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貰った『ギフト』がバグっていたのだが?  作者: 大英
第1章 王都
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第9話

 

「やぁ!」


 エミの一閃がゴブリンの首を一撃で落とす。

 アルバンを離れて数日が経過していた。王都へと続く街道を真っ直ぐ北に進んでいる。アーベル王国が穀物の一大生産地というのはその通りで、途中で通った街や村の周辺は麦畑が先の先まで広がっていた。

 それでも国土の全てを開拓しているという訳ではなく、街や村から離れた所になると魔物が生息する山や森がある。


 そして今も街道に出てきてしまった魔物の相手をエミが相手をしているのだ。

 俺は完全に高みの見物で、見ようによっては少女に戦わせてそれを見ているだけのクソ野郎なのだが、これは当然エミの訓練の一環だ。とはいえ、今更エミがゴブリン程度でどうこうなるはずもなく、集団で現れたゴブリンの命は風前の灯だった。


「ふぅ.......」


「エミお疲れ。ゴブリンとはいえ、油断せずよくやった」


「えへへ、ありがとうございます。ご褒美に撫でてください」


「はいはい。行くぞ」


「もう!」


 アルバンを出て以来、エミが積極的だ。俺ってそんな要素あったかという疑問はともかく、好意を向けられるのは嫌どころか嬉しいのだが、自分の娘でもおかしくはない年齢の女の子はまずいのではという思いがせめぎ合っている。肉体的には20代なので男として色々と元気なのに加えて、精神もそっちに引っ張られているのかその忌避感すら段々と薄れてきているのでぶっちゃけかなり危ない。


 さっきのゴブリンじゃないけど、俺の理性も風前の灯なのかもしれない。


「次の街って例のダンジョンのあるところだっけ?」


「そうですね。でも今回はスルーですよね?」


「お楽しみは後でってな。どうせなら例の迷宮国家って所に行った方が良いだろ」


 ダンジョンには難易度が存在し、この先にあるのは中級に届かない程度の難易度で、アーベル出身の探索者が迷宮国家に行く前の足がかりにする程度の扱いでしかない。ダンジョンの規模の割にはそれなりの人数はいるらしいが、出入りもかなり激しいのだと。比較的難易度の低いダンジョンはどこも似たような感じらしい。


 となればあえてそこを選ぶ理由はない。

 エミの修行になるかも微妙だしな。せめて中級以上じゃないと聞いた限りでは意味がなさそうだった。


「ん?これは.......」


「どうしました?」


「たぶん先の方で戦闘が起きているな」


「どうしますか?」


 エミは助けに行きましょうとは言わない。

 何か特別な理由でもない限り、わざわざ首を突っ込んでまで自分の身を危険に晒す必要はないからだ。それに、そうなっている背景もわからずに介入すれば要らぬ手出しにもなりかねないしな。


「とりあえず様子を見るか。どうするかはそれで決めよう」


「わかりました」


 俺達は一旦街道から外れ、左右に広がる森の中から気配を殺して現場へと向かう。すると、エミの魔力探知の範囲に入ったようでーー


「10人対25人ですかね?」


「もう少し探知を広げられるか?」


「やってみます.......あっ、森の中にもう5人いますね」


「正解だ。他のやつに比べて魔力が大きいから魔法使いかもな」


 魔力操作の訓練を行ったり、魔法を積極的に使用すると徐々にではあるが基礎的な魔力量が増加していく。加えて、レベルアップ時の強化率も高くなる傾向がある。よって、魔力量が多いやつは魔法をメインに戦うやつ、つまり魔法使いということになる。それでも例外というのはいるけどな。


 例えばエミ。

 出会った当初はいかにも魔法使いという感じではあったが、今となっては近接戦闘がメインのハイブリッド型だ。それでも基礎的な魔力量は並の魔法使いよりも上だし、魔力の扱いも探知を行えるほどに成長している。


 後は俺自身もその例外に入るのだが、もはや数値の暴力でしかない。


「うーん、いかにも商隊とそれを襲う盗賊って感じだな」


「そうですね」


 視線の先では商隊と思しき馬車列の護衛と、いかにも盗賊ですよという風貌の男達が戦っていた。

 護衛の方は8人で、そのうち4人がそれなりの手練に見える。それぞれが複数人を受け持ち、何とか戦況を支えている。残りの4人も実力的にはかなり劣るが、何とか護衛対象に張り付いて頑張っていた。


「今のところ互角.......だが」


「まずいですね」


「そうだな」


 一見膠着状態だが、盗賊側は余裕を持っているように見える。常に複数人で襲いかかりながら、その間に休みを入れることで継続的に攻撃を加えている。一方で護衛側にそんな余裕はない。体力の回復をする暇もないので、このままではいずれ限界が訪れるのは明らかだ。数は力だとよくわかるな。それにーー


「奥にいる5人が加われば確実に負ける。タイミングを見計らってるわけだ」


 森に隠れている5人が虎視眈々と機会を伺っている。

 おそらく魔法だとは思うが、これが通れば護衛側は崩壊するだろう。


「しょうがない。盗賊なのは間違いないだろうだろうし、助太刀しよう。まずは森の5人を片付けるぞ」


「わかりました!」




 ーーーーー




「くっ.......」


 代わる代わる剣や槍で責め立てられる。一人一人の技量は俺達に比べれば対したことはないが、如何せん数が多い。倒しきる前にカバーに入られ、常に多対一の状況が続く。

 いつもの商隊の護衛ということで、油断はしていなかったがこれほどの規模の盗賊団がいるという情報はなかった。もしかすると最近こっちにやってきた奴らなのかもしれない。


 盗賊というのはかなり厄介で、俺達と同じ元傭兵というケースが多い。

 冒険者や探索者は失敗してもただその日の成果を得られないというだけだが、傭兵の失敗はこれまで積み上げてきた実績や信頼、或いは財産その物を一気に失うというケースも珍しくない。

