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さよなら最終電車

作者: 運河

 僕は今電車を待っていた。

 ある女の子に会うためだ。

 その子と出会ったのは、高校三年の冬のことだった、、、


 彼女に出会ったその日は、冬にしてはポカポカとして暖かい日だった。

 その日、僕は高校生になって初めて寝坊した。

 目覚ましが鳴らなかったのと、冬休みに生活習慣が乱れたのが原因だった。

 バイトのない日は、一日中テレビゲームをしていた。

 そのせいで昼夜逆転した生活を僕は送っていた。

 そんな乱れた生活がいけなかったのだろう。

 冬休みが終わり、今日から学校が始まる日だっていうのに初日からやらかしてしまった。

 今日はついていないなとため息をついたのをよく覚えている。

 寝坊したせいで、いつも乗っていた電車に間に合わず、その日は次の電車に乗った。

 その車両に彼女が乗っていた。

 一目ぼれだった。

 黒髪で腰まである長い髪、目がクリっとしていて、どこか知的な雰囲気が漂っている小柄な女の子だった。

 制服姿からして、彼女は僕と同じ高校に通っていることがすぐにわかった。

 リボンの色が青色だったので、一年生だということもわかった。

 うちの学校では、学年ごとにネクタイとリボンの色が変わっていて、二年生が赤色、三年生は緑色になっている。 

 僕は初めて会ったその日から、彼女に会いたいがために、毎日その時間の電車に乗るようになった。


 あれからもう一か月が経つが、まだ彼女に話しかけたことすらない。

 せめて、卒業する前までには話しかけたいと思っている。

 毎日話しかけようと思っているうちに月日が経ってしまった。

 僕は臆病で、勇気の足りない男だ。


 「結局、話しかけられないのかな、、、」


 と駅に向かう途中に見つけた。四つ葉のクローバーを僕は眺めていた。

 そんな時、待っていた電車がホームにやってきた。

 僕は急いでカバンから筆箱を取り出し、そこに四つ葉のクローバーをしまった。

 いつもと同じ時間、いつもと同じ車両に僕は乗った。

 車内はそこまで混んでいなかった。

 車内を見渡し、すぐに彼女を僕は見つける。

 彼女は出入り口の近くの席に座って本を読んでいた。

 何の本を読んでいるのかな?と僕は少し気になった。

 彼女の隣の席が空いているのに僕は気がつき、緊張しながらも勇気を振り絞り、その席に座った。

 彼女の隣に腰を下ろすと彼女の髪からリンスの甘いにおいが漂ってきた。


 (やばい、、なんかドキドキしている、、、)


 胸に手を当てなくても、心臓の鼓動が強く感じられ、彼女に伝わってしまうんじゃないかと僕はひやひやした。

 車掌の合図で出入り口の扉が閉まり、ゆっくりと電車は速度を上げていく。

 少しすると、一定の速度になった。

 僕は緊張を解くために、何も考えないように努めることにした。


 「あの、、すみません」


 と隣に座っている彼女が突然僕に話しかけてきた。


 「はい!」


 と急に話しかけられたことにびっくりし、僕は甲高い声を上げてしまった。

 向かいの席に座っている女子高生らしき集団にくすくすと笑われてしまった。

 僕の顔は赤く染まり、恥ずかしさのあまりすぐに視線を足元にそらした。


 「あの、、すみません」

 「急に話しかけて」


 足元を見ている僕の顔を覗き見るように彼女がいった。


 「いや、大丈夫」

 「あの、、なんですか?」


 と緊張しながら顔を上げて彼女の顔に目線を移した。

 彼女の顔を初めて近くで見て、より可愛らしい顔立ちをしていることがよく分かった。


 「いえ、、えっと、、、」

 「さっきその席に栞を落としてしまって」


 ともじもじしながら、申し訳なさそうに彼女がいう。


 「え!僕の座ってるこの席ですか?」

 「はい、、、」


 僕はすぐに立ち上がり、くしゃくしゃになった栞を見つけた。

 赤い花柄模様が刻まれていた。


 「ごめん、気づかなくて、、、」

 「弁償するよ」


 くしゃくしゃになった栞を彼女に渡し、僕はもう一度腰を下ろした。

 僕の胸は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


 「いえ、大丈夫です」

 「大事なものではないので」


 くしゃくしゃになった栞の裏表を確認しながら彼女がいった。


 「いや、でも、、、」

 「本当に大丈夫ですから気にしないでください」


 と軽く微笑みを浮かべて彼女はいった。

 

