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V杯が終わり・・・

 ベットから1歩も動けず喪失感に苛まれている。

 正確には分からないがかれこれ起きてから数時間は経っていると思う。

 こんなに何に対してもやる気が起きないのは初めてだ。

 絶対に飽きないと思っていた『rex』ですらやるのが億劫になる。


 理由は簡単ロスである。

 この1週間、いや1か月が物凄く濃いものだった。

 去年の俺では想像もしていなかった非日常感。

 五感の全ての機能が別人かのように感じ、まるで世界が俺中心に回っているように思えた。

 いや例えだからね?本気で思っていたらとんだ厨二病患者だ。


 4月に入ってすぐの配信でレミアさんとクラデムさんと偶々同じマッチで味方になって、敵として入っていた舞希を倒してしまって、参加型からの流れでコーチになって。

 登録者も20万人を超えて多くの配信者と知り合った。

 何の因果かは知らないがリアルの方も変化が出た。

 

 そんなまるで物語の1章が終わったような気分。

 何のやる気も起きずぼーっとしてしまう。

 この1か月で色づいた世界に黒い異物()が混じっているような。

 

 そんな時顔のすぐ横に置いてあったスマホから通知音が鳴り、振動する。

 通知音の種類で画面を見ていなくてもメールだとわかる。

 俺にメールを送るのは極少数なので誰かなと気になりスマホを手に取る。

 凄くゆっくりだが、今日初めてまともに動いた。

 舞希からだった。【1周年記念配信のこと話したいんだけど今大丈夫?】と。

 

 まただ、またこの感じだ、この世界に新しい色が加えられていく。

 そのせいで黒が目立ち醜く見える。


 大丈夫ですとメールを送り触る予定のなかったパソコンに電源を入れる。

 既に入っているらしいので早く起動してくれと心の中で急かす。

 

 俺の新たな居場所となったサーバーに舞希は1人でいた。

 起きた時の俺では考えられないがこの1か月と同じ気持ちで入る。


『おつー』


 舞希はいつもと変わらず入ってすぐに話しかけてくれる。

 

「お疲れー」


『ん?もしかして寝起き?』


「いや違いますよ」


 いつもと変わらないように意識していたが疑ってくる。

 もしかして不調なのを気づかれただろうか。


「そっか、それならいいんだけどね。それでローちゃんの1周年記念配信の事なんだけど――』


 粗方舞希の方で予定は組んできてくれていてスムーズに話が進んだ。

 あらかじめ予定を組んでくるのは舞希らしい。

 

『大丈夫?ずっと元気なさそうだけど』


「え?」


 気づかれないようにしていたことを言い当てられ動揺してしまう。


『違ったらごめんだけど』


「あ、いや……なんていうか、その……」


 今の状況をなんて言ったらいいのか分からず言葉が詰まる。


「何に対してもやる気が起きなくてずっとぼーっとしちゃうんだよね」


『そうなんだ』


「『rex』のやる気も無くてかなり困ってて」


『もしかしたら昨日のV杯でやり切ったからかもね』


 納得がいった。

 俺は今まで大きな目標を決めないでやってきた。日本1位になりたいとは思っていたがなれなかったらなれなかったでしょうがないとしか思っていなかった。

 だが今回は違った。

 チームのみんなは大会の約1か月も前から練習をしていて本気で勝とうとしていた。

 その姿に背中を押されるように俺ものめりこめた。


 舞希がそれならと話を続ける。


『『rex』以外のゲームやってみたら?他のゲームやらないって言ってたから。まあゲームじゃなくてもいいかもね』


「雑談とか?」


『うん。ほら20万人記念で雑談してたじゃん。結構リスナーに好評だったよ』


 普段エゴサをしないので知らなかった。

 何で舞希が知っているのかは今は置いておこう。


「じゃあ今日は雑談配信するかあ」


 正直今日は配信する予定は無かったが舞希の助言通り雑談配信をすることを決める。

 そうと決まれば枠を立てないと。サブモニターで配信の準備をする。まるで配信者だ。


『結構配信してるけど学校の友達とかとゲームしないの?』


 少しの無言の時間の後耐えきれなくなったという様に舞希が話す。


「たまにやってますよ。配信にもでてるし」


 配信に出てるのは陽斗だけだが。

 ただ最近はたまにしかやっていないので一緒にやりたいなと思う。誘いはしない、というか誘えない。

 コミュ障取扱説明書の1ページ目に書いてあることだ。


 突然イヤホン越しに不快感高めのデフォルト設定のスマホのアラームが聞こえてくる。


『あ!私そろそろ配信あるから抜けないと』


 そういえばこれから配信するとツイートしていた気がする。

 作り途中だった配信の枠の時間をずらす。

 

「配信時間にアラームかけてるの?」


 舞希さんはかなり時間管理が徹底していて今まで配信に遅刻したことは1度もない。

 もしかして毎度毎度アラームをかけているのかと気になり聞いてみる。


『え!?いや……今日は偶々だよ。アラームかけてないと時間忘れちゃうから』


 時間管理徹底しているんだなあと思うと同時に何故今日だけアラームをかけているのか疑問に思う。

 今日の配信は普段通りのはずでなにか特別なものではないと思っていたが。


『抜ける前にさ1つだけいい?』

 

 そういう前置きをしてから舞希は話す。


『もし『rex』のやる気が出たら……その時はコーチとしてじゃなくてまた一緒にやろ』


 そう言い残してサーバーから抜ける。

 推しからの誘いに思考がフリーズしたがすぐに再稼働する。

 つまりプレイヤーとして一緒にやろうという事だろう。

 あ、なんかやる気でてきたかも。


 この通話をしている時ある女性がとあるツイートをしていた。

 南凪咲【ラブラブだなあ】

 そのツイートはサーバーに入っている蓮と舞希のスクショと共に投稿されていて、舞希が配信を始めるまでの20分の間に1.8万イイね、9000リツイートされトレンド1位になっていた。

 

 

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