Round04.若竹煮さん
迷宮入りとケイブはその足でもう一人の初狩り目撃者に会いに移動していた。3駅離れたところにある別のゲームセンターだ。
二人は途中でケイブおすすめの寿司屋のランチメニュー天丼(580円)で腹ごしらえをしてから向かっていた。
「大こんにゃくさんから得られた情報はツーブロックのサラリーマン。悪いがそんなのは山ほどいるからね。次の人がもっと詳細を出してくれると助かるんだが。次会う人の名前ってなんだっけ?」
「『若竹煮』さんですね、迷宮さん」
「今日はなんだかお腹が空くような名前の人たちに会うな……」
今度の店は駅隣接施設の3階に入っているチェーン系のゲームセンターだ。メダルゲームコーナーを抜けると対戦ゲーム筐体が並んでいる。
若竹煮とケイブは元から見知った関係であるらしく、お互いを認めると気軽に手を挙げて軽い挨拶にかえていた。
若竹煮は名前の渋さとは裏腹に、髪を金髪に染めてピアスを付けていた。
迷宮入りも若竹煮とはこれまで絡みはなかったが顔はゲームセンターで何度か見ており、今更ですがと声をかけた。話すきっかけはなくとも何度か対戦したことのある顔見知りとの垣根は低い。
早速とばかりにケイブと迷宮入りは若竹煮から当日の情報を聞いた。ちなみに若竹煮とはケイブは旧知と言うこともあってネットに書き込まないことを条件に初狩り犯を追っていること伝えていた。
「ええ、例の犯人ですか。初狩りしていましたよ。負かした相手を追いかけてまで倒し続けるだなんて、前世でよほどの因縁でもない限り普通しませんよ。え? 犯人の背格好ですか? えーっと、どうだったかな。たしか黒髪にメガネ、上下黒と目立つ格好ではなかったですよ」
「上下黒、というのはスーツという意味かい?」
「いや、スーツじゃなくて綿パンと黒いTシャツでした」
「なるほど。目立たない格好だからこそそういうことが出来るのかもしれないな。あと、他には何か覚えていないか?」
若竹煮の話を聞いた上で、他に情報はないかと尋ねる迷宮入り。すると、一つ思い出したように若竹煮は答えた。
「これはあまりハッキリしないので伝えようか迷ったんですけど、相手のカードネームはひらがなでした。捨てゲーした台だったので気づいたときにはコンピューターに負けてすぐゲームオーバーになってしまったのでうろ覚えですけど」
「大いに参考になる話だ。ありがとう」
話が一段落したときに、若竹煮は思い出したというようなリアクションを取ると付け足した。
「そうだ、この話でしたら『転進甘栗』のやつともこないだ話したんですよ。あいつも見たって言ってましたわ。ケイブさん知ってますよね、甘栗のやつ。彼にも聞いてみるといいですよ」
「甘栗くんも別途目撃者だったか。彼はたしか千葉のほうだったよね。メッセージで聞いてみるとするよ。情報助かる」
「いえ、なにか助けになれたのなら。初狩りは許せない行為です、ケイブさん、迷宮入りさん、どうか犯人を特定してください!」
若竹煮の激励を受け、二人はゲームセンターを後にした。
もう一人の目撃者だという転進甘栗にメッセージを飛ばして返信を待ちがてら、迷宮入りとケイブは駅反対側にある喫茶店へと向かった。