有名配信者と1
今俺の目に映っているのはレミアさんとclademさんのフレンド申請。
突然の出来事に俺の思考は停止を通り越して高速化していた
何故こうなってしまったのだ。
この2人との関りはさっきのマッチで偶々一緒のパーティーになっただけ。
そして2人のおかげで簡単に勝つことができた。
もしこれからも一緒にやることができたら日本1位なんて簡単に思えてしまうほどに。
だが本当に俺があのお2人と一緒にやっていいのだろうか。
相手はどちらも俺とは比べ物にならないくらい有名な方達だ。
何かやらかしでもしたら俺はもう配信者としていきれないだろう。
現実逃避したい俺の脳は『もしかしたらこのフレンド申請はただのフレンドになるためだけに送ってたり』なんて考えてしまう。
当然そんなことはないだろう。
あの方々は配信者なのだ。
偶々味方になった人にフレンド申請を送るだけ送ってその後も2人でやるなんてことはないはずだ。
つまりこのフレンド申請は『一緒にやりませんか』というメッセージと同義だ。
そんなこと言われたら答えは『はい』か『YES』か『是』しかない。
まあ、つまり俺は一緒にやるという選択肢しかないようだ。
もしもここで『NO』を選択したら相手のリスナーから反感を買って配信者として終わるだろう。
俺は意を決してフレンド申請を許可した。
続いてくるパーティー招待。
やっぱりな。
緊張で何もしてなくても心臓の音が聞こえてくる。
そんな俺のことは露知らずコメント欄は歓喜のあまり爆速で流れている。
いつもの配信じゃ見られない光景だ。
あの2人のリスナーも見に来てくれていることもあるだろう。
俺はパーティーに入りゲーム内チャットに書かれている『watcher』の通話サーバーに移動する。
2人のことを考えたくないからか俺は『watcher』って動画も見れて通話もできるなんて便利なアプリだな、なんてくだらないことを考えている。
サーバーには既にレミアさんとクラデムさんがいた。
まあ、2人で配信してたんだから当たり前なんだけど。
ここをクリックすると通話がつながる。
そう思うとさっきよりもはっきりと心臓の音が聞こえ汗が止まらなくなる。
今誰かが俺の緊張で歪んだ顔を見たら笑ってしまうだろう。
俺はいつもより時間をかけて肺に空気を送り込み吐き出す。
幾分か落ち着いたことを確認してからサーバーに入った。
トュルン
『お、来た』
『こんばんは、はじめまして』
1人は男性の中では高めで不思議な中毒性のある声。
もう1人はさっきゲーム内で聞いた時よりも透き通っていて綺麗な声。
『こんばんは』なんて言われて陽斗が帰ってからかなりの時間ゲームをやっていたんだな、なんて考えてしまう。
俺は声を振り絞ってしゃべりだす。
「は、はじめまして。lotus……って言います……」
語尾が弱弱しくなってしまった。
ただでさえ仲が良い人以外と話すことに慣れてないのに相手が有名人となると普通に話すことなんて不可能だ。
リスナーのみんなは笑っているが皆も俺の立場になったら同じようになるはずだ。
コメント欄を見てると無性に腹が立ってくる。
『存じてます。初めまして。どうもクラデムです。全然緊張しなくて大丈夫ですからね』
優しい声で言われて恥ずかしくなってしまう。
おい、コメント欄で笑ってる奴お前達の名前覚えたからな。
恥ずかしさのあまり無駄に鍛えられた記憶力を使ってリスナーに心の中で八つ当たりしておく。
『初めまして。レミアです。早速だけどランク、行く?』
「は、はい。俺は大丈夫です」
『よし、じゃあやろっか』
俺は初めてのフルパに歓喜半分、緊張半分でマッチを開始した。
嘘だ。
本当は歓喜1割、緊張9割だ。
今回のマッチメイキングは数秒で終わった。
さっき15分待ったのは何だったんだ。
運営は俺に心の準備をさせる気がないらしい。
俺達はあまり敵の来ないランドマークに降りて物資を漁りつつ雑談をしていた
『ロータスさんはウィンチェスター使うんですか?』
クラデムさんが話題を振ってくれる。
配信者の鑑だな。
俺ならリスナーからの質問が来るまで無言なのに。
「そうですね。っていうかよく知ってますね」
『まあ、有名ですからねー。ウィンチェスター使って日本1位とる人なんてロータスさんだけだと思うよ』
『それも2シーズン連続だからね。ちょーすごいよね』
「あ、ありがとうございます」
・照れてる
・かわいいねー
・初めて照れてるところ見た
・いつもは敵なぎ倒してるだけだからな
・この2人に褒められたら誰だってこうなるよ
やばい、緊張しすぎて画面が震えている。
『ロータスさんって今日は何時までゲームできるんですか』
「何時まででもできますよ。まだ春休みなので」
『え?学生なんですか?』
「はい。高校2年生になりますね」
『高2!?わっか!!レミアちゃんもしかして僕ってもうおじさんなのかな?』
『いや、クラさんまだ23歳でしょ?』
『高2から見たら23歳なんておじさんでしょ』
『もしかしてクラさん1年が1000日位の世界で過ごしてるんですか?』
・草
・草
・23歳なんてまだまだでしょ
・高2でここまでうまいのか
・30超えた俺って……
・じじいじゃない?
・辛辣すぎて
凄い、会話が途切れることなくリスナーを楽しませている。
これが配信者。
対して俺はマッチメイキングの間トイレに行ったふりをして推しの配信を見る。
なんだこの差は。
『ロータスさんは今回も最終日本1位目指してるんですか?』
レミアさんから声をかけられ思考を切り替える。
「なれたらいいかな、って感じですね」
『そうなんですね。ちなみに今何位なんですか?』
「1位ですね」
『『え?』』
「え?」
どうしたのだろう。
もしかして失言してしまったのだろうか。
俺はもう配信者として生きれないのかもしれない。
大事な収入源が……
『もう1位なんですか?』
「そ、そうですね」
『なのにまだやるんですか?』
「今シーズン後1か月くらいあるのでやってないと抜かされるので。後単純にこのゲーム好きなので」
『なるほどねー。確かに好きじゃなかったら1日5時間とかできないよね』
「え、よく知ってますね」
『僕意外とロータスさんの配信見てるんだよね』
『ファンボなの?』
『そうそう。スランプになってるときに配信見て治ったんだよね』
・そうなの?
・ロータスさんの配信を見るとスランプから抜け出せるのか
・常人には関係ないよ
・やってることが異次元すぎる
・立ち回りとかは参考になる
・主に武器が参考にならない
あれ?もしかしてクラデムさんは俺を殺そうとしてるのか?
緊張でおかしくなった俺の体は褒められたことで息が止まる感覚に陥ってしまう。
その後もレミアさんとクラデムさんが会話を途切れさせることなくゲームが進んでいく。
その間に俺は2人から配信の仕方、みたいなものを学んでいった。
まあ、2人にその気はないだろうがいかに俺が配信者としていかに能力不足か思い知った。
俺は心の中で、できるだけ秘儀トイレに行ったふりは使わないでおこうと思った。
うん、できるだけだ。