのでギリギリセーフだったが本名はアウト寄りのアウトだ。


『因みに聞きたいんだけど呼ばれたことない呼び名ってある?』


「えっと……それこそちゃんは無かったですけど……あ、全員呼び捨てなのでくんも無いですね」


 大体の人がこの『全員』と聞くと7割8割の人の事を想像するだろうが俺の場合は交友関係が少なすぎて本当に『全員な』のだ。


『だってよ舞希先輩』


『……あの、その……蓮君って呼んでも……いい?』


「え!?あ、はい。どうぞ」


 呼び名は何でもいいといったが俺の心臓がもつかは別の問題で……。

 既に心臓は悲鳴のごとくドクドクと音を立てている。


『じゃあ蓮ちゃんも私たちの呼び方変えてよ』


 凪咲ちゃんが提案してくる。

 舞希、凪咲ちゃん、慶さん。これからどう変えろと言うんだ。

 慶さんに関しては変える余地はあるだろうが他の2人は無理だろ。


『うーんそうだなあ……じゃあ私たちの事も本名で呼んでよ』


 !?

 

「は!?ダメダメダメダメ。何考えてるんですか!?」


 うーんとか悩んで出た結果が本名ってどういう思考回路してんだこの人。

 vtuberが言ってはいけないことランキング15位くらいの事を平気で言ってくる。


『運営に怒られるよ』


 良かった。舞希は正常らしい。

 

『ねえちょっといい?』


 俺が入ってから初めて慶さんの声を聞いた。

 いたんだったら凪咲ちゃんの暴走を止めてくれ。

 同期だから感覚麻痺してるんだろうか。


『配信切り忘れてた』


 ……はい。凪咲ちゃんお説教コースでーす。

 運営さん、ボコボコにしてやってください。

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