買い物、デートともいう
目が覚める。
カーテンの隙間から日が差し込んできて朝だと言う事を教えてくれる。
目を閉じたまま枕元に置いてあるはずのスマホを探す。
2度3度手を動かすとスマホをつかむことに成功する。
スマホの画面に光を灯す。
起きたばかりの目には厳しい明るさに思わず目を閉じてしまう。
数秒回復するのを待った後半目の状態でスマホの明るさを最低に設定する。
時刻を確認すると7時。
最近生活習慣を整えたことでこの時間に起きても寝不足という感じはしない。
布団をどけて起き上がる。
4月になってもまだ少し部屋の中は肌寒い。
机の上に置いてあるエアコンのリモコンで暖房をつける。
身支度をしに洗面所に行こうとしたが、ダイニングへ行く。
ご飯を温めている間に身支度をした方が効率的だと思ったから。
冷蔵庫を開ける。
いつもなら作り置きが入っているはずなのに今日の冷蔵庫にはなく不思議に思う。
だがすぐに思い出す。
そういえば今日は作らなくていいとメールしていたのだ。
初めから洗面所に行けばよかったなと少し後悔する。
顔を洗い歯磨きをする。
意識してなかったがいつもより時間をかけていたらしい。
ダイニングに戻り朝食を作る。
パンをトースターに入れてフライパンに卵を落とす。
朝食のメニューは食パンと目玉焼き。
朝食は凝ったものじゃなくてもいいだろう。
別に凝ったものは作れないが。
チン、とトースターの音が鳴る。
朝食を食べるとやっぱり作り置きの方がおいしいと感じる。
服を着替える為自分の部屋のクローゼットを開ける。
黒1色だった。
少しでもおしゃれをしようと調べてみたが持っていなければ意味がない。
黒のジーンズに黒のパーカーを着る。
昔瑠亥――妹――にもっとおしゃれな服買えって言われたっけ。
従っておけば良かったなと思う。
その上からウインドブレーカーを着て家を出る。
バスに乗って目的の家電量販店が入ったショッピングモールへ向かう。
ショッピングモール内の家電量販店の前で待ち合わせ予定だ。
休日だからか、かなり人が多い。
だが由香里の姿は見当たらない。
それもそのはず集合時間は10時。
現在の時刻は9時過ぎ。
来ているわけがないのだ。
時間をつぶすためにショッピングモールの入り口の近くにあったコーヒーショップへ行く。
入口に近づくほど人通りが激しくなる。
「蓮?」
数多いる人の会話の声や音楽、アナウンスの賑やかな音の中から聞きなじみのある声が聞こえてくる。
声の方を見ると由香里がいた。
「え、なんでもういるの?」
「いや……その……緊張してさ……家でじっとしてられなかったんだよね」
由香里が少しだけ視線をそらして言う。
「蓮は?」
「バスが来る時間が早かったから」
「そうなんだ」
由香里の顔がちょっとだけ赤くなる。
こうは言ったがバスじゃななくてもじっとしてられなくてこのくらいの時間に来てただろう。
「予定より早いけどもう行く?」
「そうだね」
早く行ったところで何の問題も無いため了承する。
さっきの家電量販店に入りゲーミングデバイスが置いてあるコーナーに行く。
「こういうのって光ってるイメージしかないけどなんか普通のと違うの?」
「反応速度が速かったり押しやすかったりする」
「うーん。かなり種類豊富で迷うね」
「いろいろ触ってみて自分に合ったの買えばいいと思うよ」
それから2時間ほど、これがいいかな、あれがいいかなと悩み買いたいものが決まったようだ。
「これでいいかな」
「いいと思うよ。白で統一したんだね」
「うん。白の方が可愛かったから」
レジにはあまり人がいなくすぐに会計することができた。
合計で1万8000円程。
デバイス一式買うとこれくらいするよな。
いやこれでも安い方か。
しれっと俺がお金を出そうとすると由香里に止められる。
「いやいや、出さなくていいって」
「こういう時は男がお金出した方がいい……ってネットで見た。」
「素直か。別に出さなくていいって。たぶんそれ食事の時の話じゃない?」
