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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第7章 アヴァロン王国
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07-14 幕間/マサヨシ・カブラギの独白

 俺は鏑木正義、都内の高校に通う受験生だ。

 もう進学先も、目指す進路も決まっている。俺は親父のような、立派な警察官になるんだ。

 正義感溢れる市民の味方になる。

 ……そんな俺は、何故異世界なんかに召喚されたのだろう。


************************************************************


 俺が召喚されたのはクロイツ教国。この世界を脅かす魔王を討伐する為に、神の力を借りて召喚されたらしい。

 つまり、彼等は理不尽に脅かされる人達なのだ。

 そして一緒に召喚されたのは、気弱そうな女の子。


 俺が召喚されたのは、きっと運命だ。この国を、この少女を、そして罪のない人達を救うために、俺が魔王を討伐すると決意した。

 それが、正義の味方の在り方だからな。


************************************************************


 順調に成長した俺は、仲間を連れて魔王国に転移した。

 他の三人は腰が引けていたが、大丈夫だ。俺が必ず守ってみせる

 そう思っていた矢先、魔人族に見つかり戦闘になった。


 神様の加護を受けている俺には、大した脅威ではない。この、神様から授けられた聖剣で……! 

「ぐ……っ、ディアンヌ、息子を頼む…………!」

 ……息子? ディアンヌ? 

 家族であろう名を呼ぶ男の声に、俺は躊躇ってしまった。

 その隙に、右肩に剣を受けてしまう。

「ぐぅっ!?」


 ……彼等は、これまで討伐してきた魔物とは違う。

 意思を持ち、家庭を持ち、家族を想うことの出来る……俺達と同じ、ヒトだった。

 そこから、俺は彼等に対して剣をうまく振るえない。だって、俺達と変わらないんだぞ。


 ……


 そいつが現れたのは、その時だった。

 圧倒的な力で、魔人族を殺していく少年。そして、最後に生き残った男も尋問……いや、拷問の末に殺害した。


 ――そいつの名前は、ユート・アーカディア。


 俺はそいつが気に食わない。そいつは偉そうな態度で俺達を見下し、馬鹿にするような事を言う。

 女の子を四人も連れているが、揃いの服を着せて侍らしている。しかもその中の一人は、獣人の奴隷だ。

 こいつは女の子を何だと思っているんだ、まるでコレクションじゃないか。


 しばらくして、魔王から紹介されたクリスティーナ姫……幼い容姿だが、俺達より歳上らしい。きっとそいつは彼女も、そして俺の仲間のメグミやマナもその毒牙にかけようとするに違いない。

 そうはさせない、俺が必ず守ってみせる。


************************************************************


 大迷宮に向かうというユート・アーカディア。奴に騙されているだろう女の子達が心配で、俺達も大迷宮に向かう事にした。

 途中で銀級冒険者のグレン達に出会ったが、彼等は互いに了承した上で一夫多妻の関係らしい。ユート・アーカディアとは大違いだ。


 結局、大迷宮ではヤツとその被害者達、そしてメグミが概念魔法アカシックレコードを獲得しただけで、俺達に収穫は無かった。

 メグミは、ケルベロスに襲われるユート・アーカディアを守ってその攻撃を受け止めたのだ。あんな奴を守らなくても良いのに……しかし、メグミは優しい子だからな。

 そうさ、誰であろうと守ろうとするメグミは、本当に優しいんだ。

 俺のパートナーだからな。


 ……


 大迷宮から戻った俺達は、魔王に概念魔法アカシックレコードの事を話す。その際に、ユート・アーカディアが余計な口を出した。

 こいつ、自分は概念魔法アカシックレコードを会得できたからって、調子に乗っているに違いない。


 そんな中、魔王国の兵士が報告した内容……先代魔王の兵士達が、王都に攻め入ろうとしているらしい。

 俺達は戦う覚悟だが、またもやユート・アーカディアは魔人族を、見捨てて帰還を勝手に決めてしまう。


 魔王はクリスの背を押し、俺達と一緒に転移させた。兄心なのだろう、その精神には敬意を評する。

 哀しみに暮れるクリスを慰めていたら、ユート・アーカディアは謎の力で転移魔法陣を展開した。

 こいつ、何でそんな事が出来るんだ……俺達にも出来ないのに、おかしいだろ。

 こいつは、何かがおかしい……。


 更に、奴は魔王国でバイクを出した。何処から出た、何でバイクがこの世界にある!?

