2次会は人狼ゲーム
嫌な思い出が蘇る2次会が始まる。
だが明日は日曜日なのでどれだけ長くやっていても問題は無い……はずだ。
そう思っていて実は明日学校だったなんてことがあったので少しドキドキする。
2次会でやるゲームは最近人気の『lanas in oculis』という人狼ゲーム。
俺は名前しか聞いたことがなく詳しいルールは分からない。
『じゃあ早速やっていくけどルール分からない人いる?』
提案者の天外さんが場を仕切って進行する。ルールがわかるという意味の少しの無言の時間。
ちなみに俺はルールは分からないがこういう時に発言できるほどのコミュ力を持ち合わせていないという意味の無言。
『ローちゃん分かる?大丈夫?』
なんだこの神は。舞希が気遣って声をかけてくれる。
「はい大丈夫です」
勿論嘘だ。ただここで迷惑をかける訳にもいかないので今まで使っていなかったサブモニターでルールを調べる。
個人によって細かいルールは変えられるが簡単なルールはこうだ。
陣営は市民と人狼。
市民はマップ各所にあるミッションを全て終わらせるか人狼を全員追放すれば勝ち。
人狼は市民と同数になるか妨害という能力を使ってミッションを増やし市民が時間内にそのミッションを終らせないと人狼の勝ちとなる。
詳しいルールは他にもあるがこれだけ覚えていればいいと書いてあった。
『これさあ皆ミュートにしてゲーム内で話さない?』
『近くの人に聞こえるやつ?』
『そうそう』
『面白そうだね』
『じゃあサーバーの方ミュートにしてゲーム内で話そうか』
天外さんがそういうとゲームが始まる。通話サーバーの方をミュートにしてゲーム内vcをつける。
俺は市民だった。今回のルールでは人狼は2人に設定されていた。
皆ばらばらに移動していったので俺も1人で行動する。
「こういうのって1人で行動してたら死ぬイメージしかないんだけどなあ」
ネタばれを防ぐためコメントはみんな閉じてある。
だからと言って無言という訳にもいかないので頑張って配信者らしく話す。
詳しくは聞こえないが皆話しているようだ。
ミッションの位置にピンが指さってあるのでそっちに向かっていく。
「皆配信してるから話すと思うけどもし人狼の人が『誰殺そう』とか言ってたらどうするんだろう」
もちろんコメントを見ていないのでこの答えが返ってくることは無い。
そうしていると急にミッションが増え視界が狭くなる。体がくっついていないと見えないくらいに。
これが人狼の妨害の効果だろうか。
疑問を抱えながら新たに増えたピンに向かっていく。
俺の位置からかなり遠かったからか、将又操作に慣れていないからか俺が行く頃には全員集まっていた。
『よかったあ。まだ全員生きてるね』
天外さんが率先して声を上げてくれる。
『皆ばらばらい移動するから怖かったよー』
凪咲ちゃんの言葉でばらばらに移動したのは作戦ではなかったことがわかる。
『丁度8人いるし4人づつで分かれて行動しようか』
天外さんの意見で俺、凪咲ちゃん、慶さん、天外さんで行動することになる。
近くの人に声が聞こえるというゲームの仕様上安心して移動できる。
『皆後何個ミッション残ってる?』
目的地がわからないまま移動している。
『これ終わったら後2個だよ』
ミッションの前に立った凪咲ちゃんが言う。
実際にミッションをしているかは分からないので嘘かもしれない。
『俺は後4つですね』
順番的に次は俺だろうか。
『俺も4つですね』
なるほどと言って天外さんが続ける。
『私も残り3つあるからかなり時間かかりそうだね』
そうですねと慶さんが同意する。
こういう風に全体の指揮を執ってくれる人がいるとありがたいと思うがどうしても疑ってしまう。
まあ4人づつに分かれているので簡単には殺せないだろう。
もしチームに人狼が1人で殺したとしたら残りの2人が見ているし、2人なら他のチームの人が分かるからだ。
4人でミッションを終らせているとまた新たにミッションが増える。
今回のは毒ガスというらしい。このミッションは時間内に終わらせないと市民側が負けるらしい。
毒ガスを解除する部屋に行くと既に別で行動していた人たちがいた。
どうやら毒ガスの解除には時間がかかるらしい。
俺は丁度この部屋にあったミッションをすることにする。
ミッションをしていると急に画面が変わる。俺の操作していたキャラクターが後ろから刺されて倒れる。
「え?」
何が起きたのか分からなかったが俺は死んだのだろう。
皆同じ場所にいて誰が殺したかわかっていないようだ。
死者用の別の通話サーバーに移動する。
俺が入るのと同タイミングで誰かが入ってくる。
『死んじゃったあ』
天外さんだった。
『ロータスさんは誰に殺された?』
急に話しを振られると心臓に悪いのでやめてほしい。
「凪咲ちゃんですね」
『てことは人狼は凪咲さんと慶さんなんだね』
という事は天外さんは慶さんに殺されたようだ。
俺は隠すことに意味をなくしたコメント欄をサブモニターに映す。
『話すの久しぶりだね』
天外さんとは配信外で1度舞希と3人でゲームをやったことがある。
『でも2人で話すのは初めてか』
「そうですね」
・珍しい組み合わせ
・ロータス誰とも絡みないから誰でも珍しいでしょ
・舞希さんは?
