配信の前の会話
陽斗とのランクを終える頃には舞希さんとの集合時間になっていた。
色々――主に心の準備のため1時間くらい前にはランクを終えたかったが時間を忘れていた。
予定していた『watcher』の通話サーバーをモニターに映す。
既に舞希さんは入っていた。
待たせるのも申し訳ないと思いすぐに入ろうとするがマウスを掴んだ手が動かない。
そういえば舞希さんとちゃんと話すのは初めてだと思う。
参加型配信の時は話しかけられたが俺は話していない……話せなかったともいうのだが、そのため今日が初会話と言う事になる。
DMでやり取りして感覚がバグっていたが推しと話せるってかなりやばいことじゃ……
そう思うと手が動かなくなる。
だが予定時間にもなるし何より推しを待たせていいのかと言われると入るしかなくなる。
いつもより重い腕を動かし通話サーバーに入る。
『お疲れ様です。初めまして、これくちお所属、碧舞希です』
あ、死にそう。
え、なんでこんなに声かわいいの?
通話サーバーで待っていたにも拘わらず第一声が「お疲れ様です」、お疲れなのは俺ではなく舞希さんだと思うのだが。
因みに俺はお疲れではなく死にかけの限界オタクである。
「あ、お疲れ様です。初めまして、れ……lotusです」
あっぶねー。焦りすぎて本名言うとこだった。
『ふふ、緊張されてます?』
「あ、すいません。ちょっとだけ」
ちょっとではなくかなりの間違いだろう。
『どうしますか?もう配信始めます?』
「あー、舞希さんに合わせますよ」
『分かりました。じゃあ慶と凪咲ちゃんが来たら配信始めましょうか。それまでマッチ行きませんか?』
「分かりました」
ありがとう慶さんと凪咲さん。
2人のおかげで俺はギリギリ死なずに済んでいます。
話して数分で配信を始めたら俺は現世からおさらば出来る自信がある。
せっかく配信を始めるか聞いてもらったのだからそこで「まだ配信を始めたくない」と言えばいいだろうと言われるかもしれないができるわけないだろ。
推しの言葉は絶対なのだ。
俺達はマッチを始めた。
因みにアンレートのデュオだ。
ランクはフルパならどれだけランク差があっても行けるのだが2人だとランク帯の差が1つじゃないと行けないためアンレートになった。
詳しく説明するとシルバー帯の人はブロンズ帯からゴールド帯までの人とは行けるがそれ以外の人とは行けない、という感じだ。
『ロータスさんは今日何かしてたんですか?』
如何やらこのチームのコミュ力担当が決まったようだ。
「友達と買い物行ってその後3人で『rex』やってましたね」
『そうなんですね。なんか意外でした。配信見てるとあんまり外でないタイプなのかなって思ってたので』
「あってますね。今日は友達に誘われたので偶々ですね」
『なるほど。ん?前、配信で『rex』やってる友達1人って言ってませんでした?』
何で知ってるんだ。
配信見てるって言ってたし……俺変なこと言ってないよな?
「友達が今日『rex』始めたんです。それにしてもよく知ってますね」
『時間があるときはロータスさんの配信見るようにしてるんですよ』
ドキッとする。
頼む、俺の心臓にこれ以上負荷をかけないでくれ。
「何でですか?」
恥ずかしいから過去の配信のアーカイブ全部消そうかな。
『立ち回りとか学ぶために見てます』
めちゃくちゃ嬉しいが多分、立ち回り解説とかの動画見た方がためになるのではないだろうか。
『ちょっと気になることあるので何個か質問してもいいですか?』
「いいですよ」
立ち回りについてだろうか?
『今高校2年生って本当ですか?』
ん?
「まあ、はい。本当ですね」
『『rex』を始めた時期と理由ってなんですか?』
んん?
「去年の4月くらいから始めて理由は友達から誘われたからですね」
この友達というのは陽斗のことだ。
この頃はまだネッ友だったが。
『『rex』以外でやってるゲームありますか?』
んんん?
「昔はパーティーゲーとかやってたんですけど今は無いですね」
『なるほど』
その後も何個か質問される。
「ちょっと聞きたいんですけど」
『何ですか』
「質問って『rex』の立ち回りとかじゃないんですか?」
『そんなこと言ってないですよ』
いや確かに言ってないけどさあ、話の流れ的にそういうのだと思うじゃん。
「じゃあこの質問には何の意味が……」
『配信の話題作りですかね』
なるほど。トップ配信者はこういうをするのか。
「因みに何か参考になりました?」
『……まあ……そうですね……』
「参考にならなかったんですね分かりました」
『違う違う。そんなこと言ってないですって』
「冗談ですよ」
そんなことを話しながらマッチをする。
舞希さんはかなり強くなっていてどんどん敵を倒していく。
「ちょっと気になってたんですけど舞希さんの使ってる武器ってウィンチェスターですか?」
『そうですよ。ロータスさんの配信見てウィンチェスター使ってみたらすごい強かったので使い続けてるんです』
「ッスー、因みになんですけどこの『rex』っていうゲーム、ウィンチェスターって実は弱くて……」
『え!?じゃあ何でロータスさんは使ってるんですか?』
「かっこいいからですね」
『あー、もしかして逆張r』
「違います」
速攻で否定する。
別に図星で焦ってるなんてことはない。
『あははははは。じゃあどの武器が強いんですか?VALがおすすめっていうのは見たんですけど』
笑いながら聞いてくる。
ていうかほんとに配信見てるんだな。
「SRならM24でSMGならUZIが今は強いですね」
『ショットガンは強くないんですか?』
「ショットガンはゴm……あ、えーっと……カs……いや……武器じゃないですね」
『じゃあショットガンは使わないです』
3回ほど1位を取ったあたりで通話サーバーに入ってくる音が2回。
『お疲れ様です』
低くて耳にすっと入ってくるような声をしている。葉楚炉埜慶さんだ。
『お疲れー。凪咲ちゃんは?』
『いますいます』
対してこちらは高くて天使のような声。南凪咲さん。
因みに凪咲さんが天使のような声なら舞希さんは女神のような声だ。
『どうする?もう配信始める?』
舞希さんが聞く。
『始めちゃいましょうか』
『分かった。じゃあもう配信付けちゃうね』
『じゃあ私も付けまーす』
うーん、この疎外感。コミュ障にはきつい。
[改名のお知らせ]
葉楚炉埜累→葉楚炉埜慶