 色々と問い質したかったが、ユート・アーカディアは事もあろうにメグミとクリスを連れ去って、北の門へ向かってしまった。


 バイクに追い付けるはずがない……しかし、追い掛けないわけにはいかない。

 あんな奴にメグミやクリスを奪われてたまるか!  キリエや他の子達だって無理矢理突き合わせているに違いない!

 俺が、彼女達を救うんだ! 


 ……


 俺達が北の門に辿り着いた頃には、戦闘は終わっていた。

 魔王との謁見で、ユート・アーカディアが呼び寄せたのがイングヴァルト王国やミリアン獣王国、ヴォルフィード皇国の王族だと解った。

 そんな人達を戦場に駆り出す馬鹿が居るか! 

 それに、ここ最近メグミやクリスの俺に対する態度もおかしい。

 もしかして、ユート・アーカディアに洗脳されているんじゃないだろうか……。

 きっとそうだ、そうに違いない。


************************************************************


 あり得ない……奴はやはり洗脳が使えるに決まっている。

 クリスが、俺達じゃなく奴のパーティに行くなんておかしい。それを、魔王ですら最後には納得してしまった。こんなの絶対に間違っている!

「はっ反対だ! そんなのクリスの身が危ないっ!!」

 クリスを思い、言葉を尽して説得しようとしたが、一蹴された。


 勇者である俺の言葉を無視するなんて尋常じゃない。やはり、ユート・アーカディアは洗脳の魔法とかを使える事を確信した。

 教国に戻れば、洗脳を解く手段があるかもしれない……。


 ……


 ……奴が所有するという島、アーカディア島は天空に浮かぶ島だった。

 各国にある転移門を見つけ、この島を見付けた……そうか、ユート・アーカディアはここに来た事で、あれほどの力を得たんじゃないのか?

 きっとあのバイクやこの車は、過去に召喚された勇者の遺産に違いない。つまり、ここは神様が勇者の為に用意した島だったんだ! 

 それを、勇者でもないコイツが横取りして……そうか、そういう事だったんだ! これも、クロイツ教国に話さなければ! 


 ……


 四カ国会談は、平和に終わりそうだ。

 しかし会談の終盤、イングヴァルトの王子であるアルファルド殿下から、信じられない提案が出された。

「ユート、このアーカディア島で新国家を建国しろ」


 ……あり得ない。

 こんな奴が国の王になる? そんなの、洗脳される人が増えるだけだ! ここは食い止めないと!

 次々と賛成意見が出る中、まさかの人物が賛成した……俺のパートナーのメグミだ。

「あっ、勇者という立場は置いて、一人の後輩として私も賛成します」

 まずい、やはりユート・アーカディアに洗脳されて……!!


「メ、メグミっ!? 本気か!? あんな奴が王様になったら、とんでもない国になるに決まっているじゃないか!!」

 何とかメグミを正気に戻そうと説得するが、メグミは冷たい視線を俺に向ける。

「鏑木さんは黙っていて下さい。私の意見を述べただけです、その意見を変えるつもりはありませんから」

 メグミが、俺にこんな視線を向けるはずがない。俺達は信頼関係で結ばれたパートナーなんだ。

 洗脳を解く手段を……その為にも、一度教国に帰らなければ……。


 その後、国のトップ達まで建国に賛成してしまった。奴の洗脳は国王達にまで及んでいるのか……。

「……建国、一応頑張ってみます……」

 白々しい野郎だっ!! 絶対に化けの皮を剝してやる!!


************************************************************


 アーカディア島に滞在する間、俺は奴の洗脳を解く手掛かりを探して屋敷を捜索する。

 外から見たら三階建てなのに、二階から三階に登る階段がないのはおかしい。きっと隠し階段があって、そこに奴の秘密が隠されている……。

 俺はそう確信して、屋敷内を捜索し続けたのだが……駄目だ、見つからない。おのれ、ユート・アーカディアめ。


 ……


 ユート・アーカディアは、やはり碌でもない人物だ。

 勇者の島を占拠、罪もない女の子達を洗脳、王の座を掠め取るばかりか、彼女達と婚約だと!?

