本番
本番が始まるため通話サーバーに集まっている。
既に配信も付けて準備万端だ。
『うわ、なんか緊張してきたわ』
慶さんが少し笑いながら言う。
『あれ前もV杯で出なかったっけ?』
『そうだけど、今回マジで優勝狙えそうだから余計にさあ』
『確かにねー。ローちゃんは?』
「……死にそうです」
『え、1番緊張してるじゃん』
「起きてからずっとこんな感じです」
『じゃあコーチのためにも頑張らないとね』
そろそろ1戦目が始まるとゲーム内チャットで運営が知らせてくれる。
「じゃあ俺ミュートになるので」
『うわあああ。寂しいよおおおって舞希先輩の方が寂しいか』
『は?』
「まあ緊張してるよりはいいんですけどね」
もう試合が始まるのでミュートする前に頑張れと言いそうになったがさっきの俺の事を思い出す。
「本番だからって変なこと考えずいつも通りやれば勝てるので」
『よーし勝つぞー』
ミュートにする。
「やばいってえ。緊張で吐きそう」
・草
・まあコーチだから支障ないか
・がんばれー
・勝てるぞー
・緊張する
初動で被ってくる敵はいなかった。まあスクリムでもいなかったので当たり前なのだが。
1戦目はキルポの制限があるので高順位狙いだ。
かなり漁りも早くもう移動を始めている。慶さんのオーダーに従って安地内のビルを取った。
銃声1つ無く第1ラウンド終盤でもまだ誰も死んでいなかった。
「おい本番死ななすぎだろ。なんで誰も死んでないの?」
・スクリムと全然違う
・皆高順位ねらいか
・まあ1戦目だから
・こえー
・安地よるかな?
第2ランドが始まり第3ラウンドの安地がわかる。
取っているビルは白線の円の真ん中にあった。なんでこんなに安地読みがうまいんだ。もしかしたら立ち回りは慶さんに教えてもらった方がいいかもしれない。
やっと1つキルログが流れる。ただその後続けてキルログが流れることはなかった。多分逃げたのだろう。
3人の画面にも安地から来た敵がかなりの数映っている。
遠距離で舞希がダウンさせることはできるがなかなか確殺ができずキルが取れない状態だ。
周りの家に敵が入ってくる。倒しに行かないのは戦ってると周りの敵も来て漁夫られてしまうからだろう。立ち回りが終わっている俺でもそれぐらいの事は分かる。
第3ラウンドになると一気にキルログが流れ始める。
「え、急に皆死にだすじゃん」
・かなりアンチ狭いからね
・安地取り神だなあ
・キル取れないね
・1戦目はそんなに気にしなくていい
・天ちゃんのキルログ流れないなあ
第3ラウンドになるころには残り12部隊になっていた。
『そろそろ敵全員こっちに来るから舞希さん屋上から敵倒していいよ』
『分かった』
そういう会話が聞こえると舞希はスナイパーを持ち屋上に走って行く
「なんで今から屋上行くんだろう。取った時から屋上行ってたらダメなのかなあ」
・コーチさあ
・コーチ(立ち回りは知らない)
・コーチ「キルムーブしよう」
・めっちゃバカにされてて草
・自グレで死ぬから
・FA書かれてて笑ったわ
屋上に上った舞希は安地にのまれながら来る敵をダウンさせる。
今までの敵は家の中にいたのでダウンさせても起こされてしまったが今回は起こすことができない。
舞希の配信のコメント欄はナイスのスタンプで埋まっている。俺もスタンプ送っとこ。
最終ラウンドになり安地が無くなろうとする。周りの家にいる敵は安地を目指して走るが舞希に倒されていく。取っているビルが最終安地の中央なので最後まで舞希はスナイパーで敵を倒せる。
「これ1位あるぞ」
・まじある
・勝って―
・キルも取れてる
・慶の安地読みやばいって
・マジである
最終安地という事もありこのビルの1階に入ってくる敵がいる。
『これ下の奴ら倒しに行こ』
『私も行った方がいい?』
『いや俺と凪咲だけでいいよ』
『分かった』
『グレ投げてから行くよ。自爆しないようにね』
「……」
・草
・ネタにされてて草
・まさか自爆する人なんていないよねえ
・まさかねえ
慶さんが階段からグレネードを投げて1階にいる敵を撃つ。
凪咲ちゃんは今いる階の窓の淵に立ち近くにある電柱にエイムを合わせている
ピンを抜き3秒ほどしてから投げる。
凪咲ちゃんも階段の方に走って行ったのでグレネードの軌道は見えなかった。
ボンっとグレネードを爆発音がするとキルログが2つ流れる。
慶さんが敵の1人を倒すとダウンせずに箱になった。
「おいうますぎだろおおおおおおお!!やばすぎやばすぎ」
・うおおおおおおお
・ええええええ
・は?
