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妹のお尻を足先でふにふにするぞ!

「帰ったぞ」


 家に帰った俺が自室のドアを開けると、ベッドに寝そべっていた妹から「んー」という生返事。携帯ゲーム機から顔を上げようとすらしない。

 俺は妹の腰をお尻で押しのけてスペースを作って座る。


「返事くらいしろよ。くっそ寒いのにわざわざ遠回りしてアイス買ってきたんだぞ」


「んー。なんか言ってる? 聞いてないよ。いま忙しい」


「通学路の途中にある、そこのコンビニで、トラックにはねられそうになっている子供を助けたぞ」


「んー」


「聞けよ。アイス溶けるぞ」


「んー」


 ゲームに集中しすぎて、まったく聞こえていないようだ。俺は無理やりにでも反応させるため、スカートから伸びている太股に、いま買ってきたアイスを当てた。こんなに寒いのに、こいつ、よく足を丸出しにしているな。


「冷たっ! わっ! あっ。馬鹿! 死んだじゃん!」


 悲鳴とともに、ようやく妹が起き上がった。

 おでこが広くて目がまんまる。鼻はちっちゃく、愛嬌のある顔をした妹。可愛い。妹じゃなかったから抱きついちゃうな。


「いきなり何すんの!」


「いきなりじゃないし、アイスが溶ける」


「……食べる」


 アイスは人類から言葉を奪う。俺達は暫らく、ふたり並んで無言でアイスを食した。

 四月になったばかりだから買いに行くのも食べるのも寒くて辛いんだけどな。でも、まあ、美味しそうに食べてくれたから、よしとするか。


「兄ちゃんのせいで死んだんだから、狩り手伝ってよ」


「俺、狩りゲーはあんまり得意じゃないし、荒野で暴動する方が好きなんだが。って、おい、ゲルモドスって最初の中ボスだろ。こんなので苦戦とかねーし。お前、ほんと、下手だな……」


「下手じゃないし。得意だし」


 妹は座ったまま不格好に、でしっでしっと俺を蹴ってくる。股関節やわらけえなあ! 猫かよ! スカートが短いせいでパンツが思いっきり見えてるし、少しは恥じらえよ。

 俺が妹のキックを振り払おうと手を振ったら、スキル《ラッキースケベ》が発動し、何がどうなったのか、もつれ合ってベッドから落下。

 倒れた俺の顔面に妹がむぎゅっとお尻を押し付けてきた。


「ちょっと! また《ラッキースケベ》使ったでしょ! 信じらんない! 動くな! 息止めろ! 失明しろ!」


 俺の顔面からささっと離れた妹はスカートを抑えながら何度も踏みつけてくる。


「待て! やめろ! 俺だってこんなスキルいらねーよ。けど、自動発動系のスキルなんだから、しょうがないだろ!」


 異世界でもこのスキルのせいで散々苦労したんだ。女魔将軍相手に発動して魔王軍の男から恨みを買うし、亜人街では一歩ごとに淫魔の胸に顔からダイブしたし。つうかこれ、スキルというより呪いじゃないのか?

 しばらくして妹はピタッと攻撃を止め、目を丸くして首を傾げる。


「これ以上やって、兄ちゃんが変な趣味に目覚めたらどうしよう。……手遅れ?」


「誰が手遅れだ。協力プレイで手伝うから、招待しろ」


 俺は話を逸らすため、起き上がると勉強机から携帯ゲーム機を取り、ベッドに座る。


「ん。ソードラビット装備用の素材コンプだからね?」


 ゲームを起動し、妹のステータスを見て驚愕。思わず「げっ」と声を漏らしてしまった。

 通常はLv3くらいで突破する最初のステージなのに、Lv20まで上がってる。

 こいつ、どんだけ、ゲルモドスにやられてんだよ……。


「俺が前衛で敵を引きつけるから、お前は安全なところから魔法で援護しろよ」


「ん。了解。あ。そうだ。『ドラクリ』の中に入るスキルとかないの?」


「ゲームの中に入るとか、異世界に転移するとか? そういうのはないな」


 最強無敵のスキル《スキル創生》があるから、そのうちそういうスキルも目覚めるかもしれないが、今のところはない。危機に陥るたびに、新しいスキルに目覚めるんだから、異世界での俺はほんと無敵すぎた。魔王軍との戦い、懐かしいなあ。七大将軍の半分とはまだ決着がついていないんだよな。魔王は倒したけど、今頃異世界はどうなっていることやら。