 流石にメグミやマナは洗脳不足なのか、そんな事は言い出さなかったが、時間の問題かも知れない。

 早く、洗脳を解除する手段を手に入れないと!


 キリエや、アリス・リインのような貴族の女の子。王族のクリス。不当に奴隷にされたアイリ。

 実力もあり、美しい彼女達は、勇者である俺の隣に居るのが相応しいんだ。

 彼女達は、ユート・アーカディアに……汚されるかもしれない。それでも、彼女達を俺は受け入れてやるつもりだ。

 ユート・アーカディアを倒し、彼女達が立つべき場所に帰らせてやらなければ……。


************************************************************


 翌朝、朝食の席で俺はユート・アーカディアに宣言する。

「ユート・アーカディア、後で話がある」

 意に介さず、という態度のコイツが、ムカついて仕方ない……しかし、ここは我慢だ。


 そんな中、メグミも口を開く。

「五カ国の会談も見届ける事が出来ました。なので、私達はクロイツ教国へ戻り、これらの件を教皇様に報告するべきでしょうね」

 良かった、メグミはまだ理性が残っていたみたいだ。勇者としての使命を忘れていなかった。

 ……これなら、教国ですぐに洗脳を解除する事が出来るかも知れない。


 朝食の後、俺はユート・アーカディアを庭園に連れて行った。平然としているように見えるが、内心は悔しいに違いない。

「メグミはお前のモノにはならないぞ、残念だったな」

 悔しさ故か、ユート・アーカディアは何も言わない……いや、言えないんだろう。

 勇者の名に賭けて、コイツの野望は俺が打ち砕く。


「お前の思い通りにはさせない、俺から言う言葉はそれだけだ……覚えておけ」

 そう言い残して、俺は屋敷に戻る。

 この島も、女の子達も、王の座もユート・アーカディアではなく、勇者であるこの鏑木正義……いや、マサヨシ・カブラギにこそ相応しい。

 俺は必ず、コイツから必ず全てを取り戻してみせる。


************************************************************


 俺達は転移したイングヴァルト王国から、ファムタール騎士国を横断してクロイツ教国へと帰還する。

「五日もかかってしまったな」

 俺の言葉に、マナが反応する。

「アヴァロン王の転移魔法とか、自動車にお世話になってたもんねー。普通の旅って、こういうものだよね」

 そんな言葉に残る二人も苦笑しているが、俺は笑えなかった。やはり、奴の洗脳は厄介だ。


 ……


 クロイツ教国に戻った俺達は、教皇猊下に謁見する。

「オーヴァン魔王国に転移した事故は、偵察に向かう為の魔道具があると唆されたからです」

 俺の言葉に、教皇猊下は頷いた。

「犯人はヒルベルト王国の使者であった。罪人は命をもって償い、神の御前へと導かれたであろう」


 教皇猊下の言葉に引っ掛かるが、日本にだって死刑制度はある。

 勇者を唆したことは、世界を危険に晒す行為。それだけの重罪という事だろう。


「ヒルベルト王国に勇者を擁する資格は無い。勇者マナ・ミナヅキと勇者ユウキ・サクライは、今後クロイツ教国の預かりとする」

「成程、解りました」

 桜井はともかく、マナは魔導師の適性がある。クロイツ教国に所属し、洗脳を解ければユート・アーカディアに対する貴重な戦力になってくれるはずだ。


「して、勇者達よ。お主達は魔王国で、何を見た」

「はい、まずは先代魔王の尖兵と戦闘し、勝利しました。その後、魔王の部下に捕らえられそうになりましたが事無きを得て、魔王に会うことが出来ました。今はまだ、魔王は友好的に対応してくるようです」

「魔王を油断させ、懐に潜り込むとは! 流石は我が国の勇者達よ!」

 魔王を油断させて……そう、そうだ。魔王は、魔人族は人類の敵なんだから。


 そこで、メグミが立ち上がった。

「……いえ、それは……えっ!!」

 兵士達が、武器を構えて俺達を囲む。な、何だ!?

