第10話
「結構賑わっているな」
「そうですね」
アロイスの入口では冒険者カードを見せることですんなりと入場出来た。他の街や村でもそうだったが、Dランク以上の冒険者はそれなりの信用がある。というのも、ただ強ければランクアップできるほど甘くはなく、仕事内容は勿論、普段の立ち振る舞い等も審査の対象となる。なので、Dランク以上、つまり中級以上の冒険者やその他ギルドに所属する者は社会的に認められているというわけだ。まぁそれでも国によっては厳しい審査が必要な所もあるそうだ。
アロイスはアルバンほどではないが、それなりに賑わっていた。大きな違いはおそらく探索者であろうエミぐらいの若い少年少女が多く見受けられること。アルバンにも勿論いるのだが、割合としてはこっちの方が上だろう。
「待たせてすまない。盗賊の引渡しに時間を食ってしまった」
そう言ってカイン以下傭兵の人達が合流してきた。これから一緒にギルドへと向かい、報酬を受け取る手筈となっている。そして、さほど時間をかけずにギルドへと到着した。
「受け取ってくれ」
「おう。すまんな」
「いや、今回は助かったよ。それで、クラウド達は王都に行くのか?」
「ああ。まぁすぐにラビリスに行く可能性はあるが」
「そうか。俺達も休憩や補給を済ませたら王都方面への依頼を受けるつもりだ。もしそこで会うことがあれば飯でも行こう」
「そうだな。その時は頼むよ。じゃあな」
「王都方面で盗賊が出たって話は最近聞かないけど気を付けてな。こういうことも稀にある」
「わかった」
かなり短い時間だったが、そのままエミと共にアロイスを出た。この一件は経験としてはとてもありがたいと個人的には思っている。今後も似たような状況になる可能性はあるからな。
「さて、道草を食ったが王都に向かうぞ」
「ここから王都まで1週間というところでしょうか」
今更かもしれないけど、アルテアでは1日が24時間、1週間は5日、1ヶ月は30日、1年は12ヶ月と地球と殆ど同じだ。月や週は魔法の属性に習って、火の月や火の週と分けられている。つまり、王都まで徒歩で5日ということになる
俺は勿論、エミも平坦な街道を歩く程度で疲れるようなことはない。
そしてきっちり1週間後、俺達はアーベル王国の首都、王都へとたどり着いた。
ーーーーー
アーベル王国の王都にある屋敷の一室に、2人の男がいた。
「それで、首尾はどうだ?」
「滞りなく進んでおります。最近では自室のベッドに伏せる事が多い様子」
「それは重畳。あっちの方はどうだ?」
「そちらも予定通りです。どうやら失敗した人員も出たそうですが、口を悪前に処分しておきます」
「そうか。なら良い」
「では、私はこれで」
そう言って男の片割れは部屋を出ていった。残された男はワイングラスをゆらゆらと回し独り言ちる。
「この国は終わりだな。そして、私はいずれ.......ククク」
ーーーーー
「まぁ.......なんともコメントし辛い」
「ははは.......そうですね」
確かに王都というだけあってアルバンやアロイスに比べても規模は大きい。しかし、街並みという点ではさほど代わり映えはせず、せいぜい正面に見える王城が少し目を引くーーといった程度だ。
「これといった名所とかはないんだよな?」
「聞く限りではそうですね。どうします?すぐにラビリアへ向かいますか?」
「そうだな.......。とりあえず、これを使うか」
俺が取り出したのは、あの商隊のおっさんから貰った紹介状だ。どうせなら使わないと勿体ないからな。
住人に場所を聞くと、すぐにわかった。アーベルでも大きな商会の1つらしく、大通り沿いに進むとすぐにその建物が見えてきた。
「ごめんくださ「一体どういうことだ!これで6件目だぞ!」.......い?」
お店の中に入ると同時に、怒鳴り声が聞こえてくる。
「王都の兵士は何をしているんだ?!」
「それが、犯人の尻尾は未だに掴めないらしく、警備といっても全てを網羅はするのは難しいということで.......」
「クソっ.......どうすれば.......あ」
怒鳴り散らしていた小太りのおっさんが俺達に気付いた。
「申し訳ございません!何か御用でしょうか?」
「え、ああ、実はこれなんですが」
すぐに営業スマイルとなったおっさんに例の紹介状を渡す。
それを読んだおっさんは一瞬驚いたような表情になったが、すぐに元に正すとーー
「この度はうちの者が世話になったようで感謝致します。お礼に少しおもてなしをさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「そういうことなら.......」
「では、こちらへどうぞ」
俺達はそのまま応接室へと案内された。まぁ、特に用事はないし断る理由はない。
「改めまして、ディージング商会の商会長を務めております、ヨルダン=ディージングと申します。お見知り置きを」
「クラウドです。冒険者をやっています。そしてこっちがパーティメンバーのーー」
「エミです」
「クラウド様にエミ様ですね。この度は有難う御座いました。ただでさえ緊急事態だというのに本当に助かりました」
