16. 人面瘡
都市伝説がお題の2000字小説です。
友達の話です。
…人面瘡って知ってます?
人面魚じゃありませんよ? もちろん、人面犬でもありません。
昔、はやりましたよね、そういうの。なんでも人の顔に見立てて、言ったもん勝ち、みたいな風潮嫌いだったな。無責任すぎます。
じゃなくて。
そうそう。体に人の顔が浮かび上がってくるっていう、あれですよ。
古くは唐代の『酉陽雑俎』(ゆうようざっそ)まで遡れるらしいから、昔から、妖怪とか奇病の一種として信じられてたみたいですね。
正体は、妖怪だ…とか、傷が化膿して…とか、人に呪われて…とか諸説あるみたいですけど。
え? やけに詳しいねって?
やだなー。必死に調べたみたいに言わないで下さいよ、常識でしょ、このくらい。
でね。友達がね。私じゃありませんよ。
友達が、人面瘡が出来ちゃったみたいなんです。
最初は、腕の当たりにぽつんと赤いものが三つ並んでて。
でも、気にもしなかったんです。やだな、吹き出物できちゃった、くらいにしか思わなかった。
普通、そうですよね? 間違ってませんよね、友達。
ドラッグストアで買ってきた薬を塗って解決。のはずでした。
なのに。
消えないんです。
薬を塗っても治るどころか、だんだんはっきりとした目や口の形になり、鼻や顔の輪郭まで浮き上がって…。
毎日、腕で大きくなっていく見知らぬ顔を見ながら、不安で不安で、でも誰にも相談できなくて苦しかった……そうです。
気持ち悪くて怖くて、頭がどうにかなっちゃう…なっちゃいそうだな、私なら。
友達は、不安におびえながら数日を過ごし…。
ある日とうとう、人面瘡がぱっちり目を開けて、ぎろりとこちらを睨んだんです。
気が狂うかと思いました。
実際、少しおかしくなっていたのかもしれません。
友達、は、金切声を上げながら机にあったカッターを掴んで腕につきたてて……。
はっとした時は、周りは血だらけでした。
ずきずきする腕の痛みをこらえて、泣きながらはぎ取った人面瘡をこっそり焼き捨て…。
辛かったけど、これで終わりだってほっとしたんです。
…でもね。
残念ながら、終わりじゃありませんでした。少しも終わってませんでした。
あいつらねぇ、増えるんですよ。
ニキビを潰したら増えるのと同じで、今度は傷口の側に、二か所赤い三角がポツリと。
それをつぶしたらまた……。
きりがないんです。
体中に人面瘡……想像できますか?
……やだな。
なんで、そんなにこっちをじっと見るんですか?
私じゃなくって、友達の話ですってば。
手袋と長そで? ただの日焼け対策ですって。
足の包帯? ああ、転んで怪我しちゃっただけです。
マスク? ちょっと風邪気味で。
ひどいな。そんなに慌てて離れなくても、触ったくらいじゃ移りませんよ、……風邪は。
本当に、友達の話なんです。
私じゃないんです。
ねぇ、もしあなたが、人面瘡の治療法知ってたら、教えてくださいね。
絶対絶対、お願いしますね。
友達に教えてあげたいんで。