「今は勇者マサヨシ・カブラギ殿が話をしている最中だ。身を守るしか出来ない勇者は黙っていろ」

 その物言いはあんまりだと思うが、洗脳されたメグミ達に喋らせてはいけない。俺はさっさと、話を進めることにした。


「それで、魔王はどうした? それに、魔王には妹が居たはずだな」

「それは……」

 魔王はユート・アーカディアの洗脳が進んでいると判断せざるをえない。しかし、クリスには何の責任もない。


「魔王は、ユート・アーカディアを名乗る冒険者と結託しています」

「なっ!?」

「鏑木さん、何を……!?」

「待って下さい、それは違います!!」

「黙っていろと言っただろう!!」

 突き付けられた武器に、三人が口を噤む。

 ……洗脳された皆には申し訳ないが、仕方ない。しかし、万一の事があってはならない。

「手荒な事は避けてくれ、大切な仲間なんだ」

「……はっ」

 神殿の兵士は、流石に話がわかるな。


「そのユート・アーカディアを名乗る男は、先代勇者レオナルドと聖女アリアの息子と身分を偽っています。更には神が勇者と、それを擁する国の為に用意した天空の島……アーカディア島を占拠しています」

「……そんな島が実在するのか?」

「はい、確かにこの目で確認しました」

 訝しげな教皇猊下だったが、俺の言葉をひとまずは信じてくれたようだ。


「ふむ、良かろう……それで?」

「その島には、過去の勇者が遺した遺失魔道具アーティファクトが存在します。それを悪用したユート・アーカディアは、四大陸の王を洗脳しています。それに貴族と詐称して、各国の優秀な貴族の娘を洗脳して手中に収めていました。獣人に至っては不当に奴隷として従わせている始末です」

「なんと……由々しき事態だな」

 本当にそうだ。早く何とかしなければ……その為には、国の力を借りるしかない。


「それと各地の大迷宮には、概念魔法アカシックレコードが隠されています。恐らく、過去の勇者が後世の勇者の為に遺したのかと。奴はオーヴァン魔王国で、守護の概念魔法アカシックレコードを手に入れました。我々はヤツの妨害に逢いましたが、かろうじてメグミが概念魔法アカシックレコードを習得しています」

「おぉ……大迷宮の最深部には何かがあると思っていたが、まさかそんなものが秘されていたとは!」

 そうか、大迷宮はどこもまだ攻略されていないんだったな。


「おそらく奴は優秀な者を集め、自分の勢力を作って世界を支配するつもりだと思います。既にイングヴァルト王国、ミリアン獣王国、ヴォルフィード皇国、オーヴァン魔王国の王族達は、奴の洗脳を受けて配下にされ、世界同盟などという勢力を作るに至っています。おそらく、洗脳で偽りの情報を真実と思い込ませているのだと思います!」

「なんと! そんな事を、神がお許しになるはずが無い!」

「世界同盟の盟主の立場を利用し、クロイツ教国にも牙を剥くでしょう。そうなる前に、手を打つべきです!」

「そなたの言う通りだ、勇者マサヨシ! よくぞ報せてくれた!」


 教皇猊下は流石だな。俺の言葉を、すんなり信じてくれた。

 これならば、きっと仲間達の洗脳を解く手段も……!!

