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救世主慶さん

 教室までの階段を羽でも付いているのかと思うほど軽い足取りで上る。

 気分は人生の最高潮と言ってもいいだろう。

 理由は簡単土曜日の配信である。

 舞希と配信できるなんて思ってもみなかった。

 ただ、当日とその次の日は逆に最低潮だった。

 寝ようと思っても寝れず永遠に頭の中で配信の反省会をしていた。

 だが睡魔には勝てず寝てしまった。

 そして目が覚めたらこの調子だ。睡眠って大事だね。


「おはよう陽斗」


 既に席に座って昨日の宿題をやっている陽斗に話しかける。


「ああ、おはよう。ご機嫌だな、なんかあったのか?」


 ニヤニヤと笑いながら聞いてくる。

 宿題をする手は止めずに。

 適当に書いているのではないだろうか。


「そりゃあ、なんかあったんだろ」


 陽人は配信を見ていたはずなので適当に言っておく。

 ふと慶さんから頼まれていたことがあったのを思い出した。


「お前の『rex』のアカウント消していい?」


 陽斗の残りの人生『rex』をできなくしてやらねば。

 勿論理由は舞希を倒したからである。


「……頭いかれたのか?」


「だってお前舞希倒したじゃん」


「へー()()、なんだ」


 急に体が熱くなるのを感じる。


「え、いやだって……そう頼まれたし……」


 一応弁明しておくが効果は期待できないだろう。

 より一層口角を上げる。


「蓮を弄れるネタが増えたな」


「弄んなくていいよ」


 一応言っておくがどうせ聞かないだろう。


「それよりさお前記念配信とかしないの?」


 そろそろ1周年だしそのことだろうか


「1回考えたけどさやること無くない?それに舞希の5周年記念配信にかぶるから」


 実は舞希と俺の初配信は同じ日なのだ。

 時期的には舞希が4周年記念配信をしている時。

 その配信が終わった後に俺が初配信をしたのだ。


「いや違う日にずらせばよくないか?」


「それ1周年って言えるのか」


「いや1周年の話じゃなくて20万人の記念配信のこと」


 ん?

 俺の頭の中は?で埋め尽くされている。

 20万人?何が20万人なのだろうか。

 分かっているがどうも現実だと思えない。


「えーと、何が20万人なの?」


「え、登録者だけど」


 そうだよなあ。それしかないよなあ。

 たぶんだがレミアさんや舞希とのコラボが原因なのだろう。

 それにしたって影響力強すぎだろう。


「でもやることないしなあ」


「適当に雑談でいいだろ。今までやったことないだろ?」


「コミュ障に雑談ができるとでも?」


「お前はコミュ障なんじゃなくて単に話し慣れてないだけだろ」


「そうなの?」


「そうだろ。この前の配信も最初ガチガチだったのに段々話せるようになっただろ?」


 この前の配信というのは舞希達とカスタムマッチをやったやつだろう。


「1つ聞くがお前小学校の頃話したことある人何人いた?」


「1人」


 数えるまでもない。

 小学校時代の唯一の幸だったのだ。


「絶対そのせいだろ。いいか?断言する、お前はコミュ障じゃない。雑談配信をしろ」


 なんだその暴論は。

 だがどうせ雑談配信はすることになりそうなので少し考える。

 そうするとちょっと前に考えていたことを思い出す。

 

「だけどさ1つ問題があるんだよ」


「何?」


「マイクの音質がゴミ」


 そう舞希を倒してしまって発狂する、今では300万回も再生されている切り抜きを見たときに思ったのだ。


「あーなるほどね」


 そこまで言って陽斗は宿題をする手を止めニヤッと笑う。


「じゃあ買えばいいじゃん。身近にマイクに詳しい人がいるだろう?」


「誰?」


「舞希さん」


 ??????????

 何言ってるんだこいつは。


 1時間目は数学だった。

 如何やら陽斗のやっていた宿題は数学だったようでさっき怒られていた。ざまあ。

 数学の授業は説明されるほとんどが既に知っている内容で退屈になってしまう。

 こういう暇な時間があるとついついさっきのことが頭をよぎる。

 何を言っているんだあのバカは、と思ってしまう。

 相手はVなのだ。了承してくれる可能性なんて万に一つも無いだろう。


『全然いいよ』


「え?」


 家に帰ってきて配信前、通話サーバーに舞希しかいなかったのでちょうどいいと思い話してみた。

 了承するかもと思って話したわけではなく陽斗に無理だったと言うために話したのだが話が思わぬ方向に転がっていった。


『結構予定が入っちゃってるから確認してみるね』


「あ、はい」


 流れで返事をしてしまった。

 1人通話サーバーに入ってくる。凪咲ちゃんだ。


『おっつー。何してるの?』


『今予定確認してるとこ』


『何で?』


『ローと買い……いやなんでもない』


 舞希が途中まで言いかけてやめる。

 正直俺としてもありがたい。どうせ凪咲ちゃんにからかわれるだろうから。

 まあ凪咲ちゃんは勘づいているだろうけど。


『何でもなくないよね?ねえねえ舞希先輩、なんて言おうとしたんですか~?』


『……言ったらどうせデートって言うんでしょ』


『はい!言います!』


『そんな元気に言われても……』


『それで何買いに行くんですか?』


『マイクだよ』


『あー、配信者にとっては大事ですもんね。でもネットで買った方が良くないですか?』


『……』


『種類もネットの方が豊富だし』


『……』


『どうして会おうとしたんですか?』


『……』


『事務所に止められることわかってますよね』


『……』


『はっ、もしかしてローちゃんのこと食べようと』


『違う違うそれは決して違う。そんなことしたら青少年なんたらで捕まるから』

 

『それは、へーそれはふーん』


『うるさいなあ』


『じゃあローちゃん私と買いに行こうか』


『は?』


「え?」


 声が裏返ってしまう。


『嘘だよ。どうせ事務所に止められるしね』


『別にそれくらいいいと思うんだけどね』


『そうだよね~』


 また通話サーバーに入ってくる音がする。


『お疲れ様でーす』


 慶さんが入ってきたようだ。

 頼む慶さん流れを変えてくれ。


『お疲れー』


『配信始めます?』


『私はいつでもいいですよ』


『私も―』


「俺も大丈夫です」


『じゃあ配信始めますか』


 流れが変わったことに安心する。

 もうこの話が出なければいいのだが。

 マイクはまあ、適当にネットでいいやつ買えばいいだろう。 

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