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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
そして壇上から誰もいなくなった編(絶海の孤島にて)
25/26

Round00.絶海の孤島への招待状(ケイブ)

【ケイブ】1月頃/寒空の故郷


迷宮さんと忘年会後に別れて少し立つ。

あれから変わった出来事もないまま過ごしている。意味深なやり取りはちょっと厨二病っぽかったかな、なんて恥ずかしく思いつつオレは実家で新年を迎えていた。

朝の雪かきを終えてコタツでダラダラしつつツゥイッターを眺めていたら、三分前に迷宮さんが『実は海外旅行中』と呟いていてちょっとホッとした。

リンゴでも食べるかと果物ナイフに手を伸ばしたとき、オレのスマホが鳴る。


「……あれ、誰からだろう?」


ディスプレイには〝非通知設定〟と表示されているがオレはハッとして電話に出る。いつもなら取らない電話だが、年末の迷宮さんとの会話を思い出したからだ。


「――実にお久しぶりだね、ケイブくん。繋がったようで何より」

「め、迷宮さん!?」


電話口の相手は迷宮さんだった。いつもと変わらない様子に感じるも……少し楽しそうな気がしなくもない。


「お久しぶり、です? 新年明けましておめでとうございます」

「そうだったね。明けましておめでとう。挨拶はこんな感じで。突然だが僕は君に言っておく事がある。茶々は入れず、しっかり聞いてくれたまえ。これから話すことは真実だ」

「はい? 分かりました」


オレはコタツからでて固定電話横にあるメモ帳を手に取る。迷宮さんの言ったことを忘れないようにするためだ。


「――僕はもしかしたらこの休みが終わる頃にはこの世にはいないかもしれない。だから、いくつか僕のお願い事を聞いて欲しい」

「……は?」


年明け早々に何を言うんだと驚いている間にも迷宮さんは畳みかけるように早口で言う。


「僕が今居る場所は日本国内。君と僕との間で時差はない。個人所有の無人島で絶海の孤島と表現できるかな? 場所についてはそれぐらいしか語れない。ケイブくんには僕の昔のホームゲーセン――今は無きホームゲーセン勢の最近の動向について調べて欲しい。君は遠征で来たことがある。だからケイブくんも何人かは知っているはずだ。事情は伏せて聞いてくれ。ルール違反で僕が死ぬ。警察もダメだ。ちなみにトゥイッターの呟きは予約投稿だ。僕はケイブくんとしか電話ができない状態にある」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。さっぱり意味が分かりません!」

「はははっ、いわゆるクローズド・サークルで僕は格ゲー以外の読み合いを強いられているところだ! Heaven or hell――命をかけてる最中さ。だったらやるしかないだろう。もしまだ生きていたら、また連絡するよ」

「迷宮さん、笑ってる場合じゃないです!! こっっの野郎!!」


オレの叫びはむなしく一方的に電話が切れてしまった。一方的に情報を押しつけられた形になったが、厄介事に巻き込まれているのは明らかだった。


「迷宮さんが絶海の孤島に居るって? しかも命がかかっている? そんなバカな話があるってのか――あるんだろうな。だから、言えなかったんだみんなに」


なんの冗談だと半信半疑になるが、事実だと信じることにした。

だって迷宮さんが好き好む冗談とは性質が異なるからだ。あの人なら〝どこの国にいるでしょうか?〟とか言いながらメイドインオーストラリアの自由の女神チョコレートの写真を送ってきそうだ。


「おーい、年賀状来てたぞ。あと郵便も」

「郵便?」


親父の声と共にコタツテーブルの上にポンっと葉書と封筒が置かれた。親父はそのまま台所のほうへ去って行った。年賀状は地元の友達のもの、封筒は覚えのない会社名が記載されている。


「〝株式会社サイバーフォーリナーイベンツ〟? なんだそりゃ」


裏をみると赤い封蝋でKと押してある。キングを決めるとでも言いたいのだろうか? 開けてみれば招待状と書かれた紙と〝半分に千切られた青切符に酷似した参加証〟が入っていた。それもわざわざオレのプレイヤー名であるケイブを印字してだ。

株式会社サイバーフォーリナーイベンツとやらは、オレの本名もプレイヤーネームも把握しているということになる。


「はっ……ふざけんなよ」


あまりに懐かしい思い出と共に嫌な予感がした。逃げられない戦いだろうと覚悟する。




『拝啓 晩秋の候

皆様にはお健やかにお過ごしのこととお慶び申し上げます

このたび 弊社にて開発中の2D格闘ゲームのテストプレイを行うこととなりました

つきましてはそのテストプレイ大会を催したいと思います

なお大会優勝者には賞金1,000,000円お支払いいたします

未発表タイトルであるため 他言無用でお願いいたします


※他言された場合 相応の処置をさせていただきます


大会イベントの他 当社の所有する美しき孤島と屋敷を利用したリアル脱出ゲームのご用意もございます

著名なクローズド・サークル〝そして誰もいなくなった〟をオマージュしたものとなっております


皆様の参加を心よりお待ちしております

楽しい年末をお過ごしくださいませ



日時 202x年12月31日~202x年1月x日

場所


お手数ながらもご都合を11月x日迄に

ご返信くださいますようお願い申し上げます』




「っ……。迷宮さん、忘年会の後に旅立ったのか」


場所の記載は空白で何も書かれていない。

別紙には参加者の名があり、プロ格闘ゲーマーを始めとする格ゲープレーヤーが載っている。

そこに混じって迷宮入りさんと、不幸な事件で死んでしまったシフの名前もある。シフに限っては赤で塗り潰され〝脱落〟とある。

オレには開催場所不明、申し込み期限切れの状態でこの招待状が届き、青切符風参加証は千切られている。参加資格はあったが参加できなかったと言いたいのだろうか。


「なんでこんな怪しい集まりに行ったんだ。――シフっつったらホームゲーセンが一緒だった、か」


ここ一ヶ月の迷宮さんと先程の電話を思い出し、状況を探るべくインターネットの海に飛び込んだ。

迷宮さんの助けになるという気持ちはもちろんのこと、不可解な招待状が届いた時点でオレも知らずに巻き込まれているのだから――。

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