61『直談判』
「やあ、夏目君。君は随分と姿が変わってしまっているんだね。直人君の方は前と全く変わっていないのに」
「ええ。そういう先輩は前と全く変わらないんですね」
心を落ち着かせ、真っ直ぐ先輩の方を見る。
「ああ、そうだね。ここに来る時にお願いしたんだよ。こちらの方が動きやすいしね」
先輩は眼鏡を反射させ、すぐ横にあった机に手を置いた。
私との会話が終わったと判断したのか、ラリアンが前に出て先輩に話しかける。
「久しいな、友よ。一体何年振りだ?前に会った時と何もかも変わらないように見えるな」
「君の方こそ。僕の記憶が正しければ、創世後から全く会っていないね。君は、創世後にすぐ世界を出てしまったから」
「あの件は済まないな。でも、根本となるのを頼んだのはお前じゃないか。忘れたのか?」
「はは、そうだったね。あの時は随分……」
しばらく、私には理解できない2人だけの話が続く。
少し嫉妬心を抱きながら、久し振りに彼の姿をよく見た。
驚くほどに、あの時と変わらない。むしろ、より格好よさが表に出たようにも思える。
そんな風に私が彼を見つめていると、やがて、直人が痺れを切らしたかのように、彼らの会話を中断させた。
「それより、俺達は言いたい事があってここに来たんです。なあ、そうだよな、明日香?」
いきなり話を振られて、肩をビクつかせる。
そんなにすぐには言葉が出てこなくてどうしようかと悩むと、ラリアンが迅速に動いた。
「そうだ。私達は言いたい事があってここに来たのだ。お前も、心当たりがあるんじゃないか?」
「……さあね。ここ最近、僕は忙しかったものだから……。勿体ぶらずに早く教えてくれないかい?」
ラリアンが答えようとするのを制して私が発言しようとすると、意外にも、今まで黙っていたルイが前に進み出た。
「お兄さんのせいだよね?ルイ達の街が襲われたの。……どうして、そんなことするの」
「君の街……っていうと、亜人の街のことかい?さあ、僕は知らないね。第一、僕は街を襲えと指示した事さえないよ」
「ルイの街は始まりの街なの!そんな事ない……!だって……」
「待って、ルイ、本当にそうなのかも知れない」
確かカオスは、誰かに命令されてきた、とははっきり言っていなかった。
それを、私達が勝手に勘違いして、こうしてここまで来てしまった。
「しかし、地下の街はどうなんだ?襲え、と言っていなくても、あの宝石を回収しろ、と命令するだけで、あの危ういやつらは容易に襲おうと判断するんじゃないか?」
「君、言葉が少し足りていないよ。それじゃあ伝わらない。もう少し詳しく話してくれないか?」
「じゃあ、ここは私が」
ラリアンもルイも感情が高ぶってしまうし、直人はよく知らないから、ここは私しか説明出来ないだろう。
先輩も頷き、腕を組んで私が話し出すのを待った。
「私がこの世界に来て間もない頃、私のいた、始まりの街が襲われました。カオス、名乗っていた男です。ご存知ですよね?」
私が相当も、先輩は私を見つめてただ黙っているだけだ。
「どうにか防ぐことが出来たのですが、まだ他にもあるんです。……音楽の街と、地下の街。どちらも、政府の手によって人々の安寧が失われました。音楽の街は音楽を失い、滅び、地下の街では多くの人の命が奪われかけ、街の存亡も危ういところまで行きました。それでも、先輩は何も知らない、と言うんですか?」
「……。にわかには信じ難い話だね。それ程にも多くの街が危うい状況に置かされていたなんて」
先輩はなお、自分がやったとは言わない。
私達は彼の意図が読めず、何も言わなかった。
「カオス、と言うとあいつの事だね。正直なことを言うと、僕もよく知らないんだ。カオスは神出鬼没でね、僕の言うことをあまり聞いてくれないんだ。それと、地下の街、の事も申し訳ない。あれは僕のせいだよ。美しい宝石を探してこい、と言ったら勘違いさせてしまったようだね。全ては僕の責任だ。どうか許してくれ」
そう言って先輩は頭を下げたので、私は慌ててその頭を上げてもらうように言う。
「先輩が謝らないで下さい。先輩のせいではないのでしょう?」
「だが……」
「お姉ちゃん、ルイから、このお兄さんにお願いしていい?」
「え……」
私がうんと言うまもなく、ルイは先輩に近寄り手を差し出す。
「ルイは、誰も悲しい思いをしてほしくない。だから、悪い人たちにも、お願い聞いて、って言って。お兄さん達がうんって言ってくれたら、ルイ達ももう帰るの」
先輩は目を見張るが、すぐに表情を崩し、ルイの手を握る。
「もちろんさ。約束するよ」
どうやら、平和的解決に至ったようで良かった。
緊張のせいか詰めていた息をゆっくり吐き出す。
「そうだ。夏目君、まだ時間があるから、君は残って僕と話さないかい?」
「えっ、あ、もちろんです!」
「私も話したい事がある」
「じゃあ、ラリアンから先に話そうか。夏目君達は外で待っておいてくれ。夏目君以外は帰っても構わないよ」
「分かりました」
ラリアンを置いて、部屋の中を出ると、すぐに話し声が聞こえ始めた。
扉の少し前で止まり、ルイ達に聞く。
「どうする?私は残る事になったけど……」
直人は私が言い終わるより先に答える。
「俺は、残る。何があるか分からないだろ?」
別に、何かあるはずもないのに、直人は少し怒り口調だ。
一方のルイは、眠そうに言う。
「ルイは、疲れたから帰るの」
よっぽど気を張ったようだ。
「じゃあ、直人も一緒に行って」
「は?」
「ルイを一人にはできない」
直人は不満そうな顔をしているが、睨みつけてどうにか言う事を聞かせる。
「じゃあね」
2人に手を振り、私は一人きりになってしまった。
扉に背中をもたれさせると、室内の会話が少し聞こえる。
「ははっ。それにしても……」
「そうだな。……」
どこか楽しげな会話に、2人が幼馴染であった事を思い出す。
転生した後のの小さい如月先輩はどれだけ可愛かったのだろう。
──会ってみたかったな。
私は頬を膨らませ、ズルズルとその場にしゃがみ込んだ。




