厄介はリスナーも
舞希の配信が終わり後5分ほどで俺の配信の時間になる。
だが俺は起きた時とは別の意味で配信のやる気が最底辺まで下がっていた。
凪咲ちゃん何やってんだよと内心で罵る。
凪咲ちゃんのツイートのせいでさっきの舞希の配信では大勢の厄介リスナーたちが押しかけていた。
その人たちは俺の配信にも来ることが容易に予想できる。
いつもは目に入らないように気負付けていたものが偶々見えてしまう。
既に待機枠には4000人もの人が集めっている。
「なんでこんないるんだよお」
ついつい1人事が漏れてしまう。
もう吐きそうになる。ただ今日はご飯を食べていないので吐くものがないので安心だ。
というか待機枠に4000人いるって舞希とか天外さんレベルだ。
まあこの2人は普通の配信でこの人数が集まるのでヤバイ。
因みにさっきの舞希の配信は待機枠で2万人最高同接9万人と配信をしているからこそ分かる意味不明な数字に頭の上に？が出る。
10時になったことを知らせるデフォルトのアラーム音が鳴る。
いつも設定しているわけではない。舞希の真似をしてみただけだ。
多くの人にトラウマを植え付けた音で思考を切り替え配信を開始する。
声を発していないのにコメント欄は異常なほど早く流れている。
舞希の配信と比べると劣るがこれは俺の配信のコメント欄という事が重要だ。
「あーどうもロータスです」
今見ている人は知っているだろうが様式美として自己紹介する。
「何でこんな人いるの？」
察しはついているが一応来てみる。
同接は見ないようにしているので分からないがコメント欄はどんどん加速していく。
そして俺はある問題に直面する。あれ、俺何話せばいいんだ？
「えっとー……話の話題頂戴」
・舞希さん
・舞希さんのこと
南凪咲・君の嫁のこと話して
・舞希ちゃんと何話してたか
・コメント欄はっっや
・草
・舞希さんについてだよ
超高速で流れるコメント欄は2文字の同じ漢字が並び続けて流れていないように錯覚する。
舞希は何を話していたかをはぐらかしていたので俺に矛先が向いている。
「舞希とは配信のこと話してただけだよ」
少しはぐらかして言う。
一応本当の事だが主な話の内容とは違う。
南凪咲・そんなわけないだろ！！！
・そーだそーだ
・ほんとの事話せよ！！
・話せば楽になるぞ
・ずっと隠してるのもつらいだろ
・話してみろって
・はなせ！
集中砲火を浴びる。
そんなに気になることだろうか？と疑問になるが俺がリスナーの立場だったら確かに気になるなと自問自答する。
「俺の1周年と舞希の5周年の記念配信を一緒にやろうって話の打ち合わせだから。ほんとそれだけだから！」
舞希が配信で言ってもいいと言っていたので弁明に使わせてもらう。
弁明も何も本当の事だけどね。
本当のことを言ってもコメント欄は怪訝の声で溢れている。
何でこんなに信じてくれないんだ。
話をそらそうにもコメント欄は舞希一色で話のネタが無い。
「なんで信じてくれないんだよ」
・信じるわけないだろ！
・火のないところになんちゃら
・正直に話せよ
・絶対他にもある
碧舞希・ごめん―
・あ
・＾＾
南凪咲・嫁登場
「え゛」
舞希からのコメントに自分のとは思えない声が出る。
舞希と話すことには慣れ……てはいないがコメントされるのはもっと慣れてないので心臓がキュッとする。
続けて舞希がコメントしてくれて話してもいいとのこと。俺が相談したことだろう。
そのコメントによりコメントはさらに加速する。
「実はさあ今日何のやる気も無くてさ、そのこと相談したら雑談配信でもしてみればって言われて今やってるんだよね」
・ロスってた？
・俺もあのチームが恋しくてなんもやる気でなかった
・やることなんてないくせに
・雑談配信はできるんだ
・ヒント「推しから言われた」
・あー理解
・それならゲームもできたのでは
・続きはよ
続きって……なんでこれで終わりだと思わないんだ。
「あー、あと舞希に『rex』誘われたからやるかもしれない」
・ふーん
・2人で？
・ロータス「舞希に『〇ex』誘われた」
・まっずいw
・良くネタにされてるやつや
・デートかあ
おいコメント欄不健全だって。全年齢対象ってこと忘れるなよ。
舞希の事を聞けて満足したのかコメントの速度は落ち着きを見せている。
「リスナーなんか面白い話ある？」
衣吹さん流会話術だ。真似する相手を間違えてる気がするが。
・おいえぐいって
・彼女とわかれた
・ようこそ下界へ
・ロータスっていう人の配信おもろい
・話の振り方グロすぎ
・昨日同窓会あった。俺は今日知った
・ハブられてて草
「同窓会ハブられたのか。俺も将来同じ道を歩みそうで怖いな」
・でもお前リア友いるじゃん
・は？
・裏切ったのか？
・嫁もいて友達もいてゲームうまくて
南凪咲・神は異物を与えずじゃないのか！
・異物w
・バカがバレたな
凪咲ちゃんのコメント、誤字だと思っていたが他のコメントを見る限り本当に異物だと思っているようだ。
「凪咲ちゃん神が与えないのは異物じゃなくて二物だし余裕で神は二物を与えるよ」
言っていると自然に陽斗の顔がうかんでくる。
あいつ何物与えられたんだってくらいの主人公能力だからな。
結局この配信が終わった後別の配信でゲームをした。
起きた時の喪失感はその字もないくらい回復していた。
