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新たな芽【ポピー】

 ベットの中でスマホのロック画面を眺める。9:15、5月1日と上部にでかでかと書かれている。

 ついにV杯の本番の日がやってきた。

 日程は前から知っていたがやはり当日になると緊張感が違う。


 見慣れた部屋の光景。机の上には3枚のモニターがあってその下には2つのスピーカー。かなりいいやつらしい。机の下には2つのパソコン。今も早く使ってくれと言わんばかりにビカビカと光っている。

 机の隣の本棚には今では数えるのすら面倒になるほどの本が置いている。ちなみに全てがライトノベルである。一般小説は読むと眠くなるからね。

 置いている物も配置もいつも通りなはずなのにまるでここがどこか知らない場所のように感じる。

 本番開始時間はスクリム同様8時からなのでまだまだ時間がある。朝からこんな調子で大丈夫だろうか。


 朝食を食べようと思ったが食欲がわかなかったので食べないことにする。腹が減っては戦ができぬと言うが俺は戦をする側ではなく見る側なので大丈夫だろう。それに今食べても食べなくても夕食を食べれば変わらない。


 いつもより早く動く心臓と共にツイートを見る。

 V杯関連のツイートがかなりの数流れてくる。

 優勝予想をしている人もいればこのチーム強すぎなんて嘆いてる人もいる。特に天外さんのチームについて言ってる人が多い気がする。それもそうだスクリムの1日目以外全部総合1位だったのだから。

 初めて観戦画面で天外さんのプレーを見たときは戦慄すら覚えた。

 俺よりもいいエイム、俺よりも高度なオーダ……慶さんよりも高度なオーダー。俺と比べると大抵の人が上なので基準にならないだろう。

 天外さんのチームメンバーは2人とも『VIVID』の新人ライバーだとリスナーが言っていた。それにコーチはレミアさんだとか。

 そりゃああんな強くなるよなと納得してしまう。

 

 ツイートを見ていると舞希達のファンアートが流れてくる。

 銃を持ったかっこいいものから配信の1部をイラスト化したものも。速攻でイイねを押す。

 グレで自爆しているイラストもあったが誰の事だろうか?

 推しのファンアートを見ていると口角が上がってしまうのはオタクの共通の特性だ。

 下にスクロースしていくと舞希のまま(イラストレーター)のゆうぁとさんが描いたイラストを見つける。

 舞希と誰か分からない男が見つめ合っていてその隣で凪咲ちゃんと慶さんがニヤニヤしている。

 ていうかこの男誰だ。舞希と見つめ合っているこの無駄にイケメンなこの男は。段々殺意がわいてくる。いやガチ恋勢じゃないよ?

 ゆうぁとさんのこのイラストはとある文章と共にツイートされていた。

 【ロータスさんは想像で書いてます】

 ……あ、これ俺なの?そういえば俺のアイコンってランキング1位の時のスクショを使っているのでファンアートって書きづらいのか。


 イラストの俺は色の深い黒色で毛先がピンクの髪になっている。目の色は髪と一緒に見ているからかグレーに見える。

 服はゲーム内のスキンを参考にしたのか似たようなものになっている。太ももまである白のスーツのボタンを1つお腹の真ん中あたりで留め、下にはグレーのワイシャツと髪色と同じような色のネクタイをつけている。パンツも白色で黒のローファーと薄い手袋を身に着けている。

 うーんちょっとかっこ良すぎじゃないだろうか。


 その後もダラダラとツイートを見ていると陽斗から電話がかかってくる。急にかかってきて『びくっ』という擬音が似合う動きをする。今エッチなことを考えた人は正直に手を上げなさい。