 その後、彼女と一度も話すことなく、目的の駅に電車は着いた。


 (はぁ、、やってしまった、、、)


 電車から降りて、改札に出て行く彼女の後ろ姿を僕は眺めていた。


 「初めて話せたのに、まったくついてないな、、、」


 とため息をついて僕は高校へ向かうことにした。




 あれから月日が経ち、卒業式の日を迎えた。

 無事に卒業式が終わって、ぞろぞろと帰って行く中、僕は教室に残っていた。

 クラスメイトは友達との別れを惜しみ、思い出を語り合っていた。

 僕は独り、彼女のことを考えていた。

 あの日以来、僕は彼女に会うことはなかった。

 僕は毎日同じ電車に乗った。

 でも、その車両に彼女は乗っていなかった。

 陽が沈み辺りは暗くなり、僕は友達に別れを告げた。

 そして駅に向かい、高校生活最後の電車に僕は乗った。

 僕はその車両で、驚きのあまり目を見張ることとなった。

 その車両には彼女が乗っていたのだ。

 彼女は僕を一瞥し、目が合った途端、すぐに逸らされてしまった。

 彼女は気づいていないかのように、読んでいた本に目を移す。


 (やっぱり、嫌われてるよね)


 と僕は少し悲しい気持ちになった。

 あの日のように、彼女の隣の席は空いていた。

 僕は彼女の隣に腰を下ろすことにした。

 学校帰りの高校生や仕事終わりのサラリーマンですぐに席は埋まった。

 車掌の合図で、出入り口の扉が閉まった。

 一瞬、車内に静寂が訪れる。

 電車が出発して、ガタン、ゴトンと音を立てながら速度を上げていく。

 一駅、また一駅と、電車は止まっては、通り過ぎていく。

 そして少しづつ最寄り駅に近づいていった。

 僕にはそれが何だか寂しくて仕方がなかった。

 僕はあの日のことをもう一度謝りたいと思っていた。

 くしゃくしゃにしてしまったあの栞のことを。

 そんな時、僕は急に四つ葉のクローバーのことを思い出した。

 カバンから筆箱を取り出し、中から四つ葉のクローバーを見つける。

 四つ葉は少し萎れていた。あれからもう二か月が経っている。

 萎れていても仕方がないと僕は思った。

 四つ葉を眺めていた時、電車は最寄り駅の一つ前の駅に着いて、これから出発するところだった。

 もう彼女に会うことはない。あと一度でいいから話しかけたい。

 そう考えているうちに、僕は彼女に話しかけていた。


 「あの、急にごめん。僕のこと覚えてるかな?」


 と彼女に僕は尋ねた。


 「はい、覚えてます」

 「その、さっきはすみません。目をそらしちゃって、、」


 と申し訳なさそうに彼女はいった。


 「栞のことで嫌われちゃったかなと思ったよ」

 「いえ、違います!その、、恥ずかしかっただけです、、、」


 と顔を赤くして彼女は目線を下に逸らした。

 その姿を見て、なぜか僕まで恥ずかしくなってしまった。


 「そっか、ならよかった」と僕はいい、

 「あの時はごめん。もう一度君に謝ろうと思ってたんだ」


 と僕は筆箱から出した四つ葉のクローバーを彼女に手渡した。


 「え!?」


 と彼女は驚いた顔を浮かべた。


 「ちょっと萎れてちゃったけど、栞の代わりになるかな?」


 と僕は微笑んで彼女に尋ねてみた。


 「はい、、、」

 「大切な栞にします」


 とこれでもかというくらい満面の笑みを彼女は浮かべた。

 僕はその笑顔を見て、抑えきれない気持ちでいっぱいになった。


 「僕は、、君が好きだった、、、」


 小さな声で僕はつぶやく。


 「私もです。」

 「せんぱい」


 そして電車は最寄り駅に着いた。

 彼女に別れを告げ、僕は電車を降りた。

 そして次の駅に向かおうとする電車に僕はこうつぶやいた。



 さよなら初恋。。。。

           さよなら最終電車。。。。。

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