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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
優勝記録詐称エス・オー・エス編
12/26

Round03.テンキー

 翌日。合流した迷宮入りと盛平は旨くてチャーシューが大きくて有名なラーメ屋に並んでいた。盛平は身長は高くないが日焼けした肌と引き締まった体をしている。ゲーマーの割りに健康そうなやつだな、というのが迷宮入り含めた周りの心証だった。

 懐かしいメンツの話をし、最近何の家庭用ゲームをやっているだとかこのマンガが面白いだとかで話に花を咲かせた。

 ラーメン屋に入ると静かになり、注文の品が来ると黙々と麺を啜る。みだりにうるさくしないのは礼儀である。

 あと、礼儀以外に気をつけている点もあった。格ゲーマーは声がでかい。ゲーセン内がうるさいからだ。外でも同じようにするとボリュームが上がりすぎることがあるため、迷惑になりそうなときは自重するように心がける人間もいる。

 腹を満たした後、二人はチェーンの喫茶店で食休みを取ることにした。ここからがある意味今日の話題の本番である。


「で、迷宮さん。昨日の話なんですけど、俺も見ましたわ、あのブログ。あいつがブログやってるのなんて知られてないから広まってませんが、結構舐めた内容ですねー」


「そう感じるよね、普通」


 日記の最初にはこうある。



「『イノセントコード』プラザ5の定例大会でまたまた優勝してしまった。みんな弱すぎる」



 迷宮入りはブログ画面を表示させたスマホをテーブルに置いた。


「そう、これですよ。店名は間違えているわ、みんなのこと煽っているわでタチが悪いっすよ」

「間違いない。で、この5LOWくんは普段の言動はどうなの?」


 盛平は少し視線を上にして思い出すような仕草をする。


「いやー、ゲーセンでは大人しめなやつですね。煽ってるのも見たことないですし。そもそも上に勝つことより負けることの方が多いようなやつですんで」


「そうなると、この日記は本来の彼の姿なのかもしれないけど、もしかしたらそうじゃない可能性もあるね」


「そうじゃない可能性ですか?」


「うん。たとえば、名義だけ勝手に使ってる他人が書いているだとか、もしくは何か理由があるのか、とかね」


「そんなことあるんですかね?」


「いや、確証はないよ。でも、盛平くんの話を聞く限りではこんなことをするような気がしなくてね。だって、格ゲーマーやってれば分かるだろ? こんなこと見つかったらこうやって怒りを覚える人間がいる、なんてことはさ」


「それは……そうっすね」

「うん。で、次はこれだ」


 迷宮入りが画面をスクロールさせて次の文を見やすい位置に調整する。



「タマキの236Aからの623B連携しらないやうおおすぎ

ザキヤマの上り214C食らったけど最後にたってたのは俺だったってわえ」



 盛平が眉をハの字にしていた。


「これちょっとわからんのですよ。スピードキャラのタマキの連携技、暴れつぶし(※1)にはなるけどそれ以外には使えない上にリスクもあるんで、知らないやつがどうこう言う話じゃないんですよ」


(※1:相手の反撃を誘い、そこを潰してダメージを取る行動)


「僕がやってたころにはなかった連携だけど、君がそう言うなら今更ってやつだね」


「ええ。あと後半のは、パワーキャラのザキヤマのジャンプしながら出すと見極めづらい技のことですね。別に勝敗を分けたわけでもないみたいですし、防御できて偉ぶるわけでもないですし、ちょっと意味わからないです」


「僕も何が言いたいのかよくわからなかったが、2つ気になる点がある」

「これに何があるっていうんです?」


「うん。1つは誤タップと思われる箇所だ。見直していないだけなのかもしれないが、流石に気づくだろうこんなの。そうなると、訂正する余裕がないほど慌てていた理由があるのかもしれい」


「慌てていた理由ですか。何なのでしょうそれは」

「……1つ仮説はあるが、後で説明するよ。2つ目の気になる点は、技名だ。テンキーコマンド(※2)から技名を改めて調べてみたんだ。」


(※2:前入力は6、下入力は2、のようにテンキーに見立てた技の入力表記)


「技名ですか。そういや俺もタマキとザキヤマの技って見た目で呼んでますけど正式な技名ってソラで覚えてはいないですわ」


「よくあることだよね。で、肝心の技名だけど、タマキの236Aが『殺界拳』、623Bが『人界拳』。それとザキヤマの214Cが『犯シタ罪ヲ数エル』だ。意図的かどうか知らないが、頭文字を並べて読むと……『殺人犯』になる」


「殺人犯? それが何になるって言うんですか」


 聞き返す盛平だったが、物騒な単語ゆえか困惑の色が顔に表れていた。


「まぁ待て。そして最後の文章だ」


 迷宮入りは再度スマホの画面をスクロールさせた。



「メイ子の超筆を食らってみたい。とどめの41236Cは生当てダメ」



「同じように調べなおした。メイ子の超必(※3)の名前は、『全力スイング』。これだけだと一見さっきの殺人犯という単語と何の繋がりも見えないが、『全力スイング』のモーションと台詞を思い出してくれ」


(※3:超必殺技の略。相手に大ダメージを与える大技の名称)


「『全力スイング』の様子ですか。あれは当たると相手を金庫に閉じこめてからメイ子の持つ特殊合金バットで吹っ飛ばすコミカルな演出の技ですけど」


「そうだ。その時のメイ子の台詞は?」


「……『助けて!』です。相手を吹っ飛ばしながら助けてと叫ぶ、ゲーム内とは言え深夜テンションで作ったとしか思えないチグハグな台詞ですが、この日記でそれって……!」


「うん。そうなんだ。2つめの文章とここを、あくまで恣意的にだが解釈するとこうなる」


 すっかり汗をかいてしまったグラスのカフェオレを一口飲むと、迷宮入りはスマホのメモアプリを立ち上げた。

 そこに表示されていたのは、「殺人犯」「閉じこめる」「助けて」という3つの単語の羅列であった。


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