 陽斗は何の連絡もなく電話をかけてくるのでトーク画面は通話履歴で埋まっている。


「なに?」


『今暇?』


「いや」


『何してんの?』


「心の準備」


『暇ってことね。ゲームしない?』


「日本語って理解できる?」


『できないからゲームしよ』


 こういう時の陽斗は承諾されるまでずっと言い続けることを身をもって知っている。


「……はあ、わかったわかった。今行くからまってて」


『ういー。早く来いよー』


「分かってるから」


 軽い毛布をベットの端にどけてパソコンを起動しに行く。

 無駄に性能を良くしたせいですぐについた画面にPINを入力する。


 陽斗とやるときにいつも使っている通話サーバーに入ろうとして手が止まる。通話サーバーに2人入っていたからだ。

 アイコンの情報でそれが陽斗と由香里だという事がわかる。

 由香里とは何回か一緒にゲームもしているしここ最近でかなり仲良くなったと思うのだがまだどうしても緊張してしまう。

 もう俺の心臓はボロボロだ。


「……」


 入っても喋れないのはコミュ障のパッシブスキルだ。


『蓮―早くパーティー入ってきてー』


「今ゲーム起動してるからちょっと待って」


『うい。配信しないの?』


「コメントを見ると俺の心臓が破裂するから」


『遂に本番だからね』


「きた。招待頂戴」


『オッケー』


 左上にパーティー招待が来る。

 入ると全員いてすぐにアンレートが始まる。


『そうだ。丁度いいから立ち回り教えようか?』


「アンレートで?」


『確かに。これ終わったらランク行くか』


「俺は良いけど由香里は良いの?多分俺達とやるとありえないくらい強い敵来るけど」


『私は大丈夫だよ』


『だってもう由香里ダイアになったし』


「え?ダイア?まだ初めて1か月も経ってないよね?」


『しかもソロで』


「……プロになろう」


『いやいや無理だって。それにソロだとダイアから全然ポイント盛れなくて最近は陽斗とやってるから』


「そもそも3人でやるゲームなんだからそれでいいと思うけどね」


『まあどんなに強い敵が来ても蓮が由香里の事守るから安心しなよ』


『うん』


「俺なのか……」

 

 正直最近全然まともにプレーしていないせいで守るどころか1人で戦う事すら難しいと思う。


 アンレートなため初動ファイトが終わるころには部隊数がかなり減っている。


「マジで強いな。俺なんもしてないよ」


『コーチばっかりやってるから腕落ちたんじゃない?』


「さっきVAL1ワンマガジン撃って15ダメージ」


『あははははは』


「俺からエイムを取ったら何が残るんだ」


『そのために立ち回り鍛えるんだろ』


「ちげーよ。推しをキャリーするために鍛えるんだよ」


 2人にキャリーされてアンレートは簡単に1位を取る。

 2人は2000ダメージ代なのに俺は300ダメージである。もしかしてエイムもブロンズ適正なのか?

 

『立ち回り教えるからランク行くか』


『よーし今日は蓮にキャリーしてもらおう』


『蓮は姫プもしてくれるよ』


「……ちょっと期待が大きすぎるかも」


 さっきのマッチを見たら無理だとわからないのだろうか。


 ランクはやはり減りが遅く漁り終わってもまだ28部隊いる。


『じゃあ蓮最終安地予想してみて』


 俺は何となくでマップの上部にピンを指す。


「この辺かな」


『うーん俺はここね』


 マップにもう1つピンが指される。マップの中央付近だ。


『蓮の予想が当たったら蓮が頭脳キャラ。俺の予想が当たったら蓮が頭脳キャラ』


『それどっちになっても蓮が頭脳キャラじゃない?』


「もしどっちも外れたら?」


『由香里が頭脳キャラ』


『私何もしてないんだけど』


「陽斗が頭脳キャラになる世界線は無いの?」


『今日の大会で蓮のチームが1位になったら俺が頭脳キャラ』


「おい、思い出させるなよ」


 忘れていたことで保たれていた平常心が一瞬にして消え去る。


 次の安地が決まる。マップには右上に次の安地の白い線が出ている。

 俺が指したピンも陽斗が指したピンも次の安地には入っていなかった。


「由香里が頭脳キャラね。立ち回り教えるって言った人は?息してる?」


『……キルムーブするか』


『なんかそれ既視感あるなあ』


 気づいたら昼くらいまでやっていた。2人とも昼食を食べるそうでそろそろやめるそうだ。


『じゃあそろそろやめるから』


「オッケー」


『本番頑張ってねー』


 そう言って陽斗が抜ける。


「最後になんちゅう爆弾おいていくんだ」


『ははは。やっぱり緊張する?』


「うん。周りからの期待が大きすぎて」


『そっか。見ないようにする……っていうのは難しいだろうから自分のやりたいようにやればいいと思うよ』


「まあ頑張ってみるよ」


『うん。じゃあ私もそろそろ抜けるね』


「分かった」


『頑張ってって言うと緊張しちゃうだろうから私は期待しないでおくね。でも配信は見るから』


 そして由香里も抜けて俺1人になる。

 イヤホンを外し椅子から崩れるように床に膝をつく。意味もなく口元を手で隠す。


 『期待しない』か……俺にとって1番冷たくて1番優しい言葉だ。

 コーチにもメンタルコーチは必要らしい。

 緊張は無くなり今すぐにでも本番が始まっても大丈夫なくらい緊張は無くなった。

 だがまだ心臓の鼓動が早いのはなぜだろう。

 床に置いてあるパソコンの熱が当たったためか体が熱い。

 

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