・つっよ
・神グレ
・プロじゃん
『え、なんで敵2人死んでるの?』
『私がグレで倒したよ』
『どうやったん』
『外の電柱に当てて跳ね返ったグレが1階に入った』
『やば』
残りは3部隊。どちらも安地外で撃ち合いながら安地内に移動しようとしている。
『これ漁夫りに行くよ。舞希さんはスナでキルとってほしい』
そう言って外に出る。キルログで1部隊全員死んだのがわかると慶さんと凪咲ちゃんは突っ込んでいく。
敵はかなりヘルスがなかったようで胴体2発ほどで倒せて1位をった。
『っしゃああ。ナイス!!』
『『ナイス―』』
すぐにミュートを解除する。
「ないす。強すぎるって」
『やったー1位だー』
『慶のオーダーがめっちゃ良かったね』
『冴えてたわ』
「あと4試合あるからまだ集中力切らさないように」
『はーい』
『優勝するぞー』
2、3、4試合とやり今の総合順位は9位。
移動中に倒されたり多くの敵に絡まれて負けたりして中々いいとは言えない順位にいる。
『いやーきついね』
『敵全員強いわ』
「しょうがない」
『今総合9位らしい』
『うーん優勝争いできるか怪しいところだね」
『何ポイント取れば1位になるんだ?』
『3キル1位で今の1位と同じポイントになる』
「15キルくらいしないときつそうだね」
『これムーブ変えてもいい?』
「全然いいですよ」
『じゃあちょっと優勝してきますか』
「多分敵もこの試合が最後なのでかなり無理にキル拾いに来たりするので気をつけて」
『了解』
5試合目が始まったため俺はミュートにする。
「どんなムーブにするんだろう?」
・わからん
・頼む勝ってくれー
・勝たないとコーチの心臓がもたない
・草
・負けた時のコーチの負担大きいな
『で、どんなムーブにするの?』
『ああ、これは俺が1番強いと思ってる人がやってるムーブなんだけどさ』
『うん』
『キルムーブ』
『あー、ね』
『まあ1番強い人がやってたね』
『それにキルとらないと優勝できないからこれしかないんだよね』
初動は俺たちが下りてるところには被らなかったが今の総合1位の天外さんが下りているところはかなりの数の敵が下りていた。
移動を早くする必要がないためかなりゆっくり漁っている。
「おい舞希ウィンチェスター持ってるって」
・まじかよ
・やっぱ夫に似るもんなのかな
・好きな人のは真似したくなるって言うしね
・え、ウィンチェスターって強くないの?
・雑魚
・ゴミ
・カス
・武器じゃない
・散々な言われようで草
キルログを見て慶さんが叫ぶ。
『おい天外さん落ちたぞ』
『あるある勝てるよ』
『マジであるぞ』
さっきの初動ファイトのせいかもう20部隊まで減っていた。
移動中に6キル拾えた。戦っていた部隊を横から全員倒したのだ。本当ならどちらかの部隊が全滅するまで待った方がいいのだろうが今回はキルが欲しいため全員倒すことにしたのだろう。
キルログを見る限り総合上位チームはもうかなり倒されているようだ。
最終安地は木が密集した高低差の少ない場所。もうすでに自分たちを入れて4部隊しかいない。見た限り全部隊3人いるようだ。
かなり広くエリアをとっていたため敵に多対1で慶さんと凪咲ちゃんが倒されてしまう。
『うわまじかごめん。順位上げてほしい』
『いやもうまじでごめーん』
『大丈夫大丈夫』
「これかなりきつそうだなあ」
・相手全員3人いるか?
・多分他の部隊3人いるね
・いやきっついなあ
・これ優勝無いか?
