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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
初狩り狩り編
23/26

Final Round

「その声は、迷宮さん?! いや、ちょっと、ついカッとなっちゃって」


 言い訳を始める大こんにゃく。台パンと呼ばれるゲーム筐体を叩く行為は対人ゲームにおいて無用なトラブルの元であり、器物損壊にもつながるよろしくない行為であった。


「まぁ、気をつけるといいよ。ところで大こんにゃくさん、向こうの相手は強かったですか?」

「……見ていたんならお分かりでしょう? 猫かぶってた、どっかの上級者か何かでしょ。もう、やってらんないですよ」

「そうだね、きっと君がいままで狩ってきた初心者の人も同じようなささくれた気持ちだったんじゃないかな?」

「なっっっ」


 急な迷宮入りの指摘に、動揺を隠せない大こんにゃく。


「ど、どうして俺がそんなことを」

「どうしてって、僕への反応をを見ていたからだよ。大こんにゃくさんさ、目悪いでしょ。今もだし前にあったときもだったけど、目を細める癖があるよね。自覚はなかったかな? 近眼の人の特徴だよそれは」


 筐体に未だ座る大こんにゃくに立ったまま見下ろす形で語りかける迷宮入りには、妙な迫力があった。


「ふ、普段はコンタクトなんですよ。たまたま忘れちゃっただけですし、それに近視なのが何か関係あるんですか?」

「近視は関係ないかな。でも、店に入るまでは着けていたメガネをトイレで外したのは関係あるかな。ねぇ、どうして今コンタクトをしていないのにメガネを外したんだい?」

「それは……」


 言い淀む大こんにゃくに迷宮入りは追撃をかける。


「あと、君の今日の格好だ。やたらカラフルだね。白のスラックスに薄緑色のシャツ」

「別にいいでしょう、服装の話なんて。それこそ関係ないんじゃないですか?」

「……実は、最近初狩りをする人に関して複数人に聞き取りをしていてね。大こんにゃくさん、君は前に初狩りをしていたのはツーブロックのサラリーマンだと言っていたが、僕が入手した情報では犯人は上下黒の服装だったそうだ」

「ああ、俺以外の目撃情報もあったんですね。でも、上下黒って話なんでしょ? プライベートでは上下黒で、勤めているときはスーツなだけじゃないんですかね」


 ぶっきらぼうに言い放つ大こんにゃく。投げやりな言い方の隙に確定反撃を取るように言葉を差し込む迷宮入り。


「いえ、だからこそですよ。仮に犯人が聞き取りの対象になった場合、出す情報が自分の姿とは違うように嘘を吐くのは当然です。加えてそれ以降他の目撃情報への対策として今までと違う色合いの服装をするのも犯人らしいといえましょう」

「そんなの、偶然の一致だろ? 俺は気分でこの服装をしているだけだ」

「なるほど。その言い分は確かに正当です。では、どうしてメガネを外したのですか? どうして初心者と思しき人間にわざわざ乱入したのですか?」

「そ、それは……いや、違うんだ、そう、向こうが乱入してきたんだよ! 俺は手加減しないで返り討ちにしようとしただけだ!」

「そうですか。確かに、どちらが先に乱入したかまでは見ていませんでした。確かめる方法は対戦相手の方に聞くしかないのですが……」


 迷宮入りは筐体を見る。CPUにやられたのか、画面は既にデモ画面になっており、向こうに相手の人はいなくなっていた。


「確認しようがないなら、俺が初狩りしていたかどうかは立証できないですよね? ハ、ハハ、誤解ですよ、誤解」


 大こんにゃくがどこかホッとしたように笑う。そこに、迷宮入りの背後から現れた人がいた。


「やぁ、そろそろオレも仲間に入れてくださいよ。どうなりました、話は?」

「やぁケイブくん」


 ケイブの登場に対して目線を向けた大こんにゃくは言葉を失っていた。

 そこにいたケイブは帽子をかぶっており、それは先ほどまで筐体の向こう側にいた人物がかぶっていた物と同じだったからである。


「で、何の話でしたっけ? 最後だけ聞こえていましたが、オレがCPUと遊んでいたら乱入してきたのは大こんにゃくくんでしたけど?」


 すっとぼけるようにしてシレっと言い放つケイブ。

 大こんにゃくはこれ以上は申し開きできないと悟ったのか、うなだれていた。


「さて、ケイブくんの発言が決定的かな。初狩りの犯人は君だよ、大こんにゃくさん」

「……そうです。すいませんでした。……これからどうするつもりです? SNSでさらし者にでもするんですか?」

「いや、そんなことはしないよ。初狩り行為を咎めたかっただけで、君を追放するようなことはしても仕方ないじゃないか」


 どこかホッとした表情の大こんにゃく。しかし、そこに慈悲に見えるがそうではない言葉が投げかけられた。


「でも、今後のために君にはまっとうな勝負の面白さを体感してもらおうと思う。10先しよう、僕とこのケイブくんと」

「え、でもそれってちょっと実力差が……」

「実力差が下の相手に躊躇なく入れるなら、上にも躊躇なく入れるように訓練しようじゃないか。なに、そうしてくれたら初狩りの件は公にはしないよ」


 半ば脅迫じみた迷宮入りの言葉に、大こんにゃくはただただ頷くしかなかったのであった。

 1時間後。そこにはズタボロになった大こんにゃくの姿があった。


「初狩り狩り、これにて任務完了」


 これ以降、初狩りの話はとんと聞かなくなった。ゲームセンターには平和が訪れ、迷宮入りとケイブもまた楽しい対戦ライフに戻ったのであった。

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