「あっ。あっ。早く回復! 遅い! 何やってんの兄ちゃん!」


「すまん。考え事してた。つか、待て。なんで前に出てきたんだよ!」


「だってメイス強いもん!」


「いやいやいや、振るの遅いし獣型相手だとダメージ減衰するだろ。メイジは遠距離で補助しろよ!」


「いける。いけるって。殴って殴って! 悲鳴上げてるじゃん! 死ぬでしょ、これ死ぬでしょ!」


「死ぬのお前だ! 俺が回復薬投げまくっているから死んでないだけだぞ!」


「いいから殴って殴って! ほら! ほら! やった! 倒した」


「マジかよ。ここ、トラップで足を止めて槍で突き殺すチュートリアルだぞ。メイスで殴り殺す馬鹿、初めて見た……。つか、倒せるのかよ」


「もーっ。兄ちゃん、大好き!」


 妹はゲーム機をベッドの上に放り、俺の首に飛び付いてきた。


「お前、兄ちゃんのこと好きすぎだろ。ブラコンにもほどがあるぞ」


「はあ。違うし」


 驚異的な速度で離れた妹は鼻のてっぺんまで真っ赤に染まる。


「ゲルモドスの角が手に入って嬉しかっただけだし……」


 拗ねたように口を尖らせているのが、我が妹ながら可愛い。もし学校に行けば、さぞモテたことだろう。

 頭でも撫でてやろうかと思ったら、スキル《千変万化の理想》の効果が切れて、妹は空気に溶けるようにして消えてしまった。

 ……。

 ああ、そうだよ、妹なんていねえよ。俺が産まれてすぐに両親は亡くなっているから、兄弟なんていねえよ。

 妹は、俺が最初に覚えたスキルだ。

 異世界に転移して、ひとりぼっちで寂しくて、不安で怖くて「誰か助けてほしい」と願ったとき、妹が出現したのだ。

 そういや、異世界でもメイスで魔術師を殴ってたな。女騎士や女魔法使いがドン引きしてた。

 むなしい……。

 妹とイチャイチャしても、それはスキルで創りだしただけの存在だ。

 せっかく魔王を倒せるくらい強くなったのに、日本ではスキルの使い道がない。


「俺、強いし、もう一度くらいなら異世界を救ってもいいんだけどな。生き残りの七大将軍を倒すまで異世界に残っていてもよかったんだぞ? なんで日本に帰ってきたんだろう……」


 そんなことを考えていた翌日、俺は異世界に転移することになる。

 あまりにも唐突すぎたんだけど、朝、目が覚めたら部屋のドアが光ってた。


「は?」


 いかにも異世界に通じているという雰囲気だ。

 前回は新米冒険者としてスタートしたけど、今回は強くてニューゲーム状態だから、異世界で無双チートできるのか?


「とりあえず、異世界に行く前に石鹸やマヨネーズの作り方を調べておくか……」


 武力で解決できる世界に転移するとは限らないしな。前回はラノベ知識でマヨネーズを作ればいいと閃いたが、作り方を知らなくて苦労した。料理屋でも開いて金を稼ごうとしたが、料理なんてできないし。

 現代知識で無双するには何が必要だ?

 野菜の種でも持っていくか?

 図書館で軍事関係の本でも借りてくる?


「殴って解決でもいいし、せっかく二回目の異世界転移っぽいし、準備はしておきたいよな。とりあえず顔でも洗ってから、じっくり調べるか」


 俺はドアを無視し、窓から一階に飛び降りた。

 そして、いつまで経っても地面に着地しない。


「しまった。窓の外も異世界に繋がっていたか……」


 こうして周囲は真っ暗になって、俺は長い浮遊感を味わう。どうやら二回目の異世界に転移するらしい。

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