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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第7章 アヴァロン王国

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07-17 幕間/胎動

 その少年は、永い生の中でも出会った事の無い類の存在だった。

 唯一思うのは……その人間族の少年は”彼女”に似ている……そんな風に思った。


************************************************************


 ”彼女”……エルヴィオラ・ディアクロフト・ワイズマンは、不思議な存在だった。彼女は仲間達からヴィオラと呼ばれ、親しまれていた。


 地の底から這い出る邪悪な種族……悪魔族。奴等を殲滅する為に戦う彼女とその仲間達に出会い、我は力を貸す事にした。

 当時はまだ若く向こう見ずだった我だが、彼女達と行動を共にする内にヒト族という物に興味が沸いた。そして、我等は盟友となり、世界を脅かす邪悪との戦いを繰り広げた。


 悪魔族との戦いは熾烈を極めたが、我と八人のヒト達は奴等を地底に封じ込め、その上に一つの孤島を生み出した。ヒト達は”ワイズマン”というパーティ名から、島の名を”ワイズ島”とした。


 ヴィオラとその仲間達は、方々に散る事になった。

 人間族、アレキサンドリア・ランスロット・ワイズマン。

 獣人族、ビルゲート・レオライガー・ワイズマン。

 竜人族、ディアマント・ハラオウン・ワイズマン。

 エルフ族、ギャラハム・モーディリア・ワイズマン。

 ドワーフ族、ヨシュア・ノクトリア・ワイズマン。

 ダークエルフ族、ティルファニア・フランドール・ワイズマン。

 魔人族、アヴリウス・グランセニック・ワイズマン。


 彼等は将来、封印から解放されるであろう悪魔族に対抗する為に、概念魔法アカシックレコードを後世に残す準備をすると言う。

 それが今生の別れになるであろう事は解っていたが、我は彼等を見送る事しかできない。願わくば、彼等の想いが後世の世界にとって意義のあるものとなる事を、我は祈り……島で眠りに就く事にした。


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 予想外にも、ある者とだけは再会する事が叶った。ヴィオラがある日、我の眠る島を訪ねて来たのだ。

「ごめんなさい、眠りの邪魔をしてしまったかしら?」

『構わぬ、ヴィオラ。汝ならば歓迎しよう……して、今日はどうしたのだ』


 我の言葉に、ヴィオラは眉尻を下げて口を開いた。

「ヒト族は、概念魔法アカシックレコードを、同族同士の侵略行為の為に使うつもりよ。いずれ、この島にもやって来るかもしれない……」

 ワイズマン達がそれぞれ大迷宮を作るきっかけとなった、ヒト族の暴走。それを引き起こした、神の悪意。

 悪魔族を封印したというのに、平和は訪れなかったのだ。


「神格を得た我々を、世界を統べる神は邪魔者と見做しているわ……大迷宮は概念魔法アカシックレコードで隠せるけれど、ここは何も手を付けていないの」

『この島を神やヒトから隠す気か。しかし、それでは……』

「勿論、その為の手は打つわ。この島の四方に転移門を設置するの。ここに来るまでに用意して来た各大陸の遺跡に、対となる転移門を隠したわ。概念魔法アカシックレコードか、”複合魔法”でも使えない限りは見つかる事は無い」

『……ふむ、話は解った。汝のやる事ならば、早々悪い事にはならんだろう』

 我の返答に、ヴィオラは笑顔を見せた。


 それからしばらくして、ヴィオラが逝った。

 我はその亡骸を、誰にも汚されぬようにと天空の彼方へ送った。


 それから、我は永い……永い年月を過ごした。何も無い、退屈な月日が流れるだけであった。

 友との別れから、果たしてどれ程の年月が経ったのか。数百年に一度、目を覚ましては姿を変えて、ヒト族の世界を見て回る。

 そんな暮らしが、一万と八千年は続いた。


************************************************************


 ある日、島の転移門が起動したのが解った。何者かが、あの島を訪れた。

 島に戻った我の目に映ったのは、人間族の小僧と二人の小娘、そして獣人の小娘。概念魔法アカシックレコードも持たない、ただのヒト族。

 どのような方法であの転移門を起動したのか解らぬが、試してみるか。


 我の言葉に、娘達を何処かへと送った小僧が笑う。

「戦略的撤退は好きだが、尻尾巻いて逃げるのは嫌いでね」

『独りで我と戦う気か』

「戦いになるかね?」

『図に乗るな、小僧』

「頭が高い、黒トカゲ」

 そう言えば、ヒト族と話すのも一万八千年ぶりか。こいつは、良い退屈しのぎになりそうだ。


『上手く避けたようだな、逃げるのは得意か』

「逃げたんじゃなくて、避けたんだよ。それよりドラゴンさんよ、試験はまだ続くのか?」

 見た事も無い武器による攻撃は、我の鱗を砕き、肉を抉った。

 更には我が試している事を察した……ただの命知らずではないようだ。

 このヒト族は、ワイズマン達と同じだ。実に面白い。

 もう、この世には居ないであろう八人のワイズマン達。こやつは、その足跡に辿り着くやもしれぬ……。


 戦いの中、この小僧は予想外の力を発揮し、我の身に傷を付けた。

「……届かなかったか」

 そう、残念そうに口にする小僧。

 しかし我はそうは思わなかった。純粋な……そして唯一の何かを、小僧に見た。

『……届いたとも』

 我は自慢の尾で小僧を吹き飛ばす……殺しはしないとも。


 意識を失った小僧を見て、我はある事を考えた。

 悪魔族の侵攻は、恐らく近いだろう。

 小僧はワイズマンの足跡に辿り着く可能性を持っている。なれば、この小僧に我が加護を与えるのはどうか……。

 ()()()()()()()()我の加護を与える為には、我は一度転生をせねばならぬ。

 卵に還っている間は、この小僧の”見た物で”退屈を凌ぐとしようか。


************************************************************


 面白い。このヒトは、心底面白い。

 しばらくの間、このヒトの旅路を眺めていた。エルフ族の国、魔人族の国……何という大暴れ。流石に驚いた。

 更に、新しい国を建国するとは。異例の早さで造られた城で、そのヒトはこんな事を言う。


「……お前さんがどんな意図で、僕にこの島を譲ったのかは解らないけどね。僕なりに、この島を豊かにしていくつもりだよ。見守っててくれよな、神竜さんよ」


 ……このヒトは……いい。

 早くこのヒトと話したい。

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