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貰った『ギフト』がバグっていたのだが?  作者: 大英
第0章 プロローグ
3/14

第3話

本日3話目です。

 

「準備は出来たてかの?」


「おう。ばっちしだ」


 俺達は今日、アルテア大森林を出る。20年もこの地にいた訳で、もはや第2の故郷と言える。

 実は出ようと思えばもっと早くに出られた。というのも、最低でも人化形態のクロノアに勝ちたかった。特に理由はない。強いて言うなら男だから.......かな?


「妾が強者と認めるのは人種だけでなく、同族を含めてもお主だけじゃ。その力をどう奮うかは自由じゃが.......決して道を誤るでないぞ。さもなくばーー」


「わかってるよ。これでも40年以上生きているおっさんだぜ?」


「たわけが。妾からすればまだまだ小童じゃ」


「はは、そうだな。さてと、スラきちとフブキのことは任せたぞ。まぁ、()()があるからあいつらにも、お前にもすぐに会えるけどな」


 左手の人差し指に嵌るキラリと光る指輪を見せる。これは〝転移の指輪〟で、最大で5箇所まで登録した地点まで転移できるという魔道具だ。入手元は当然ガチャ、それも虹カプセル。欠点は凄まじい魔力を消費することだが、今の俺には問題ない。


「そうじゃの。出来れば1週間に1回.......いや、2回は帰ってきてくれんかの。もう、妾のお主(の作る料理)なしでは生きていけんのじゃ」


「えぇ.......ま、まぁ考えとくよ。それじゃな」


「頼むぞ!」


 そう言って俺は森の出口に向かって進んだ。途中まではクロノアに送って貰ったので、頑張れば数日で抜けることが出来る。それにしても、確かにすぐ帰れるとはいえ、せっかくの門出になんともしまらないのはなんだろうか。

 スラきちとフブキは今回はちょっと長めのお留守番となる。理由はいくつかあるが.......それは良いとして、あいつらも置いていくといった時は猛抗議していたが、転移で帰って来れることを説明すると、なーんだみたいな雰囲気を醸し出してそれ以上特に何も言わなくなったのはちょっと悲しい。

 ともかく、アルテアに来て20年目にして初めて同族に会える!唐突に滅びたりしていないことを祈る。


 そして数日後、久しぶりの1人の時間を過ごしながら、アルテア大森林を抜けた。するとそこは、気持ちの良い風の吹く草原が広がっていた。


「さてと.......クロノアの知識だとこの辺りはアーベル王国の領地のはずだが」


 アルテアに唯一存在する大陸〝アルテア大陸〟その中心部にはクロノアが住処としていた山〝アルテア大霊峰〟があり、そしてそれを中心に広がるのがアルテア大森林だ。

 アーベル王国はアルテア大森林の北部に位置する王国で、穀物の一大産地として有名らしい。逆にそれ以外には見るべきところはないのだが、国としては安定しており、最初の1歩としては無難なところだろう。


「この後の道程までは詳しく聞かなかったな。まぁ何とかなるか」


 とりあえず真っ直ぐ進むことにした。周囲に魔物の気配はないし、のんびりしたものだ。しかし、事態は急変する。


「(ん?探知範囲に何か入ってきたな。1、2.......3つか)」


 自分の背後、つまり大森林方面から走る程度の速さで俺の魔力探知の範囲内に入ってきた。魔力探知は例え何もなくても張る癖がついてしまっている。


「(更に後方から反応が2つ。こっちの方が早いな。何かから逃げているのか)」


 更に追加で反応が現れる。状況から推理するとーー


「(魔物に追われて逃げているのか?なら)」


 暫く待っていると、初めの3つの反応の主が森から飛び出してきた。日本の高校生ぐらいの少年が1人に少女が2人だ。そして、どうやらあっちも俺に気が付いたらしく、声を張り上げる。


「後ろから魔物が追ってきてる!逃げてくれ!」


 すると、続けてその魔物が姿を現した。


「ファングボアか」


 〝ファングボア〟

 見た目はイノシシだが、その体躯は2回りは大きく、凶悪な牙が特徴の魔物だ。俺も、それなりに色々と()()()になった魔物だ。


「危険だ!逃げろ!」


 それなら俺のところに向かって来なければ良いと思わなくもないが。そして、忠告はしましたよとばかりに横を走り去っていく。少女2人もそれに続いて行った。すれ違いざまににそのうち1人が「ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にしていたが。


「(まぁいいか)」


 ファングボアの標的は当然俺に移る。その凶暴な牙をむき出しにして突進してきた。


「よっと」


 俺は真正面から受け止めるような感じで牙を掴み、空中に放る形で威力を殺す。そのまま地面に下ろし、じたばたともがく2頭のファングボアに魔力で威圧をかける。

 すると、ファングボアは一瞬で全身の毛を逆立てて、俺を恐怖で濁った目で見つめる。どうやら実力差を理解したようだ。


「行けよ」


 牙から手を離してやると、俺の言葉を理解したかどうかはわからないが一目散に森へと帰っていった。


「まったく.......あいつらが走って行ったのはあっちか。それならそれが街の方角かな。クロノアは魔物だからカウントしないとして、第一異世界人との出会いがこれかよ」