「緊急事態.......ですか?もしかしてさっきのも」
「ええ。実はですねーー」
俺もちょっと気になっていたのでヨルダンさんの話を聞く。
どうやら、最近アーベルにある商会の荷馬車が襲われる、農地が焼かれるといった事件が頻発しているらしい。
するとどうなるかーー市場に出る穀物の量が減少、そして輸送も護衛を増やすかより高ランクの者を雇わざるを得ない状況になり、コストがかさむ。結果、国内産穀物の価格が急激に増加することになる。
それに追い討ちをかけているのは、西部に隣接する国〝クルト王国〟産の大量の安価な穀物だった。質ならアーベル産の穀物が上で、その分値段も多少は高かったのだが、今回の値上がりは質という付加価値を大きく超えるものだった。
商会の経営が悪くなるだけならまだしも、国の主要産業が傾くというのは、国そのものが危うくなるということでもある。
「うちが契約している農地が焼かれたのはこれで6件目です。他の商会の被害も似たようなものですが」
「そうですか.......ん?待てよ?」
「どうしましたかな?」
「ヨルダンさんのとこの護衛をしていた傭兵の話ですと、あの時襲ってきた盗賊ってどうも一切情報がなかったらしいですよ?」
「なんですと?!」
カインは新しく生まれた盗賊団ではないかと言っていたが、どうもきな臭いな。
あいつらが一連の荷馬車を襲い放火している犯人、或いはそのグループの一部だという可能性は無くはない。
「数人は生かしてアロイスに引き渡したはずなのでもしかすると何かわかるかもしれません」
「そうですか.......では、その件は部下の報告を待つとしましょう」
「そうですね。では、そろそろ俺達はこれで。お茶とお菓子、ご馳走様でした」
「あ、紹介状の通り何かお値引しますが、どうしましょうか」
「あー.......忘れていましたね。それではまた明日伺っても宜しいですか?」
「わかりました。是非お待ちしております」
俺達はディージング商会を後にした。
そして、ふとエミに問いかけてみる。
「どう思う?」
「確証はありませんので何とも言えませんね。ただ、故郷の村が心配です。あそこも農業で生計をたてていますので」
「そうだよな。とりあえず記念に、というわけじゃないが王都に1泊していこう。明日またヨルダンさんのとこに行く約束もしちまったし」
「わかりました」
俺達は宿を探しながら王都を散策する。するとーー
「きゃっ!」
建物の間の路地から女の子の悲鳴が聞こえた。ちらと覗くと数人の男が1人の少女を取り囲んでいる。俺ら以外の誰も気づいているのか、或いは気付いていないフリをしているのか誰も関わろうとしない。
「(世界が変わってもこういう奴らはいるし、周りの反応も変わらないな。しゃーない)エミ、行くぞ」
「はい」
路地に入り、男達に声をかける。
「寄って集って大の大人が恥ずかしい真似してんじゃねぇよ」
「あ?なんだお前」
一斉にこちらを振り向き、大声で威嚇してくる。
「ただの通りすがりだよ。で?そんな小さな女の子に何をしようとしてるんだ?」
「お前には関係ねぇだろ!ーーん?よく見るとそっちの嬢ちゃんは良い体してるじゃねぇか」
男達は主にエミの胸を見て卑下た笑みを浮かべる。当然、エミはそれに不快感を隠そうともしない。顔を思いっきり顰めていた。
「はぁ.......何か事情があったらスマンがとてもそうは見えないし、とりあえず堕ちとけ〝魔弾〟」
「ぐべぇ」「がはっ」「あばっ」
俺は男達にかなり威力の絞った魔弾を飛ばす。死ぬことはないだろうがかなり痛いのは間違いない。
気絶している奴もいるし、痛みで呻いてる奴もいるが、そのうち復帰するだろう。もしかしたら衛兵にしょっぴかれるかもしれんがその時は自業自得だ。
「さて、とりあえずここを離れようか。お嬢さんもいいな?」
「は、はい」
おそらくエミより少し年下ぐらいの少女だろうか、格好は村娘という感じだが雰囲気がちょっと違う。とりあえず話を聞いてみることにした。
「それで、どうしてあんな所に?」
「あの.......道に迷ってしまいまして.......」
「(王都の住人なら道に迷うことなんかあるか?わからん)そうか。どこか行きたいところでもあるの?」
「お父様のお薬を買いに.......」
「(お父様.......か)なるほど、父親が病気なのか。それで、薬を買いに来たと」
この時点で可能性は2つ。
1つは王都外から薬を買いに来た普通の少女であること。確かに、村では手に入らない薬が王都では手に入るかもしれないのはわかる。
2つ目は王都に住んではいるが、その地理には詳しくない者。そうだとしたら普通の少女ではない。おそらくそれなりの身分を持つ者の可能性は高い。
そして、〝お父様〟という発言。果たして普通の少女が父親のことをそう呼ぶだろうか?家庭環境次第ではそういう所もあるかもしれんが。
そういう訳で、俺は2つ目の可能性が高いと踏んでいる。
助けた以上、家に返してやりたいが、本人は薬を買いに来たと言っているしな。どうしようかと思案していたその時ーー
「姫様!!!」
「あっ!ヒルデ!」
姫様?!
次話の投稿は4月11日12時です。