生活習慣整えよう
階段の手すりに体重をかけながらいつもよりゆっくり教室へ向かう。
階段を上るのも一苦労だ。
体力が無くなった人が登山をする時のような姿勢で力なく歩く。
教室に着いたら真っ先に自分の席に向かった。
誰かと話す体力は残されてなかった。
ちょっとでも休めるように机の上に腕を置きそれに頭をつける。
まだ新学期が始まったばかりだからか教室は賑やかだ。
そんな雑音の中からこちらに向かってくる足音が聞こえる。
その足音は丁度俺の左側で止まる。
俺の席の左側は窓なので用があるのは俺だろう。
そんな奴1人しかいない。
「よう蓮、眠そうだな」
おい陽斗話しかけてくるな。
寝不足の時に話しかけられると意味もなくイラっとしてしまう。
そのことはなるべく表に出さず顔を上げる。
「おはよう。寝不足だから寝させてくれ」
「無理。俺を家に住ませてくれなかった罰だ」
こいつほんとに。
まあ、朝のSHRまでもうすぐなのでそもそも寝れないだろう。
「昨日もそんな感じじゃなかったか?」
「ああ昨日は単純に学校あること忘れてた」
「バカなの?頭いいのにバカだな。それで今日は?」
「舞希さんの配信見てたら朝だった」
朝と言っても5時くらいだ。
この季節は日の出が5時くらいだったと思う。
だから一応寝たのだ。一応。
「お前もう配信見るのやめろよ」
無理に決まっているだろ。
声に出すことすら面倒くさいので心の中で言っておく。
そこでふと陽斗に伝えようと思ってたことを思い出す。
周りを見渡してから話し出す。
「そういえば俺、V杯のコーチやることになったわ」
「は?」
「舞希さんのチームのコーチ」
「夢とかじゃなくて?」
「夢見てたらこんな寝不足になってねーよ」
「あー確かに」
なんなら夢の方がよかった。
プレッシャーで心臓が破裂してしまいそうになる。
いや推しと関われるって考えると全然現実で良かったとなるのだが。
「まあ詳しいことは昼食の時に話すよ。もうSHR始まるから」
「ほんとだ。じゃあ後でな」
陽斗が去ったタイミングで先生が入ってくる。
担任ではない。
担任は来週の月曜日の入学式のタイミングで決まる。
今週の内に入学式の準備をするらしい。
先生が今日の日程を説明しているが頭に入ってこない。
寝ないだけ偉いと思うことにする。
4時間目が終わり昼食を食べるために陽斗と由香里が俺の席に来る。
こういう時にしれっと由香里も来るの、心臓に悪い。
「蓮、デバイス買いに行くのさ今週の土曜でいい?」
由香里が言う。
そっちの予定に合わせるとは言ったが思ったよりも早くてビックリする。
「あ、うん」
「へー。2人で買い物行くの?」
陽斗がニヤニヤしながら聞いてくる。
ぶん殴ってやりたい。
「そう。蓮詳しそうだから教えてもらおうと思って」
「なるほどね。蓮は頼りにされてるんだねー」
こいつは何を考えているんだ。
まあ、こういう時は無視が1番だ。
俺の少ない交友関係で身に着けた技術である。
「てか蓮お前よく今日弁当作れたな」
ここにいる3人全員昼食はお弁当だ。
朝時間のない俺がお弁当なのは不自然だろう。
「いや俺が作ったわけじゃないよ」
「……彼女か」
「何でそうなる」
「彼女しかいないだろ。蓮1人暮らしなんだし」
「違うよ」
「じゃあその弁当誰が作ったんですか?」
「……黙秘権を行使します」
「絶対彼女じゃん」
「違うって。作ってもらったけど彼女じゃないから」
「ふーん。まあいいけどね」
そうは言ったが未だ疑いの目を向けてくる。
5、6時間目の授業は……その……
正直に言おう。寝た。
結構頑張ったんだけどね。
お腹いっぱいになったらね、耐えられないよ。
このままではまずいと思い今日から生活習慣を良くしようと心に誓った。
あ、舞希さんの配信は見るからね?