・他の部隊がどれだけキルとってるかによる
舞希は木の裏でウィンチェスターをもってしゃがんでいる。
右側にいた移動しようとしている敵を危なげなく倒す。
ウィンチェスターはコッキングの時間があるためすぐに木の裏に隠れる。
さっき倒した敵の近くにいる敵が他の敵を狙おうと顔を出したところを抜く。
周りを見るために木の左右からちらちらと顔を出す。
ダウンさせた敵を起こしていた敵も打ち抜く。時間があるためゆっくり頭を狙って。
左側の敵からグレネードが飛んでくるが対角線の木の裏に移動してダメージを食らわないようにする。
左の敵も打ち抜く。今度は少ししか見えなかった頭をフリックで抜いた。
さっき倒した敵の味方が火炎瓶を投げてくる。木に引っ掛かり落ちてきたそれは丁度舞希の居る所に落ちる。
すぐに前にある木に移動するがHPは半分まで削られていた。
火炎瓶を投げた敵が詰めてきていたがそれも撃ち抜く。
目の前の木に敵が隠れたのが見えた。
グレを構えてわざと爆発までに時間がかかるようにして投げる。
グレのダメージを嫌って出てきた敵を倒す。
そして画面中央に出る。『1位』と。
『『『やったあああああああああ』』』
『勝ったああああああああ』
『これ優勝?』
『多分優勝』
『きたああああ』
『ローちゃーん勝ったぞー』
『生きてる?』
「……」
・生きてないみたいです
・草
・オタクくーん
・大丈夫かw
・絶命
体は熱く気づかぬうちに握っていた手のひらは汗で気持ち悪くなっている。
既に目の前の物がぼやけて見えるくらい目に涙が溜まっている。
「いや……ちょっと……やばいわ……今話したら号泣しそう」
・もう泣いてて草
・早いってw
・普通に泣いた
・おめでと
・オタク君泣く
『え、ローちゃん泣いてるの?』
『最後推しが取り切ったからねえ』
『だ、大丈夫?』
すぐにミュートを解除して話す。
「はい……大丈夫です」
『はははマジで泣いてるじゃん』
「もうほんと……嬉しくて」
『そうねそうね。私も久々にあんな大声出したよ』
『やばーい優勝嬉しすぎるなあ』
『俺今めっちゃ手震えてるわ』
そんな話をしているとこの通話サーバーに誰か入ってくる。
『お疲れ様でーす。聞こえますか?』
『はい聞こえます』
代表して舞希が答えてくれる。
『まずは優勝おめでとうございまーす』
『ありがとうございます』
『それでは1人ずつお話を伺っていきます。まずは慶さん』
『はい』
『まず優勝となりました率直な感想をお聞かせください』
『そうですね、途中全然いいオーダーができなくて泣きそうでした』
『いやでも最後の試合は凄かったですね』
『最後はコーチがスクリム入った時の動きを真似してみた感じですね』
『本当にお疲れさまでした。そして凪咲さん』
『はい』
『1戦目の最終版で使ったグレネード凄かったですね』
『ありがとうございます。座学した甲斐がありました』
『あのグレネードって座学なんですか?』
『はい。コーチの配信でやってて使ってみようと思って』
『なるほど。そして舞希さん』
『はい』
『初出場で優勝という事で最後の試合は凄かったですね』
『そうですね。こういう時に難なく勝っちゃう人を見てきたので何となく行けたっていう感じですね』
『ここにいますもんね。見てきた人が』
『なんか言い方変じゃないですか?』
『いやいやそんなつもりは無いですよ。そして最後にコーチのロータスさん』
「はい」
『大丈夫ですか?泣いてないですか?』
「いや……大丈夫じゃないかもしれないです」
『どうですか優勝という事で感想をお聞かせください』
「いやもう選手たちが強くて……俺コーチとは名ばかりで全然何もしてないのに」
『でも配信見てましたけどかなりいいアドバイスとかしてましたよね』
「そういってもらえるとちょっと楽になります」
『最後の舞希さんのプレー見てどう思いましたか』
「本当にうまくて……だってまだ始めて1か月も経ってないんですよ?」
『もうオタク出ちゃってますね。では改めて今回の優勝おめでとうございます。ありがとうございました』
そう言って通話サーバーから出ていく。
そしてまた入る音が聞こえる今度は4回。
『舞希ちゃーん、あーそーぼっあーそーぼっ』
『天ちゃん!?』
聞き覚えのある声だと思ったら天外さんか。という事は残りの3人はチームメンバーとコーチだろうか。
『どうしたの?』
『大会終わったしみんなで遊びたいなって』
2次会というやつだろうか。嫌な記憶がよみがえるな。
『私は良いけど……みんなは?』
『俺は良いですよ』
『私も―』
「俺も大丈夫です」
『よーしじゃあ2次会やるぞー』
こうして2次会が始まったのだった。




