第5話
本日2話目です。
「さっきは咄嗟にああ言ったけど、迷惑だったか?」
「いえ.......すごく助かりました。ジョンとキャシーは幼なじみではあるのですが、少し苦手でして.......。何がと言われれば困っちゃいますけど。パーティを抜けろと言われた時は、実は少しホットしていました、あはは.......」
特に悪くはなくても生理的にどうしても受け付けないという相手はいるだろうし、エミがそう言うのならばそうなのだろう。
「ここからが本題なんだけど、俺と本当にパーティを組んでみる気はないか?腕っ節だけならそれなりに自信はあるけど、まだ分からないことも多い。エミなら信用できるし、暫く色々教えて欲しいんだ。ダメか?」
「え?!えええええ?!」
エミの年齢は俺より2回り以上低い16歳。
ふんわりとした雰囲気で、クロノアと比べるのはあれだが美少女の部類に入るのではないか。自分でも言ったが、見た目はともかく年齢だけなられっきとしたおっさんだからな。それに、よっぽど信頼出来る相手じゃなければ男女のペアなんて厳しいのはわかる。
それでも俺が提案したのは、あの2人がこのまま素直に引き下がるとは思えない。キャシーさんの方はわからないけど、ジョン少年の方はなんか危うい気がする。それならばいっそ本当にパーティを組んで暫く活動するのが良いと思ったわけだ。
「私、ジョンの言う通り鈍臭いし、絶対にクラウドさんの足を引っ張ってしまいます。せいぜいできるのはちょっとした風魔法ぐらいで.......」
「(自分に自信がないのか。なら、アプローチを変えてみるか)そうか、それなら俺の弟子にならないか?そのついでにパーティを組むってのはどうだ?」
結局パーティを組むことにはなるが、これなら何となく受け入れられそうじゃないかな。それに、エミ個人の力を高めておくのは悪いことではない。
「.......私なんかでいいんでしょうか?」
「親切にしてくれたお礼とでも思ってくれれば良いさ。それで、返事はどうだ?」
「宜しくお願いします!私を強くしてください!」
「ああ。ついでにあの2人も見返してやろうぜ!」
「はい!」
異世界で初めて出会った相手がまさか俺の弟子になるなんて思わなかったがこれはこれで楽しそうだ。
俺の弟子1号エミは後に冒険者の最高ランクまで上り詰め、〝風帝〟という2つ名で呼ばれるようになるのはまだ先の話だ。
ーーーーー
翌日、俺とエミは早速アルバンから出て大森林の前の草原まで来ていた。俺とエミが初めて出会った場所だ。
「よし。とりあえずあの木に向かって何か魔法を撃ってみてくれ」
「はい!〝ウィンドカッター〟」
エミが杖を向けた先から風の刃が飛び出し、木に当たる。しかし、ちょっと傷がついただけでこれではゴブリンすら倒せるか微妙なところだ。
そして、その微妙な結果にエミはしゅんとしてしまう。
「うぅ.......」
「(なるほどな)色々とわかった。エミはこれまで魔法を学んだことはあるのか?」
「いえ.......。成人したあと3人ですぐにアルバンに出てきましたし、それまでも何となく使ってはいましたが誰かに学んだことはありません。私たちの暮らしていた村にはそういう人もいませんでした」
「逆にそれは好都合だ。変な癖が付いていたりしなくて助かる。まずは最初に言っておく。俺は属性魔法に対する適性が一切ない!」
「え?」
〝魔法〟それは、魔力を対価にイメージ、言葉、或いは文字や図形で示された現象を物理法則を無視して現実世界に引き起こす。
その種類は大別すると2種類ーー
1つは属性魔法。〝火〟〝水〟〝風〟〝土〟の四大元素に加えて、〝光〟〝闇〟の2つを加えた6つの属性の魔法を指す。これを使えるかどうかは生まれつきの適性次第で、0を適性なしの最低値、100を最高値として自分のステータスに表示される。つまり、俺はこの数値がオール0、属性魔法が一切使えない。
そして2つ目はそれ以外。身体強化の魔法や念話、そして鑑定魔法なんかはこれにあたる。これらは属性適性等一切関係ないので、〝無属性魔法〟と呼ばれる。また、その他にも〝神与魔法〟とも呼ばれることもある。その理由は、身体強化や念話等を覗いた無属性魔法の殆どがギフト由来の力だからだ。つまり、例えば鑑定魔法ならば、【鑑定魔法】のギフトを持たなければ基本的には使えないということだ。ギフトは神から与えられた物だから、ということである。
「まぁとりあえず見ていろ」
俺は指先を先程エミが魔法をぶつけた木に向ける。そして、体内の魔力を操作し、指先に集中させる。
「〝魔弾〟」
そしてそのまま指先から収束させた魔力の弾丸をぶっぱなし、それが木に当たるとーードンッ
「きゃっ!」
魔弾が当たった箇所が爆散し、残った上の部分がそのまま倒れる。
「い、今のは.......」
「魔弾という魔法.......いや、技術だな。あれでもかなり手加減したんだが」
「嘘.......あれで?」
「まぁな。ところで、魔法が発動するまでの過程ってわかるか?」
「イメージするか詠唱すれば発動するんじゃないですか?」