・同居者は例外だろ
・てか天天と話したことあるの?
・配信外でゲームしたことあるらしいよ
何を話していいか分からず素っ気ないような返事になってしまう。
『言うの遅れたけど1位おめでとうございます』
さっきのV杯の事だろう。
「ありがとうございます。ただ選手が強かったので」
『そんなことないって言おうとしたけど最後の舞希ちゃんのあれはやばかったね』
最終戦舞希が1人で1位を取ったことを思い出す。
『あれがまだ始めて1か月も経ってないって言うんだからすごいよねえ』
ゲームは俺たちの死体を見つけて議論をする展開になっている。
『ロータスさん』
「はい」
『舞希ちゃんの1番好きなとこは何ですか?』
「はい?」
・??
・急にどうしたw
・ライバル登場か
・時系列的にはロータスがライバルなのか?
・まあどちらにせよ三角関係
『だから、好きなとこです』
「え、1個だけですか」
突然投げつけられた質問に頭のCPU使用率を100%にして考える。
『うん』
「……全部ですかね」
『ズルくない?』
「いやズルくないですよ」
『でも私の方が舞希ちゃんのこと好きだよ』
「なんで急にマウント取ってくるんですか」
『リアルで遊んだことあるし』
「そっちの方がズルいですよ」
そんな不毛な争いをしていると死者用のサーバーに誰か入ってくる。
『衣吹ちゃーん。誰に殺された?』
V杯で天外さんのチームメイトだった……禰衣吹さんだ。
コメント欄を見て名前を思い出したなんてことはないからな。
『え、ウチは追放されました』
『そうなんだ』
今ので天外さんもゲーム画面を見ていないことが分かった。
『衣吹ちゃんってロータスさんとは初めまして?』
『あ、はい。はじめまして、『VIVID』所属禰 衣吹です』
自己紹介の時に声が小さくなるところを見ると俺と同類だと思う。
「あ、初めまして。ロータスと言います」
最初のあ、は俺もコミュ障ですよという意味のあ、だ。
これでもし衣吹さんがコミュ強だったら面白いけどね。
『『「……」』』
おい天外さんが話を振らないとずっと無言のままだぞ、と俺は責任転嫁する。
『衣吹ちゃん、ロータスさんになんか話振って』
そう天外さんが小声で言う。小声でも衣吹さんに聞こえるってことは俺にも聞こえることを知っているはずだが。
『えっと……なにか面白い話ありますか?』
「え、話の振り方グッロ」
多分悪気はないのだろうがナイフよりも鋭角な質問についついそう返してしまう。
『がははははは。質問やばいって』
でたー、天外さんのがはは笑い。
このがはは笑いは度々切り抜きをされているし舞希とコラボしている時に聞いたことがあるので俺でも知っている。
『じゃあ私が質問するからね。2人の好きな食べ物は?』
衣吹さんの質問に不安を覚えたのか天外さんが仕方ないという風に言う。
「俺は……特にないですね」
一応頑張って考えたものの何も思いつかなかった。
『ウチも特にないですね』
『うーん、『rex』以外の好きなゲームは?』
「他のゲームやらないですね」
『ウチも……』
『話が広がらないじゃん!』
『でも天先輩が話を振って広げる係ですよ』
『答えてくれないと無理だよ!』
ゲーム画面が切り替わる。
人狼の勝ちらしい。
『サーバー戻ろうか』
俺たち3人は他の人たちがいる元のサーバーに移動する。
『人狼強すぎるって!』
レミアさんが迫真の声で言う。
そういえば偶々レミアさんと同じマッチに入った日以来声を聞いていなかったのでなんだか新鮮な気持ちになる。
『ちょっと本気を出せばこんなもんだよ』
凪咲ちゃんがイキったように言うが実際強かったので何とも言えない。
『よしじゃあ2回戦目始めるよー』
結局10戦ほどやって1人が抜けたのを皮切りに皆やめることになった。
明日が学校じゃなくて本当に良かった。ただ生活習慣はぶっ壊れたが。
配信者が昼夜逆転してる人が多い理由が分かった気がする。




