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格闘ゲーマー迷宮入りの推理奇譚  作者: 秀島キョウ/師走幸希
優勝記録詐称エス・オー・エス編
10/26

Round01.格闘ゲームで世界五位

「迷宮さん、知ってる? 前に話題になったけど、格闘ゲームで世界五位って自称していた奴の話」


「ケイブくん、君も噂話が好きだね。なんだいその世界五位ってのは。今僕の中では西東京の殺人事件の方が気になっているのだけど」


 格ゲーマーである「迷宮入り」は今日も仕事終わりに馴染みのゲームセンターに寄っていた。

 同じように仕事終わりに何の待ち合わせ予定も立てていなくても当たり前のように顔を出す一人がこの「ケイブ」だ。迷宮入りとのつきあいは長い。

 学生時代の部活の延長のような気持ちと楽しさと息抜き。時に逃避先的な意だったり、色々な理由で人はゲームセンターに来る。

 部活みたい、とはよく言ったもので、ゲームと言えど時代は単なる遊びの域からeスポーツという形でプロや賞金の出る大会への道が開けていた。

 格闘ゲームのうまい奴。それは限られたコミュニティ内における単なる栄誉としてのステイタスであったが、それが今やプロとして世界に羽ばたける可能性になっていた。


「もう、迷宮さんはその辺疎いなぁ。SNSは情報とネタの宝庫だからもう少しチェックしといた方がいいよ」


「そういうものか。で、その世界五位がどうしたって?」


 世界大会五位。その実力はスポーツ選手のように実績となり、発信される。彼・彼女はすばらしい能力の持ち主だと。

 1掲示板のスレッドを超え、1ゲーム雑誌のモノクロページの名前の一つを超え、多くの人に情報として届くようになっていた。


「居たんだよ。私は格闘ゲーム『フレイムレッド・チームバトル』のアメリカで毎年行われている世界大会GVOで五位入賞しました、ってブログに書いていた人がさ」


「ふーん。その人、言ってる通りの世界五位じゃなかったような言い方だね」


「そう、そうなんだよ。この人、ネットで繋がってる人がゲームに詳しくない一般人ばっかりみたいでさ、コメントですごーいとか誉められてたんだよね。GVOって大会でアメリカに来てます、って入場証の画像まであげてたんだ」


「どこからどこまでがその人の見栄だったんだい? 世界五位ってのは嘘で、二十位くらいとか?」


 迷宮入りは適当に答えた。誰でも自身をよく見せようとする心理はある。周りが詳しくないのなら結果を盛ってちやほやされたいという気持ちも分からなくはない。


「ところが、だよ。その日記を見つけた格ゲーマーが拡散したところ出るわ出るわ。なんと世界五位ってどころじゃなく、世界大会に行ってすらなかったんだ」


「へ? どういうこと? ……まさか」

「そのまさか、ですよ。後藤と名乗るアカウントだった当人が載せてた現地の写真は他のプレイヤーのものの転載、世界五位に至っては完全に嘘っぱち。その大会の本当の世界五位の日本人プレイヤーまで現れて、もうお祭り騒ぎでしたよ」


 後藤はネットコンサルタントを名乗っており、自身の経歴に箔をつけるために格闘ゲーム大会を利用しようとした。よく知らないゲームの話なんてバレないだろうと思ったのかもしれない。


「格ゲーマーって、どこまでいっても個人じゃないですか、ゲーム内容としても競技としても。そこにおいて皆研鑽積み重ねてきている中、騙りは一番の悪手ですよ。いかに相手を出し抜くかを日常的に考えているような人種に見つかった後藤は雨霰のような嫌みとジョークを受け、関連ブログを全消去してました」


「はー、そんなことがあったんだね。聞く限り自業自得だけど」


「ええ、自業自得ですよ。それで、ついたあだ名が騙ったゲームを冠した『TEAM後藤』。この名称だけで分かる人には分かる、というほど知れてしまいました」


「んー、分かる。格ゲーマーはその辺厳しいというかシビアだからね。いや、競技者というか己を削って競う世界にいる人間からしたら一緒か。甲子園出場経験があります、って野球好きに騙ったら炎上するようなものだろうな」


「そうですね。その中でも特にマイナージャンルなら大丈夫じゃないかという舐めプレイをしちゃぁいけない相手を敵に回しちゃったわけです」


「理解したよ。そんなことがあったんだ。でも、ケイブくん。最初に前に話題になったって言ったけど、もしかしてまた何かあったのかい?」


 迷宮入りの言葉にケイブはうれしそうに笑った。


「さすがは迷宮さん。話の流れの察し能力がお高い。その通りでして、つい今日の話です。また出たんですよ」


「出た、って。お化けじゃないんだから。まぁ世間的にお化けみたいにされちゃうのは騙りの場合相手の方だけど」


 ぼやく迷宮入りの携帯にメッセージが来た振動がポケット越しに伝わる。

 迷宮入りが携帯を取り出すと、ケイブからメッセージとインターネットサイトのリンクが貼ってあった。

 リンク先には、地方新聞の一面が載っていた。



「イタリアの格闘ゲーム大会世界大会大活躍!

 ○△市役所臨時職員の高橋幻十郎さんが先日の三連休にイタリアで開かれた『サマーステンドフェス』の格闘ゲーム部門で初優勝し、次回大会のシード権を獲得した。高橋さんは『相手のミスに助けられたところもあるが、うれしい』と語った。

 高橋さんはゲーム『イノセントコード』の

 トーナメントに参加。負けトーナメントに落ちてから怒濤の追い上げで一気に優勝を勝ち取った。…………」



 記事の内容を読んだ。インタビュー記事であることからおそらく取材を受けての記事だろう。顔写真まで載っている。読み終わったことを目線をあげて伝えると、ケイブが日中の経緯を話し出した。


「この記事を見て、『イノセントコード』をプレイしている上位陣が騒ぎ出したんですよ。『こいつ誰だ?』って」


「なるだろうね、そりゃ。顔が出てるもの」


 迷宮入りが言う。格闘ゲーマーは自分で好きなハンドルネームを名乗るため、基本的に本名を知らないというのはよくある話だ。

 なので名前でピンと来なくても不思議ではない。しかし、顔となれば別だ。強いプレイヤーともなればライバルであると同時に友人であり、画面内に限って言えば仇のごとく思う相手だ。多くの人間に知れ渡っている。

 世界大会で優勝できるレベルの有名人ならばなおさらだ。


「なので、TEAM後藤の事件もあってこれは怪しいと憶測が飛び交っている、のが今日の話です。もうすでにイノセント高橋って名前で出回り始めているくらいです」


「なるほどねぇ」


「あと、気になって他にも何かないかと適当に検索してみたんですよ。これの他に2個ほど個人的にふかしてるなーっていう最近のブログ記事があったので、あとでリンク送っておきますね」


「君も野次馬根性あるね。でもケイブくん、面白そうな話をありがとう。これは近々の動向にはアンテナ立てとこうかな」


「それがいいですよ、迷宮さん。不謹慎ではありますけど、マイナーだったオレらの格ゲー界隈でこういうのが湧くようになったというのと、どうなるかという事例を見られるのは今がきっと旬ですから」


「そうだね。けど、これらがもし全部騙りだとしたらすごいけどなぁ。どこまでが本当の話なのかってところには興味がないと言えば嘘になるかな」


 迷宮入りはケイブから話題の提供を受けた後、その日は二人とももう少し対戦をして帰宅の途についた。

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