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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
ホームゲーセンが一緒だった編
5/26

Round04.事件発生

「こりゃ出掛けてるな。仕方ない、ちょっとここで待つか」


 そう言いながら物は試しと特に考えることなくドアノブを捻ると、鍵のかかった抵抗感はなく、ガチャリと回った。


「なんだ、不用心だなぁ。シフ? いるかい?」


 勢いで回ったドアノブ、開かれた扉。迷宮入りは返事がないことに、イヤな予感がしていた。そう、まるで思いもよらないことが己を襲うのではないかという訓練された格闘ゲーマー特有の勘のようなものだった。

 イヤな予感というのは往々にして当たる。それは運が悪いのではなく、予測が的を射ていることに他ならない。


「シ、シフ?!」


 迷宮入りは1DKの部屋に広がる光景に目を見張った。サイドテーブルに寄りかかるようにして倒れていたのは、シフであった。


「どうした?」


 後ろからやってきた夜叉が室内をのぞき込み、顔色を変えた。


「迷宮さん、待ってくれ。素人が下手に動かすもんじゃない。俺が行く」

「夜叉、君だって単なる学生じゃないか」

「単なる学生、じゃないですよ。俺、これでも看護大学に通ってるんで」


 ゲームセンターに来る人間は、ゲームの話をするのが主だ。夜叉が看護大学生であることはこの場のメンツは誰も知らなかったが、それはゲームセンターに来る人間には関係のない話であり普通のことだった。

 夜叉はどこから取り出したのかボールペンのようなライトを取り出すとシフに近寄り確認を始めた。


「後頭部からの出血。位置的にテーブルの角にぶつかった、か? 体温はまだ残っている。詳しくはわからないが、俺たちが来る数時間前あたりか――対光反射、なし。呼吸……なし。脈も、なし。これは、ダメですね。死んでいます……」


 声音に残念そうな気配を滲ませながら首を振る夜叉。顔色は悪いままだが取り乱すこともなく冷静に振る舞っている。普段から剛毅なところがあるが、常に己を鼓舞している精神性が大きい。

 遅れて室内の状況を確認したケイブとキヨシも言葉を失っていた。

 ケイブも動揺していたが、それ以上に隣でひどく震えるキヨシを見て多少落ち着きを取り戻したのか、キヨシの肩を押して一旦室外に退避していった。

 迷宮入りは、そんな中でも取り乱してはいなかった。大きな衝撃は受けていたが、それ以上に今は室内の様子が気になっていたからだ。また、近くで気丈に振る舞う年下の夜叉の態度に年上としてしっかりしなくてはというゲーセンでは芽生えぬ意識が起きていたことも要因だ。ゲーセンでは年上であろうと取り乱し大声で喚き散らす人間は多い。


(落ち着け、ここはゲーム画面の中じゃない。死んだキャラは1クレで蘇るが、現実の人物は、シフは戻ってこないんだ。ならばせめて、戻ってこれないのならばどうしてこうなったのか、せめて僕が見届けなければ。あの日のように……!)


 迷宮入りは非情ではなかったが、それ以上に義憤に駆られていた。


「迷宮さん、俺は警察に電話をしてくる。住所、分かります?」

「いや、暗記していないんだすまない。でも、下の電柱にたしか番地が書いてあったと思う」

「さすがの観察力だ。ちょっと行ってきます」


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