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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
ホームゲーセンが一緒だった編
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Round07.焦りは禁物

「違う! 違うんだ、そ、そうだ! そのカードは少し前に失くしてしまっていたんだ! シフのやつが持ってただなんて、きっと拾ってそのままだったとかそういうやつだ!」


「……そうか。お前は自分がぶっ放したことに気づいていないのか。いいか、僕は確認したぞ。今日はどこかのゲーセンに寄ったわけでもないと。それと、知っているんだ。プレイヤーズギルドを昨日たまたま覗いていた僕には、昨日の夜にキヨシ、君のゲーム内ポイントが変動していることを」


 プレイヤーズギルドとはゲームに紐付けられたデータをインターネット上で確認できるサービスだ。そこにはプレイ時間とポイントの変動が残される。


「つまり、昨日の段階まで君は自分のカードを持っていたことになる。シフのやつは昨日の夕方以降ずっとネトゲをしていたことがSNSのログから分かっている。それに、皆に呼びかければ見つかるだろう。昨日の夜キヨシと対戦した奴はいるか、と」


 格闘ゲーム界隈は皆がライバルであると同時に顔見知りであり戦友だ。遠征者(※3)でもないのに強いやつというのは顔と名前が嫌が応でも知られてしまう。


※3……地方からゲームをしに各地へ訪れる人


 迷宮入りが続ける。


「だからこそ、キヨシ。ここに君のカードがあるということが指し示す事実は一つだ。今日ここに僕らと来る前に君はここに来てカードを落とした。財布の中身とシフの死体が転がるこの空間にだ。状況証拠が、画面が言っている――犯人は君だと」


 迷宮入りの言葉に、キヨシはうなだれた。そして、少しして上げた顔はことのほかスッキリしたものだった。


「ああ、そうだ。そのカードは間違いなくボクのものだ。昨日、対戦した後クセで胸ポケットにカードを入れっぱなしにしていたんだろうなぁ。シフの財布を落として慌てているときに落としてしまったみたいだ。落としたカード、場所的に視界には入っていたろうけど、あいつのカードだと思って気づかなかったみたいだ。見えているようでいて何も見えていやしなかった。中段を見上げながらしゃがみくらいしたような気持ちだよ」


 キヨシの自白ともとれる言葉にケイブが声を掛けた。


「そんな、キヨシ。どうして君がシフを……?」


「あれは、事故だったんだ。殺すつもりは、なかった。でも、あのことを思い出したら目の前が真っ赤になって、それで、つい胸元を突き飛ばしてしまったらシフのやつ、よろよろってバランス崩してさ。それっきりさ」


「わざとでもわざとじゃなくても、殺人は殺人だ」


 夜叉が神妙な面持ちで呟いた。


「そうだね。しかもそのあと咄嗟にシフの財布野中身をばらまいて強盗の仕業に偽装するなんてね……中身は盗ったのかい?」


「……クレジットカードは下のゴミ捨て場の陰に放り投げてるよ。お札は、なかった。あいつ、ボクの貸した入手困難な限定版のゲームをあろうことか中古店に売り払ったくせに……! どうしてもって言うから貸したってのにあいつは。あいつは……!」


 キヨシの言葉に、三人は同情の念を抱いた。大切なものを失った悲しみは理解できたからだ。そして、その怒りも。

 でも、暴力はいけない。ましてや、事故とはいえ殺人までもは。

 遠くから呼んだものであろう警察のサイレンが聞こえてきた。

 迷宮入りは言うだけ言い切ってうなだれるキヨシに、諭すように言った。


「キヨシ、君はゲーム画面内でもそうだったが、少しまじめ過ぎて、融通のきかないやつだった。だからこそ、過失で殺してしまったときに動転して下手な偽装を――いや、もしかしたら一般人の警察ではキヨシにすぐたどり着かなかったかもしれない。けれど、そもそもは自分で判断せずに救急車を呼んでおくべきだったんだ。焦っていらないことをするのは、画面内でもリアルでも、君の良くない点だったね」


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