 腑に落ちないというか、どことなく残念な気持ちになりながらも、彼らが去っていった方向に足を向ける。


「(もしかしたら途中で鉢合わせる可能性はあるな。まぁその時はその時だ)」




 ーーーーー




 一方その頃ーー


「はぁ.......はぁ.......もう大丈夫だな」


 ファングボアに追われていた少年少女の3人組が、それなりに離れたところで一息つこうとしていた。


「追ってこないわね」


「.......」


 既にファングボアの影はなく、彼らは安全が確保されたとホッとした表情を見せる。1人を除いて。


「おいエミ、どうしたんだ?」


「.......あの人、大丈夫かな」


「俺は警告はした。それでも逃げようとしなかったんだから自己責任だろ」


「そうよね」


「.......」


 確かに少年は蔵人に警告はしたが、魔物の擦り付け行為〝モンスタートレイン〟と判断されてもおかしくはない。モンスタートレインは冒険者規約では重大な違反行為であり、冒険者資格の抹消だけでなく、最悪の場合奴隷落ちまでありえる。


「まぁ、武器も持ってなかったし、あまり強そうに見えなかったからやられちまったかもな」


「ジャン.......」


 蔵人はその時武器はアイテムバッグにしまっており、傍から見れば丸腰だった。それに、見た目もどちらかといえば細身で、確かに強者には見えないかもしれない。よくよく考えてみれば、魔物の生存領域であるアルテア大森林の入口付近で1人でいたことを考慮すると、よっぽどの馬鹿でなければそれなりの実力者だったかもしれないという考えには彼らは至れなかった。


「まぁいいじゃない。私達は助かったんだし。運が無かったのよ、あの人は」


「キャシーまで.......」


「なんだよ。それならエミは残って戦うってのか?ファングボアなんて俺達に倒せるわけないだろ」


「.......」


 彼らは冒険者の中でもまだまだ低いランクであり、ファングボアを相手にするのは自殺行為なのは事実だ。


「ほら、そろそろ行くぞ。日が暮れたら面倒だ」


「そうね」


 もうこの話は終わりだと言わんばかりに、ジャンとキャシーの2人はこの場から去ろうとしていた。


「.......た.......も.......」


「なんだよエミ」


「私、戻って助けに行く!」


「はぁ?!あんた正気?あの人はもう死んでるかもしれないし、それにファングボアだってまだいるかもしれないのよ?!」


「それでも.......私は行こうと思う」


「はっ!行きたきゃ行けば良いじゃねぇか。その代わり、パーティは抜けて貰うぞ?俺の言うことが聞けねぇ約立たずは必要ないからな」


「!ーーわかった。今までありがとう」


 そう言って、エミは逃げてきた道を引き返して行った。それを見送る2人は、追い出したのは彼らにも関わらず、どこか唖然とした表情をしていた。パーティ内でエミは物静かで、2人の後を何も言わずに着いてくるようなタイプ。今みたいに明確に自分の意志を見せることなど初めてのことだった。


「お願い.......生きててください」


 エミは草原を駆ける。そう速くはないその足にめいいっぱい力を込めて。




 ーーーーー




「(こっちに向かってくる反応が1つ。なんだか忙しいな)」


 特に急ぐことなく彼らが走って行った方向を進んでいた。こちらからは見えないが、丘の向こう側からこちらに向かって来る反応が1つ。そして、現れたのはーー


「なんだ。君か」


「!!!ーー良かった!生きてて.......はぁ.......はぁ.......」


 例の3人組の1人、すれ違いざまに俺に謝罪を口にしていた女の子だった。相当急いで来たのか呼吸が荒い。


「まぁなんだ、とりあえず落ち着け」


「はい.......はぁ.......」


 俺は彼女が落ち着くまで待つ。そしてーー


「あの!お怪我はありませんでしたか?」


「ん?ああ、ファングボアなら適当に追い払っておいたぞ」


「え?!追い払った?ファングボアを?」


「そうだけど。別にそう大したことじゃない」


 殺すだけならもっと簡単だったからな。手加減しないとあのレベルの魔物じゃスプラッタな現場が出来るだけになってしまう。


「まぁ俺も無事だし、君達も無事だったんだろ?それで良いじゃねぇか」


「そ、そうですね」


 どこか歯切れが悪い気もするが、まぁいいや。


「さて、これは何かの縁だ。俺の名前は蔵人。君は?」


「エミと言います!」


 性はあえて名乗らない。性があるのは貴族や1部の人だけってクロノアも言ってたし、要らぬトラブルの種を産む必要もないだろう。


「エミさんね。それで、どうして戻ってきた?」


「エミ、と呼び捨てで構いません。実はーー」


 エミはかくかくしかじかと今に至るまでを話す。成程、彼らは異世界で定番の冒険者で、今回のことは冒険者規約に違反する行為かもしれないこと、それに罪悪感を感じて引き返した、と。


「そっか。心配かけて悪かったな」


「いえ!悪いのは私達なんです.......」


「ふーん。それなら1つお願いしようかな」


「え.......」


 エミが罪悪感を拭えないならその対価を要求すれば良い。それだけでも幾分か気は楽になるはずだ。大の大人が未成年と思われる少女に何かを要求する。別に内容はそうたいしたことじゃないが、犯罪臭がするのは気のせいだろうか。


「そうたいしたことじゃない。街まで案内してくれないか?この辺の地理に詳しくなくてさ」


「その程度でしたら構いません。それほど遠くはありませんし」


「契約成立だな。お願いするよ」






ありがとうございました。

次回投稿は4月3日の12時です。

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