Round02.褒められない行為
「――って、ことがあったんですよ。迷宮さん」
平日夜、仕事帰り。
使いどころが不明で迷宮入りする謎コンボを開発するところから付けられ自称もするハンドルネーム「迷宮入り」は、いつものゲームセンターに顔を出すと馴染みのケイブから話しかけられていた。
「すごいじゃないかケイブくん。一般人に初狩りの概念を説明するだなんて大仕事をよく成し遂げたね」
「ですよね。話せば分かってくれると思ってました」
「しかし、どうして一般人相手にそんな話をしたんだい?」
「あ。そうでしたそうでした。聞いてくださいよ迷宮さん」
ケイブが本題を思い出した、とばかりに真剣な顔になって言った。
「初狩り事件が起きているんですよ! オレらのやってるゲームタイトルで!」
「なに、それは本当か?」
迷宮入りの目も鋭くなる。芸能関係、スポーツニュースには疎い迷宮入りではあったが、自分の趣味の領域に関しては人一倍敏感であった。それが、界隈を脅かす初狩りとなると真剣に聞かざるを得なかった。
「本当です。ある程度やっているオレらの目の届かないところでどうやら犯行に及んでいたらしく、目撃者によると初狩りされた人が『つまんねーーー』といって帰っていったとか」
「むぅ。その台詞だけでは軽々に判断はできないが、もし本当だとしたら憂うべき事態だ」
「他にも、別のゲームセンターで明らかに初心者が練習しているのに乱入して相手を一方的に倒し、その初心者が別の筐体に移動したのにわざわざ捨てゲー(※1)してまで追いかけてまた乱入して倒してたらしいですよ」
(※1:お金を入れて遊んでいるのにその台を放棄して立ち上がって移動すること)
「それは本物の初狩り野郎だな、性根が腐ってやがる。祭りの500円クジに当たりが入っていない並みの悪質さだ」
「ええ。ここ2週間の話らしいんですが、もしこれが常習犯なら被害者は一人じゃないですよ。初狩りは初心者の精神を殺しているようなもの、立派な連続殺人事件ですよ」
「そうだな。これは犯人を突き止める必要があるな。ケイブ、その目撃者は知り合いか?」
「ええ。前者は会ったことはないですがSNSで相互フォロワーで、後者は顔も知っているやつなので大丈夫です」
「よし、ならいけるな。週末にでも早速乗り込んで事情を聞くとしよう」
「さすが迷宮さんだ。動いてくれると思っていました。一緒に犯人を突き止めましょう!」
二人は話をつけると、きたる初狩りプレイヤーに出会った時に備え万が一にも後れを取らぬよういつものように終電まで対戦を続けたのであった。