転機の前の厄介事
「はあ、遅い」
俺――赤坂蓮は、自分の家の少し小さめのソファーに安座しながら、手に持ったスマホでネットサーフィンをしている。
つけっぱなしにしていたテレビには春になり新しく始まったドラマが映っているが、其の音声は俺の耳には入ってこない。じゃあ何でつけてるかって?無音でネットサーフィンするの寂しくない?ボッチって感じがして。
何故こんな無駄な時間を過ごしているかというと、今から俺の家に友達が来るのだ。と言ってももう予定の時間から2時間もたっている訳だが。
本当ならいつも通りゲームをしていたかったのだが、戦闘中に来られると鍵を開けれないのでこうしていつでも動けるようにしている訳だ。
鍵を予め開こうかとも考えたがそれはさすがに不用心すぎると思ったのでやめることにした。
ピンポーン
やっと来たようだ。俺は一応インターホンのカメラをチェックしてから、鍵を開けに行った。
「ごめん、遅くなった」
そう言って謝ってきたのは清水陽斗。俺の数少ない友達である。容姿端麗、運動神経抜群、おまけに陽キャでコミュ強という属性過多の主人公みたいな人間だ。
俺は陽斗を居間まで案内してさっきまで座っていたソファーに腰を下ろした。
俺の家は家具が少なめなので陽斗は床に座っている。カーペットが敷いてあるため痛くはないはずだ。
遅刻したんだし当然だよな?
「おいこの家、家具少なすぎるだろ。何でソファー1つしかないんだよ。床に座りたくないんだけど」
「仕方ないだろ1人暮らしなんだし。そんなに椅子に座りたいならあの椅子に座れば?」
そう言って俺が指点したのは、いつもご飯を食べるときに使っている椅子だ。
「わざわざ話に来たのに何で遠くで話さないといけないんだよ。丁度2つ椅子あるから蓮もあっちに座ろうぜ」
如何やら属性過多には我儘も入っていたようだ。
このことが学校の女子にばれてモテなくなってしまえ。決してモテてるのが羨ましいからとかではない。
このままソファーに座っていると話が進まないらしいので仕方無く椅子に座ることにした。
「早めに用事を済ませるために単刀直入にいうよ」
そう、こいつが今日俺の家に来た理由・・・
「俺をこの家に住ませてください!」
「無理」
「なんで!?」
「陽斗を住ませることで得られるメリットがない」
「そうだな・・・1日3食ご飯を作ってあげよう」
実際この申し出はありがたい。俺はあまり、というか殆ど料理をしないので作り置きがない時とかは食べるものに困ったりするのだが・・・
「料理できるの?」
「・・・スクランブルエッグくらいなら・・・」
如何やら決着はついたようだ。
そもそも何故こいつが俺の家に住みたがっているかというと、回線が強いかららしい。
俺と陽斗はかなりのゲーマーなのだ。
時間があるときはよく俺と一緒にゲームをしているのだが、陽斗の家のルーターが壊れてゲームができなくなったらしい。
両親の仕事が忙しくルーターを買うのが早くても1週間後になるらしいのだが、其れが陽斗は我慢できないらしい。
陽斗が買いに行くという案はめんどくさいからという理由で一蹴された。
「用件が済んだなら帰れ」
「ああ、そうだな」
そう言って陽斗はスマホを取り出し『watcher』で動画を見始めた。
こいつ言ってることとやってることが逆だぞ。お前は言語理解不能という属性も持っているのか?
因みに『watcher』というのは現在、世界で利用者数が最も多い動画配信サイトで、動画配信サイトなのにツイートもできたりする超万能アプリだ。
勿論俺も利用していて、ゲーム片手に推しを追いかけていたりするのだが・・・今はそんなことどうだっていい。
今問題なのはこいつが帰らないことだ。理由は分かっている。家に帰ってもネットが使えないためだろう。
こうなったら当分の間こいつは動画を見続けるだろう。
てな訳で俺は、対陽斗用必殺技を使うことにした。
「お前、今すぐ帰らないと海ちゃんに連絡するぞ」
「っ!!!」
効果は抜群だ!
海ちゃんというのは陽斗の1個下の妹のことなのだが如何やらこいつは妹には頭が上がらないらしい。それなのに今日海ちゃんとの予定をすっぽかしてまで俺の家に来たのだ。
海ちゃんはさぞお怒りだろう。
どうせ陽斗のことだし適当な言い訳をして海ちゃんを誤魔化すつもりだったのだろうが今海ちゃんに連絡されるとその作戦が使えなくなるため困るのだ。
何故俺が海ちゃんのことを知っているかというと俺にも1個下の妹――赤坂瑠亥がいるのだが、偶々俺が実家に帰った時丁度2人が家で遊んでいてそこで知り合ったのだ。
「帰るか?」
「帰ります!帰ります!帰らせていただきます!」
一件落着。
後これは俺には関係ないことだが、結局陽斗は家に帰った後、海ちゃんに怒られたらしい。自業自得だよね。
面倒事も去った事だし俺はいつも通りゲームもするため自分の部屋に向かった。ただいつもと違うことがあるとすれば、陽斗とゲームができないことだろうか。別に寂しい訳じゃないんだからね!!
俺は教科書やペットボトルなどで雑然とした机からイヤホンを見つけいつもと変わらない手つきでイヤホンを耳につけた。
もともと電源の入っていたパソコンでゲームを始めると同時に俺は『watcher』で配信を始めたのだった。
始めて小説を書きました。
誤字脱字、もっといい表現がたくさんあると思います。
そういう時は教えてくれると作者は泣いて喜びます。