「あーそうだったかも」
そんな会話をしている間に会計を済ませる。
どんなに言われても済ませてしまえば関係ないのだ。
負担をかけないように買ったものは俺が持ち家電量販店から出る。
「うわもう11時じゃん。ごめんめっちゃ時間取っちゃって」
「全然大丈夫だよ。俺デバイス見てるの好きだから」
実際全然気にしていない。
デバイスを見るのに夢中になっていた時に由香里から声をかけられ我に返ったのだ。
もし俺1人だったら4時間くらい経っていたかもしれない。
「どうする?ちょっと早いけど昼食食べる?」
「俺は朝食の量少なくてお腹すいてるからいいけど由香里は?」
「私もあんまり朝食べなくてお腹すいてるから」
「じゃあ食べに行くか」
こうして俺たちはショッピングモール内にある飲食店を探しに行く。
「なにか食べたいのある?」
由香里が聞く。
「なんでもいいよ」
「1番困る回答だよそれ」
「じゃあハンバーガー系は?」
「あー……無しで」
「何でもよくないじゃん。うーんそうだな、たこ焼き?」
「……」
「顔で訴えかけてこないでよ」
そう言って笑う。
気づかなかったが顔に出ていたらしい。
「麵系は?」
「ありかも」
食べるものを決めている間に飲食店が集まっている場所に着く。
「うわーやっぱ混んでるねー」
休日の昼前ということもあり、かなりの人がいた。
これから昼になるにつれもっと人が増えるのだから恐ろしい。
「1番空いてるのはうどんか。うどんでもいい?」
「めちゃくちゃあり」
そう言って並ぶ。
1番空いているとはいえさっきの家電量販店と比べるとかなりの人が並んで居た。
「ねえ蓮ちょっと聞いてもいい?」
こういう切り出し方をされるとちょっとドキッとしてしまう。
それよりも由香里が緊張しているように見えるのは俺だけだろうか。
「いいけど……何?」
「ちょっと前にさ昼食食べてる時に蓮に彼女にいるのかっていう話になった事あったじゃん?」
「あー陽斗が言ってたやつか」
「そうそれ。その……蓮ってさ……本当に彼女いないの?」
「え?いやいやいやいないって。前も言わなかったっけ」
「そうだけどさ、本当なのかなって」
「本当だって。隠す理由ないし」
「じゃあ蓮のお弁当作ってた人って誰か聞いてもいい?」
「うーんなんていうんだろう説明が難しいんだけど昔からの知り合いというか友達というか幼馴染というか」
「その人とは付き合ってないの?」
「いやいや付き合ってないって。え、何?煽り?」
「あ、ごめん。ちょっと気になっただけ。不快になったらごめんね」
「全然大丈夫だよ。本気で言ったわけじゃないから」
何となくだが由香里の表情が明るくなった気がする。
何があったんだろうか。
そんな話をしていると人が進みうどんを買うことに成功する。
空いてる席を探しかなり奥の方だったが座る。
食べようと思っていた手を止める。
気が付いたら視線が由香里に吸い寄せられていた。
視線に気づいたのか一口食べた後こちらを見る。
「なにかあった?」
「え、ごめん何でもない」
そう言って俺も食べ始める。
何故見てしまったのかは俺でもわからない。
ただ今まで経験したことのない感情だったことだけは分かる。
昼食を食べ終え外に出る。
「由香里、帰りはどうするの?」
「親が迎えに来てくれる。さっき連絡したからもう少しで来るはず」
「……」
「……」
うーん気まずい。
今日はあんまり会話が途切れることが無かったのでより気まずい。
「蓮」
沈黙の中急に名前を呼ばれびっくりする。
「な、なに?」
「時間があったらでいいんだけどさ帰ってから『rex』教えてもらう事ってできる?」
「全然いいよ。多分俺の方が家に着くの遅くなるから家に着いたら連絡する」
「分かった。あ、迎え来たから行くね。またね」
そう言って微笑んでから車に向かっていった。
またこの感情だ。何なのだろうか。
まあ、分からないことを考えても仕方ないのでこのことは頭の片隅に置いておく。
俺は思考を切り替え陽斗に連絡する。