6『旅の計画』
「ええ、まあ、転移というか、転生というか……」
「なら、ダイスケって人知ってる?なの」
突然、ザ日本人な名前がルイの口から出て驚く。
確か、ダイスケといえばうちの学年にも何人かいたはずだ。
「ダイスケ?うーん。知ってはいるけど……」
──そんな名前の人、日本にはザラにいたしなあ。
「苗字とか分かる?」
「苗字?苗字はねえ、分かんないの。黒い髪のお兄ちゃんだった」
「それじゃあ分からないなあ。……その人は、転移者だったの?」
聞くと、ルイは元気に頷く。
「うんっ、そうなの。ニホンから来たって言ってた。お姉ちゃんもそう?」
「うん。そうだよ。でも、日本も結構広いから、全然知らない人かも。ごめんね。役に立てなくて」
「ううん。いいの。知ってても、ルイは何も出来ないし、なの」
ルイは残念そうな顔をしながら、俯いてしまった。
これはもしや、その人とルイはただならぬ関係にあったのか。
「ルイちゃんはその人のこと、好きだったの?」
「うーん、友達?かな、なの。でもね、好きだったの」
どうやら、そういう関係ではないらしいが、仲は良かったようだ。
「へえ。その人は今どこにいるの?」
聞いても、ルイは悲しい顔をするだけでなかなか答えてくれなかった。
知っているか聞くということは、何か訳ありだと思ったのだが、予想以上の威力の地雷を踏んでしまったらしい。
気にしないで、と言おうとする前にルイは口を開いた。
「むかーし、何も言わないでどっかに行っちゃったの。マスターも、ルイも、みんなで探したんだけど、見つからなかったの。もしかしたら、もう死んでるかもしれない、なの」
その言葉に、私は戦慄する。
しかし、死んだかどうかはまだ分からない。
「ねえ、この世界にはこの街以外の街もあるよね?」
急に関係のない話を振られて余程驚いたのか、ルイは素っ頓狂な顔をして、こくり、と頷く。
「じゃあ、その人のこと探してみようよ。まだ死んだと決まった訳じゃないでしょ?」
「えっ」
「私はね、ここを出て自分が住みやすい街を探してみようかなあ、って思ってる。で、ルイちゃんはその人がどこにいるか知りたい訳でしょ。何なら会いたいと思ってる。そうでしょ?」
「うん、なの」
「なら、もう決まりじゃん。私と一緒にこの街出ようよ。で、その人見つけたら、その人と一緒にルイちゃんはここに帰ってくる。ルイちゃんはもうその人のことで悩まなくてもよくなるし、私も私でいい人生になるかもしれない。いいことじゃない?」
私は早口で未来図を提案する。
ルイは相変わらず素っ頓狂な顔を崩せずにいたが、もう一度こくりと頷くと、
「ルイは、お姉ちゃんの提案に乗るの。でも、ルイからひとつお願いがあるの。……ルイちゃんっては呼ばないで欲しいの」
と言った。
「ルイは、魔法使えるの?」
前とは打って変わって打ち解けた私達は、小屋の中で向かい合って談笑していた。
ルイは少し照れ笑いをすると、予想していた返事とは違った言葉を口にした。
「実はね、使えないの。ルイには、イメージ力が足りないんだって。リナン姉が言ってたの」
「ええ。でも、マナのことよく知ってたよね」
「うん。マナを変換できなくても、感じることはできるからなの。すこーし人のオドの量を測ったり、感じたりできるの」
ルイは自慢げに胸を張る。
「すごいね。じゃあ、私のオドの量も分かる?」
「うん、分かるの。お姉ちゃんのはね、すーっごく少ないの。もう、すぐなくなっちゃいそうなの」
「やっぱり?」
「でもね、もうマナが使えるようになったからあまり関係ないの!」
「ルイのお陰だね」
「うん、ルイのおかげ!なの」
嬉しそうに胸を張りまくるルイを愛おしく見つめながら、一人意識を飛ばす。
先ほど、ノリでこの街を出ると言ったのはいいものの、特に何も決まっていない。
もう一人ぐらい旅の仲間が欲しいし、この世界のこともよく分かっていないのでどこに行けばいいのかも分からない。
──とりあえず、リナンさんとマスターに聞いてみよう。
「あ、ルイもう、ギルドに戻らないといけないの。お姉ちゃんも行こ?なの」
「そうだね」
私はルイに手を引かれて4時間ほど共にした小屋を後にした。
「旅に出たい、ですか?ルイが?」
「そうだけど、違うの!お姉ちゃんも一緒なの!」
ギルドに戻ると早速、ルイが旅に出たい旨をリナンに伝えた。
マスターは何も言わなかったが、リナンは疑いの色を顔に浮かべる。
「ええ、そうなんです。ダメですかねえ」
「ダメではないんですけど、二人ともあまりこの世界を知りませんから」
リナンのいうことも最もだ。
私がついさっき思ったことと全く同じようなことを言っている。
これは、止められてしまうかもしれない。
「じゃあ、リナン姉も一緒に行こうなの!きっと、楽しいよ?なの」
リナンはルイの言葉に目を見張ると、首を振った。
「私はギルドの事があるので、残念ながら無理です。でも、探してみましょう。誰かついて行ってくれるかも知れません」
「わーい!ありがとうなの!」
ルイは手を挙げて喜ぶと、リナンに抱きつく。
──いいなあ。私もやってもらいたいなあ。
「すみません。私のせいで……」
「いえ。ナツメさんは気にしないでください。どうせそのうち、転生者さん達は旅に出ることになりますから」
──ん?
最後の言葉が少し気になったが、突然のルイの悲鳴でその思考はかき消されてしまった。
「大変なの!すっごく危ないものがこの街に近づいてきてるの!」