「んーそれはそうなんだがな。魔法の発動には魔力を使うのはわかるよな?」
エミはわかっていると頷く。
「それじゃ、具体的にどこの魔力が使われるかは?」
次は理解できないのかコテンと首を傾ける。
「さっきエミは杖の先を向けて魔法を使ったがそれはどうしてだ?」
「何となく.......でしょうか」
「まぁそうなるか。魔法ってのは基本的に自分のイメージした発動起点に集まった魔力を消費し発動するんだ。つまり、エミは無意識のうちに杖の先に集まった魔力を使って魔法を発動させていたんだ。しかし、エミは魔力を杖に集めることなく魔法を使った。エミの使ってる杖はそこそこ良いものか?」
「はい.......お金を貯めて何とか購入したのですが、そこまで魔法の威力は上がりませんでした」
「その杖の素材のおかげだと思うけど、使用者の魔力をある程度収束させる補助をしてくれている。だから多少は威力が上がったんだろうな」
「なるほど」
「さて、ここまで言えばわかったと思うが、エミが魔法使いとして行う訓練は、自分の体内の魔力を自由に動かしてそれを収束させることだ」
「わかりました!」
「よし。だが、今日の訓練はこんなもの一切関係ない」
「え?」
「魔力操作の訓練なんて寝てても出来る。わざわざここまで来る必要もないからな。とりあえずまずは.......森の中を走って貰うか」
「えぇ.......」
凄い嫌そうな顔をされた。しかし、魔法の訓練は現状さっき言った通り寝てても出来る。今ここでやるべきなのは単純に体を鍛えることだ。ただ魔法が使えるだけの置物を育てる気はないぜ。
「嫌そうな顔をするな。魔法の訓練やレベル上げは重要だけどな、魔力が切れたら何もできない魔法使いなんて使い物にならないぞ?せめて逃げるだけの体力だったり、一矢むくいるだけの近接戦闘能力は必須だ」
「そう.......ですよね」
「幸い、この森は人の手が入っていない天然の訓練施設さ。筋力、持久力、敏捷性、満遍なく鍛えられる。あ、魔物は心配するな。近づけば全て駆逐してやるから」
「わかりました!」
そして、俺とエミの訓練生活はスタートした。
午前中街を出て、森を走り回る。初めのうちは速攻でダウンしていたものの、段々と走る時間は伸びていく。
昼食を取った後も同じことの繰り返しだ。その間、俺はギルドで受注した薬草採取だったり、大森林の浅層で出る魔物の討伐や素材確保の依頼をこなす。報酬はパーティ用の口座に全て入れている。
そして、休みの日はエミは泥のように眠るか魔力操作の訓練。俺は霊峰に転移してクロノアに近況を報告したり、スラきちとフブキと遊んだり、飯を作ったりしている。
ギルドでは時々ジョンとキャシーの2人組と会うが、あっちは俺達と目を合わせようともしない。ただ、雰囲気は決して良いとは言えず、警戒しておいた方が良いだろう。そして今日もーー
「よし。午前中はここまでだな。かなり基礎ができてきたな」
「はぁ.......はぁ.......ありがとう.......ございます」
「ご褒美という訳ではないけど、取っておきを作ってやるよ」
「やった!師匠の取っておき楽しみです!」
エミは疲れが吹き飛んだかのような満面の笑みになった。こいつもクロノアと同じく俺の作る飯に完全に魅了されている。後々に聞いた話だが、この飯がなければ逃げ出してたかもと大真面目に語っていた。
別にプロの料理人という訳でもないのだが、実際アルテアの料理文化は微妙だ。クロノアとエミがこうなるのもわからんこともない。
「適当にクールダウンして待っててくれ。すぐに用意するから」
「わかりました!」
さて、今日の献立は〝ミルフィーユカツ〟
薄目のオークキングの肉を層のように重ねるタイプのトンカツならぬオークカツだ。クロノアに解体の仕方も学んだので、食べられる魔物はなるべくいただくようにしている。ノーマルなものからチーズや紫蘇を挟んだバリエーションも用意する。ソースは通常のトンカツソースと味噌ダレの2種類。アルテアにはそんなものあるわけないので、当然どちらもガチャ産だ。
ちなみに、エミには俺が異世界人であることやステータスやギフトについて、後はヤバめの武具や魔道具以外のことはそれなりに話してやる。全て例のじーさんの遺品だとかで無理矢理納得させてはいるが、状況次第では全てを話す時が来るかもしれない。
「できたぞー」
「わーいってあれ?これってカツですよね?大好きですけど特別って感じじゃ」
「まぁ食ってみろよ。いただきますーーうん、良い出来だ」
「はぁ.......いただきます.......?!」
「ははは、どうだ。美味いだろ」
「もぐもぐ、んぐ。とっても美味しいです!師匠は料理の神様でしょうか」
「大袈裟すぎんだろ。沢山あるからどんどん食べな」
「はい!」
お気に召したようで何よりだ。あんだけ運動した後にこれだけ食えるのも成長の証だな。
「今日から午後の訓練を変更するぞ。説明は飯を食ってからにしよう」
「わぐぁりまじだ」
「女の子なんだから口の中を空っぽにしてから喋ろうな」
次は16時投稿です。