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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
初狩り狩り編
22/26

Round06.犯人は上下黒の服装

 駅隣接施設3階にあるゲームセンター。

 以前若竹煮が迷宮入りとケイブと会った場所で、その日、一人の男が店内を徘徊していた。

 その男は獲物を探すような目で周囲を観察し、遠目に本日のターゲットを見据えるとトイレに移動した。

 男は欲望に突き動かされていた。

 己の自尊心を満たし、他者を蹂躙する喜びを手にしたいという嗜虐心。

 CPU相手では得られない快楽を求める。したたかに相手を見定め、狩り、満足して帰路に就く。

 クセになってしまう。なに、お金を入れて遊んでいるだけだ、悪いのは弱い相手が悪い。それが、格闘ゲームというものだ。

 男は自分に言い聞かせる。

 別に法律で定められているわけでもないし、注意書きが貼られているわけでもない。裁かれる謂われはない。

 お金を使い、できることの範囲の中で自分の好きなようにする。まさしく正しく娯楽であり、自分さえ気持ちよければいい。

 そこから先は、男に考えはない。自分が満足できた時点でもうなにも要らないからこそ己より弱い相手を狩るという行為を繰り返しているのだから。

 今日の相手も、美味そうだ。

 男がトイレから悠々と出て筐体へ向かう。

 そこにいたのは帽子をかぶった気の弱そうな青年。画面を見るとたどたどしい動きをしている。

 遠回りするように裏へ回り、100円を投入し相手に乱入する。

 格闘ゲームは2ラウンド先取制で行われる。

 1ラウンド目。男の選んだキャラクターがまともに動けていない初心者丸出しの動きをする相手キャラクターを蹂躙する。

 ――ああ、たまらない!

 男は狩りの喜びをぞくぞくとその身に感じていた。

 続くラウンド2。ここはあえて相手をじらす。なぶるようにしてダメージを抑え、少しでもなぶる喜びを味わう。

 と、そこで男の計算外か、相手の大技が〝たまたま〟当たり、男はラウンドを奪われてしまう。

 少し遊びすぎたか。だがこれでおしまいだ。

 男は相手のラッキーパンチにひやっとするが、力の差を確信しているため動揺は少ない。最後ははしっかりおいしくいただいてしまおうと気を取り直した。

 最終ラウンド。始まりと同時に、男は違和感に気づいた。相手の動きが明らかに変わったのだ。男を翻弄するかのような射程距離外への間合いの取り方。そこに踏み込む男を的確に迎撃する技量。普通は連続技につなげるのも難しいところを的確につなぎ大ダメージを取る精度。

 明らかに先ほどまでの相手と違う……!

 男は焦っていた。

 このままでは、このままでは、負けてしまう。

 己が気持ちよくなれる相手を選んだのに負ける。そのことは単に負けるよりも遙かに精神に負荷をかける。

 男は先ほどのラウンドの相手のように、大技を繰り出した。当たれば勝てる。そんな大技が逆転制を売りにもしている格闘ゲームにはあり、相手が初心者なら当たるだろうという甘えが男からは抜けていなかった。

 当然のように男の大技は防御され、あえなく反撃を受け男は、負けた。

 どうして。どうして。どうして。

 男はカッとなり自分の座る筐体のボタンがある部分を大きな音が鳴るほど叩く。

 その背後へ、声がかかった。


「台パンはダメですよ。おや、もしかして、君は『大こんにゃくさん』ではないですか?」


 男――大こんにゃくが振り返るとそこにいたのは、すっとぼけた顔の迷宮入りであった。

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