原因
制服からいつも着ている全身真っ黒の部屋着に着替える。
居間のテーブルの上には今日の夕食と思わしきご飯が置いてあった。
いつもは学校から帰ってきてすぐに食べるのでテーブルの上に置いてあるのだろうが今日は家に着くのがかなり遅れてしまった。
連絡して冷蔵庫の中に入れてもらえばよかったなと思ったが大して変わらいなと考えを改める。
夕食を温めて自分の部屋に運ぶ。
本当は舞希の配信を見ながら食べたがったが今はしていないようなのでスマホでツイートを見る。
スマホのロック画面には舞希がツイートした内容が映されている。
全然気づかなかった。
通知はオンにしてたはずなのに。
時間的には約1時間前。俺たちが買い物をしていた時間だ。
店内はかなりうるさかったので気づけなかった。
設定で通知の音を最大にする。
いやこんなことをしなくても外に出なければいいだけでは?
よしもう一生外でない。
舞希のツイート内容は凪咲ちゃんと慶さんとランクをするとのものだった。
大会のために『rex』を始めた舞希がこうして大会が終わった後もやってくれることが嬉しい。
配信が始まるのは後1時間後くらいか。
夕食を食べ終わり3人でやっている通話サーバーに入る。
まだ誰も来ていない。
いつもは俺が入るころには1人入っている人がいたので新鮮な気分だ。
特にやることも無いため昨日の舞希のアーカイブを見ながらエイム練習をする。
昨日の配信でやったとはいえさすがにプレーしていない期間が長すぎて中々当たらない。
全盛期と比べるとライオンとアリくらいの差がある。
いつもランクを回す前にやっていたエイム練習が終わるころに通話サーバーに1人入ってくる。
多分由香里だろう。陽斗がこんなに早く来るはずがないからな。
『ごめん遅れちゃって』
うん、当たった。
集合時間は決めていないので遅れたもくそもないのに謝ってくる。
俺は射撃訓練場から抜けてロビーに戻る。
フレンド欄を開いて由香里に招待を送る。
それにしてもフレンド増えたな。
しかもこの大半が有名配信者ってどういうことだ。
一生分の運を使ってもこんなことない気がする。
もしかしたら対価に来世の運も差し出したのかもしれない。
『2人だけどどうする?ランク行く?私が足引っ張っちゃうかもだけど』
「え?俺より由香里の方が100倍くらい強いから大丈夫でしょ」
由香里が『そんなことないと思うけど』というが事実だ。
今の俺とやるなんて足を引っ張るどころか1種の縛りだぞ。
『じゃあデュオにしとく?』
「そうだね。とりあえず陽斗が来るまでは」
バスが来てくれればランクなんて簡単に上げれるので俺はエイムをよくすることだけを考えよう。
サブモニターに舞希の配信待機枠を映す。
これで配信が始まってもすぐに見ることができる。
ただ今日はゲームをしながらなので明日アーカイブを見ることになるけど。
デュオモードを無双していく。
俺ではなく由香里が。
さすがにランクよりは敵が強くないので俺でも倒せる。
射撃訓練場じゃ分からなかったが意外と当たることに自分で驚く。
この試合は9キルできて意外と悪くない。
隣の20キルの人には触れないことにする。
『そういえば私まだご飯食べてないんだった。蓮は食べた?』
「ああ、食べたけど」
てっきり帰ってきてから通話に入るまでの時間に食べているのだと思っていた。
『別にいいんだけどさ何でこんな陽斗遅いんだろうね』
なんでツンデレみたいな言い方なんだ?
予定時間を決めてないとはいえ帰った時間を考えると確かに遅い。
ただあいつは予定時間の2時間後に来る男だ。
何ら不思議じゃない。
「まあもう少しで来るでしょ」
買ったアニメのグッツを抱きしめてニヤニヤしてる姿が想像できる。
あの風貌でオタクはズルだろ。ルール違反だろ!
一体あいつは何ができないんだ。あ、勉強か。
『最近感度沼ってるんだけど蓮の感度ってなん?』
安地の移動中に由香里が聞いてくる。
感度か、このゲームを始めてから1度も変えたことがないのでわからない。
設定画面を開いて感度を調べる。
「3だよ」
『え!?それめっちゃ高くない?」
そう言われても他の感度にしたことが無いため分からない。
見た感じ周囲に敵もいないためスマホで調べてみる。
感度計算と調べて出てきたサイトを開きDPIとゲーム内感度を入力する。
「振り向き8センチだって」
『たっか。よくそれで1位になれたね』
「由香里は?」
『今は1,4だよ』
「じゃあ俺もそれにしよ」
自覚は無いがどうやら俺の感度は高いらしい。
あ、ゲームの話だよ?
設定画面を開き1.4と初めて感度を変えてみる。
ゲーム内に戻りマウスをぶんぶん振る。
「うわおっそ」
『前の感度が高すぎたんでしょ』
そういえばコメント欄で『感度高くない?』って言われることがあったりしたような。
慣れるために視点を何周かぐるぐるさせる。
確かにこっちの方が安定感は高そうだなと思う。
無心でマウスを振っていると突然操作していたキャラが倒れる。
「あ、抜かれたわ」
『ええええ、ちょっと!なにやってんの!?』
焦ったように由香里が言う。
久しぶりにこういう倒され方をした気がする。
よかった陽斗がいなくて。
陽斗の前でこんな事したらグチグチグチグチ言われ続けてしまう。
俺を倒したことで詰めてきた敵は由香里に倒されてしまう。
強すぎかもしれない。
俺がどんなにトロールしても勝ててしまうのではないだろうか。
これは後で企画としてやろう。
勿論凪咲ちゃんに。
由香里は何となく動画に出しちゃダメな気がするし舞希には迷惑をかけられない。慶さんはなんかバレそうだから駄目だ。消去法で凪咲ちゃんである。
レミアさんかクラデムさんでもいいがもうあの2人の前でトロールをしているのでちょっと怖い。
『悪い悪い、遅くなったわ』
陽斗が入ってくる。
「どうせアニメのグッツ見てニヤニヤしてたんだろ」
『よくわかったな』
ほら想像通りだ。
『陽斗、ちょっと聞きたかったんだけどさ私たちが隣に住んでるの知ってたの?』
そう言われて俺も思い出す。
俺も疑問に思っていたが由香里もそうだったようだ。
『エエエエ。フタリッテヘヤトナリダッタノオオ』
滅茶苦茶わざとらしく言う。
絶対知ってたな。
『4月の初めに蓮の家に行ったとき隣の部屋から由香里が出てくるの見たんだよね』
ああ、あの2時間も遅刻した許しがたい事件の時か。
『まあそんなことどうでもいいじゃん。早くランクやろうぜ』
無理矢理話の流れを変えられる。
この試合でも1位を取り、というか由香里が1人で取った。
ロビーに戻り3人でランクを始めた。




