Round05.転進甘栗さん
「お、レスが早い。もう甘栗くんから反応がありました。ちょっと聞いてみますので少しお待ちくださいね」
ケイブが携帯とにらめっこをするように文字を打ち込み始める。チャットのようにリアルタイムでやりとりしているようで休む間もなく手元を忙しくしている。迷宮入りは邪魔にならないように自分の中で情報と可能性を整理して待っていた。
しばらくして。やりとりを終えたのかケイブがふぅと息を吐き、迷宮入りに声をかけた。
「すみません、迷宮さん。お待たせしてしまって」
「いや、必要なことだ。僕に気を遣う必要はないさ。で、何か分かったかい?」
「はい。甘栗くんからの話をまとめますと……」
転進甘栗の発言をまとめると以下のようになる。
・今迷宮入りたちがいる駅からそう離れていないゲーセンに用事がてら寄った時に初狩りを目撃。
・若竹煮の見た光景と同じで、負かした相手を台移動してまで負かしに行っていたこと。
・少し離れていたところにいたためカードネームは不明。
・犯人の服装は黒髪にメガネ、上下黒でスーツではない。
「なるほど。ちなみに転進甘栗さんは若竹煮さんと同じ日に目撃したわけではないんだよね?」
「そうです」
「ふーむ、となると嘘を吐く理由はそこまでないわけだ」
「嘘、ですか? それはどういう意味です?」
「それには後で答えるよ、ケイブくん。あと聞きたいのだが、転進甘栗さんは黒髪でメガネかい?」
「いえ。黒髪ではありますが短髪でメガネは掛けていないですね。コンタクトか裸眼かはわかりませんが」
「それは会ったときはいつもかい?」
「はい。彼とは大会のような決まった日以外にもオレの食べ歩きついでに彼の地元ゲーセンに寄ってふらっと会ったりしますけどメガネではないですね」
「そうか。……ケイブくん、さっきの問いに答えようか。人に何か聞かれたときに相手が必ずしも正しい情報を答えるとは限らない、と考えると相手が嘘を言っている可能性がある、ということを考えたことはあるかい? 僕はいつも考えている」
「え、マジですか。疑り深すぎないですそれ?」
「いや、何も普段から全員を疑っているわけではないよ。ほら、思い違いや言い間違いってあるだろう? そういった無意識的な、嘘を吐くつもりがなかったけれど結果として嘘を吐いてしまうという悪意のないものを責めないようにしているだけなんだ」
「はあ。なんというか、迷宮さんらしいですね。それって相手に悪意がなかった時に自分が相手に嘘を吐いたと怒るような事態を避けるためにしてるってことですよね?」
「さすがケイブくんだ。僕のことをよく分かってくれているね」
「そりゃ、画面内外でもうつき合い結構長いですから」
「ありがとう。ま、そういうわけでちょっと僕は嘘には敏感でね。でだ。急だが、ちょっと僕の作戦につき合ってくれないか?」
「へ? 別にいいですけど、どんな作戦で何をするんですか?」
「作戦内容はこれから話すよ。というか作戦内容を確認する前に君は乗ってくれるんだね。ありがたい。で、何をするかって言ったら、そうだな……釣り、かな」