 その為、何かしらの理由で傭兵稼業から盗賊稼業へと身を移してしまう。実際、今戦っているのも、明らかに傭兵とはどういうものかを知っているやつだ。

 さらに言えば、護衛のついている商隊や高貴な身分を持つ者を狙う以上、強さも求められる。個人で強力な力を持つものもいれば、集団で襲う者もいる。今回は後者ということになる。


「(不味いな.......。こちらの体力も無限では無い。それにあの余裕、何かあるな)」


 指揮している男ーーおそらくこの盗賊団の頭であろうーーの表情にはかなり余裕が見て取れる。

 俺は同じく戦っている仲間にアイコンタクトで勝負に出ることを伝える。すると、覚悟を決めたのか仲間は一斉に頷いた。しかしその時ーー


「通りすがりの冒険者なんだが、加勢はいるか?」


 森の方から一組の男女がそう言いながら姿を現した。




 ーーーーー




「通りすがりの冒険者なんだが、加勢はいるか?」


 一応、確認のために声をかけた。

 護衛の傭兵と盗賊までもが一斉にこちらを向いて何か凄いものを見たような表情をしていた。そのせいか、一瞬だけ戦闘が止まっていたほどだ。


「頼む!かなりやる盗賊団だ」


 本来ならば素性や実力が不確かな相手の加勢などデメリットの方が大きいが、それだけ彼らに余裕がかったということだろう。


「了解。エミもやれるな?」


「はい。任せてください」


 このレベルの相手ならエミでも3対1ぐらいまでなら余裕を持って捌けるだろう。


「何処の誰か知らんがもういい。魔法部隊ーーやれ!」


「まずい!」


 盗賊のリーダーらしき男がハンドサインと共に魔法使い達に指示を出す。傭兵の男が危険を察知して声をあげた。しかしーー


「ああースマンがそれならもうあっちで気絶しているぞ。残念だったな」


「は?」


「ま、そういうことだから諦めてくれ。さて、やりますかね」


 盗賊を相手にした時、基本的に生死は問われない。あっちの5人は一応気絶に留めて置いたが、盗賊と確認が取れたところで遠慮する必要はない。本気でやると現場が荒れるので手加減はするけど、死んだら運がなかったと諦めてくれ。


 超高速で敵の懐に飛び込み、拳や蹴りを叩き込む。すると、骨は粉々に砕け、内蔵は潰れていく。


「(これが人を殺す感覚か.......吐き気がするな)」


 アルテアに来て20年。今更、躊躇うなんて考えは持ち合わせて居ない。それでも不快感を感じていることにホッとしていた。

 ほんの数秒で盗賊12人を殲滅する。残りはエミが行った方だがーー


「ウィンドカッター!」


「ぐはっ.......」


 上手く攻撃を捌きながら、盗賊を魔法で仕留めていた。あれならそんなに心配はないな。

 俺達の登場で一気に均衡が崩れる。そして、数分もすれば残りはリーダーの男のみとなっていた。


「後は任せる」


「ああ。助かったよ。後は俺がやる」


 最初に声をかけた傭兵の男に後は任せる。彼は最後の1人の所まで行くと、苦もなくその首を撥ねた。少なくとも5人は生きているので、尋問する人数は足りているからな。


「今回は助かった、感謝する。俺はカイン、このパーティのリーダーだ」


「俺はクラウド、こっちがエミ。通りすがりの冒険者さ。助かって何よりだ」


「クラウドにエミか、宜しくな。それで、お礼がしたいんだが.......あいにく手持ちが少なくてな」


 別に金が欲しくてやったわけじゃないが、断れば良いというものでもない。


「アロイスまで同行すれば良いか?」


「それなら助かる。盗賊共の引渡しもできるしな」


 アロイスというのは例のダンジョンがある街の名前だ。

 各種ギルドカードにはギルドに預けている金額が刻まれており、これが預金通帳代わりにもなっている。


「一応、自衛という形で戦闘になれば参加する。ただ、護衛料も要らんし、飯なんかは自分で用意するからその話は商人にしておいてくれ」


「わかった。じゃ、また後でな」


 カインはそう言って仲間の作業に加わっていった。死体を放置する訳にはいかないし、生きている者は捕縛する必要がある。カインから話が通ったのか護衛対象の商人のおっさんからお礼の言葉と、王都にあるという商会の本店で見せれば割り引いてくれるという紹介状を貰った。こういうのはなんか嬉しい。


 その後、アロイスに到着するまで、カインから色々話が聞けた。

 彼らはBランクの傭兵パーティで、もう一組が新人のパーティであること。これは傭兵ギルドの規定で、新人はベテランが受けた依頼に着いていき、ノウハウを学ぶそうだ。まぁ新人がいきなり護衛任務をやれるわけがないので、当然と言える。また、護衛対象のメインとなる商人との顔繋ぎの意味も含まれているみたいだ。


 後は傭兵稼業での苦労話だったり、逆に俺達の話をしたりと盛り上がった。特に俺達がまだDランクの冒険者と言った時には驚かれていたな。


 そんなこんなで一度野営を挟みーークロノアには文句を言われたーー俺達はアロイスに到着した。




次は4月9日12時の投稿です。

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