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私、人生迷ったら世界最強魔導士になりました。  作者: 工藤 零
第一章 『自分探しの旅』
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8『開戦前の風』

「さあ、ナツメ・アスカ。私は何をお前にしてやればいい?何にでも命令してくれ」


何故か犬の様な態度を取り始めた魔女様は、私の手を深く握り顔を近付けた。

あまりにも近すぎるので私は顔を背けると、ボソッと呟く。


「まずはそのフルネーム呼びを何とかして貰えると……」


「よし!分かった。私は何と呼べばいい?ついでに、私のことはラリーと呼んでくれ!」


「え、えと……」


先程よりもさらに接近してきた彼女は、大量の唾を飛ばし、私の顔を舐め回す様に覗く。

──契約する前とテンション違いすぎないか……?

とにかく、引き剥がすには呼んで欲しい名前を言わないといけない様だ。


「分かったラリー、私の事はナツメって呼んで」


「ナツメ、か。了解だ。と言うより、早く命令してくれ!何でもいいから!」


「……じゃあ、取り敢えず私があなたの事を他の皆に紹介してもいいかな?」


「紹介?」


私は首をかしげるラリアンに、今までの会話を黙って聞いていた街の人達を、手を広げて見せた。






「よろしくお願いします。魔女様」


「いいだろう」


ラリアンはリナンを見下ろしながら腕を組む。

ラリアンの紹介を終えてようやく、この街を守る協力を取り付けることが出来た。


「やったっ。よかったね、ルイ」


「うん!なの」


ルイに振り向き微笑み合うと、どうやら嫉妬したらしいラリアンが不満げな声を出した。


「おい。私はあくまで、ナツメのためにやるんだ。お前らのためとは言ってない」


「まあまあ。ラリーは私のために、私はルイのためにやるんだから。一緒でしょ?」


「むう」


むくれ顔をしたラリアンをなだめながら、思考する。

これで防衛戦のカードが一つ増えたが、なるべく平和にいきたい。

本来なら襲撃、と言っても戦闘とまでは考えられないが、この世界はもう前の世界とは違う。

魔法がありならば、前と同じようにはいかないかも知れない。

危険性というのをよく考えて、もっと仲間を増やすべきか……。


「たいへんっ!もう近くまで来てるの!あと1時間もないかもなの!」


「ええっ」


ルイの予報は正確だ。

街のみんなが信頼を置いている。ならば、もう仲間を集めている暇はない。

もしもの時の戦闘に備えて作戦を組んでおかなければ。


「よし!皆の者、戦闘の用意だ。遅れた者は命がないものと思え!」


「「おー!」」






冷たい風が顔の横を通り過ぎる。

その風は、開戦前の静けさに当てられた風だったのかもしれない。


「ルイ、今の位置は?」


「森をもうちょっとで抜けるの」


「じゃあ、後20分ぐらいですね」


そう言ったのはリナンだ。

さすがこの街の住人と言うべきか、地理を明確に把握しているようだ。

一方の私は、今立っている場所がどういった所なのかも分からないのだけれど。


「街の防壁術式は組み終わったぞい」


どこからかスタスタと現れたマスターは、リナンに現状の報告をする。

防壁というのは読んで字のごとく、街を守る結界のようなものらしい。

これもやはり高度な術式らしく、この街で発動出来るのはマスターしかいないそうな。


「森を抜けたの」


マスターの報告には何もコメントしなかったルイは、冷静に敵の現状を述べた。











草花が枯れていく。また、それにつられるように周りに生えていた木々も枯れていった。

残るのは『その人』一人だけになったが、『その人』はそれに目もくれる事無くまた一歩一歩と踏み出し自然を破壊していく。

『その人』はただ一つのことだけを考えていた。

──命令を遂行すべし。

かの者を殺害し、ついでに自らの目的も果たす。

そう思考している間にも、これから聞こえてくるであろう悲鳴が早々に聞こえた気がして、胸が高鳴る。

──ああ、これから溢れ出る憎悪はどれくらい輝いているのだろう。











少しの悪寒が背筋を走り抜けた。

ルイの予報では、敵の襲来はあと数分だ。

──深呼吸。

鼻から柔らかな草のにおいを吸い込み、一気に口から吐く。

少し落ち着いてきた。


恐らく、今回の戦闘で自分は何の役にも立たない。

それが分かっていたから、ラリアンの召還と契約に応じた。

本当は、街の中に閉じこもって、事の経過を息を潜めて待っていたかった。


でもこうして私がこの場にいるのは、ラリアンとの契約もあったが、ルイが戦闘に参加すると聞いたからだ。

どうしてこんな小さな子が参加するというのに、私が参加しないなんて言えようか。


「よし、頑張ろう」


気合いを入れるために、独りで虚しく声を出す。

それに気づいたルイが振り返って、


「うん、頑張ろう、なの」


と笑いかけてきた。

その笑顔が私の励みになる。

兄弟はいた事はないのに、私ってば意外とロリコンだったらしい。


そういえば、とルイは続ける。


「お姉さん、ルイの手、握って?」


「ん?」


理由を聞かないまま、上に伸ばされたルイの手を握る。


「この方が、魔法、使いやすいの」


「あ、そうなの。じゃあ、ずっと握っておくね」


何故か変態的な言葉を口走ってしまったことに少し耳を赤くしながら、ルイの手を感じる。

少し冷たいし、震えているようだ。

──そうか。そうだよね。

表面上は平気に見えるよう取り繕っているようだが、内心はルイも怖いようだ。


──頑張らないと。

小さいはずのルイの手も、今の私の手だと少ししかサイズに違いはない。

頑張っているルイのために、この世界に来たばかりの私は一体、何が出来るのだろうか。


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