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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
ホームゲーセンが一緒だった編
6/26

Round05.わからん殺しは辛い

 室内に残された迷宮入りは、これ幸いと様子を探り始めた。


(勝手に荒らしては小説の知識だが現場検証的にまずいだろう。でも、観察するだけならば問題あるまい)


 気になったのは、シフの死体と散らばった財布の中身だ。

 シフの死体は後頭部の傷以外に目立った外傷は見当たらない。


(服の下に痣や傷がある可能性は否定できないが、室内に争った跡は見られな……争ってないよなこれ? 多分最初から汚いだけだろう。多分)


 気になるのは財布とその中身だ。


(札はなし。落としたのか中身を全部出して確認したのか。小銭と、大量のポイントカード類。それとゲーセンで使うプレイヤーカード……クレジットカードは、ないか)


 探りながら、迷宮入りはその頭脳を普段とは違う、自身のハンドルネームの由来となった使いどころの難しすぎる謎のコンボ開発をしている時のような研ぎ澄まされたものになっていっていた。


(押し入り強盗、というのがまずは妥当な線だろう。セキュリティの甘いアパートに、一人暮らし。鍵も掛かっていなかった。僕らが到着する前にやられたとしたら、タイミングが悪かったとしか……ん? これは)


 迷宮入りは散乱した中の、とあるカードに注目した。


(どうしてこれがここにあるんだ? シフが間違えて持って帰っていた可能性もあるが……いや、それはない。僕には分かる。仮にあいつが「失くしていたんです。盗られていたとは知りませんでした」と言った時、警察では分からなくても、僕には分かってしまう……!)


 迷宮入りの思考を遮るようにして夜叉が電話を終えて戻ってきた。


「通報しといたぞ。一〇分くらいで来るはずだ。一応俺たちからも事情を聞きたいとのことだ。やれやれ、今夜は遅くなりそうだ」


 明るく夜叉は言うが、無理をしているのが顔に出ている。夜叉から話を聞いたケイブとキヨシも合流し台所から玄関口まで手狭な中、四人が揃っていた。

 日も落ち、街頭が灯る。住宅街は静かで、時折車の通過音が聞こえるぐらいだ。

 警察が来るまでの気まずい沈黙を破ったのは、ケイブだった。


「迷宮さん。何か悩んでいるのですか?」

「……ああ。僕はとても今悩んでいる。どうしてこうなっちゃったのか、と」

「そう、ですよね。オレも、未だにシフが死んだなんて信じたくないですよ」


「ケイブ。画面は嘘をつかない。これは僕ら格ゲーマーの中では唯一の真実だろう? つらいけど、そこから目を逸らしたらダメだよ」


(そうか。自分で言って気づいてしまった。ゲームの画面内だろうと画面外だろうと、起きたことは変えられない。そんな中で僕がシフにできる手向けがあるとしたら、起きたことはなんだったのかハッキリさせることだ。わからん殺し(※1)は、つらいもんな)


※1……何が悪かったでもなく、自分の知らなかった攻撃方法などでやられてしまうこと


 迷宮入りの目に光が宿った。日常を過ごす目ではなく、筐体に座り来るべき対戦に臨むときの目をしていた。


「キヨシ、君に聞きたいんだが」


 迷宮入りがキヨシに話しかけた。


「なんだい、迷宮さん」

「そういえば君は今日少し遅れてきたけど、トイレに寄って電車に乗り遅れたと言ったけど、駅に来る前にどこかに寄っていたのかい?」


「ああ、なんだ。いや、家から直接来たよ。気を抜いて二度寝しちゃって。あわてて着替えて家を出たのはいいけどもよおしちゃって、それで遅れちゃったんだ」


「そうか。そうだったのか」


 迷宮入りは残念そうに呟いた。


「なら、今日は残念なことが二つあったことが確実になってしまったよ。シフが死んだことと、キヨシ。君がこの殺しの犯人だということがね」

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