「教皇猊下、俺の仲間達も奴の洗脳の影響を受けています! 三人を救って下さい!」

「鏑木さん、正気ですか!?」

「そうだよ、メチャクチャ言って、どうしちゃったの!?」

「無駄です、鏑木さんは”そういうタイプ”の人なんです!」


「勇者達よ、手荒な真似はしたくない。洗脳解除の儀式を受け入れよ」

「「「嫌です!!」」」

 立ち上がって、距離を取る三人。くそっ、何でこうなるんだ。

「止むを得ないな、神殿騎士達よ!」

 神殿騎士達が三人に鎖を投げ付ける。

 油断していた桜井とマナは鎖に拘束された。だが、メグミは盾でそれを防御したようだ。


「流石、俺のパートナーだ。大丈夫、俺が君を救ってみせるよ」

「カブラギさん、あなたは狂ってます!」

「可哀想に、奴の洗脳は凶悪だな。でも大丈夫、俺が思い出させてみせるよ、二人で一緒に積み重ねてきた時間を、取り戻そうメグミ」

「くっ……!!」


 メグミから展開されたのは、魔法の壁だ。殺到する鎖から、自分とユウキ・マナを守る。

「流石、守る事にかけては一流だな。でも、身を守るだけではいけない。君が人を殺せないなら、俺が代わりに殺すよ。ユート・アーカディアも、君を惑わす者は全てね」

 メグミは歯を食いしばって、魔法の壁を展開し続ける。


************************************************************


 随分と長い時間、メグミは壁を展開し続けている。

「魔法障壁を破れ! 剣を取り、彼女達にかけられた呪いを浄化しろーっ!!」

「「「「おぉーっ!!」」」」

 剣を翳し、騎士達が駆け出す。

 俺も聖剣をゆっくりと抜き、メグミに向けて歩き出す。


 この時、俺は騎士達の喧騒に掻き消され、特徴的なあの音……”銃声”に気づく事が出来なかった。


 突如、メグミの障壁の中に降り立った影。黒い髪に黒いコート、そして黒い銃剣を構えるあの憎き敵。

 ユート・アーカディアだった。

 奴は、どこからともなくガトリングガンを取り出し、構える。

「なっ……そんな物まで!?」

 ――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……ッ!! 

 兵士達に向けて、情け容赦の無い銃撃が放たれた。


「くそっ!!」

 俺は物陰に隠れ、その銃弾の雨を避ける。

 教皇猊下は……うん、魔法の障壁に守られているらしいな。教皇猊下は安全だ。


 数秒して、銃声が止むと……その場に居た騎士や兵士が地面に倒れ伏していた。全滅……だと。

「色々言いたい事はあるが、お前はそこで何をしているマサヨシ・カブラギ」

「……ユート・アーカディアッ!!」

「ユート・アーカディア・アヴァロン国王陛下、だろ。誰の許しを得て呼び捨てにしている、三下勇者」

 ヤツから放たれる威圧感……くそっ、偽物風情がっ!! 


「貴様がアヴァロン王国等という国を、勝手に神の地に作った不信心者か」

 教皇猊下がユート・アーカディアに誰何する。

「誰だテメェは、頭が高いぞ」

「貴様こそ頭が高いぞ偽りの王。我はゴルトローゼ・マルクト・クロイツ。このクロイツ教国を束ねる教皇だ。此度の騒乱、貴様の命で贖い切れるか否か……神の裁きを待たずして、我が神罰を下そうではないか」

 流石は猊下、ヤツ相手に一歩も引かない。


「寝言は休み休み言うんだな。まぁ良い、このままやり合っても良いんだが、ちょっと人を待たせているから……なっ!!」

 ――ドパァンッ!! 

「ぐおぁっ!?」

 馬鹿なっ!! 魔法の障壁を破っただと!? 

 猊下は背後にあった魔道具の爆発で、吹き飛ばされた。破壊したのは結界魔導具、この魔法発動阻害の結界を展開する魔導具だ。


「メグミ、二人を連れてアヴァロンに飛べ。キリエ達を迎えに行く」

「先輩……はいっ!!」

 また、あの転移の弾でメグミ達を転移させた。俺の目の前で、メグミを奪う気か!!


「貴様っ、メグミ達をどうする気だ!」

「お前こそ、メグミ達をどうする気だったんだ、マサヨシ・カブラギ」

「知れた事、お前のかけた洗脳を解くに決まっている!!」

「……ちょっと何言ってるか解りません」

 惚ける気か、この男は!


「お前に会ってから、メグミは変わった! それまでは俺に着いて来てくれて、頼ってくれていたのに! 俺のパートナーだったんだ! それをお前がっ!!」

「自意識高い系男子、ちょっと寝言は寝てから言ってくれる? 俺、洗脳なんかしてないし」

「黙れっ!! 勇者の息子だとか、貴族だとかも嘘に決まっている! メグミは俺のものだ、お前なんかが……ぐふぅっ!?」

 俺の腹に、奴の蹴りが突き刺さる。何だ、この威力……っ!! 勇者である俺が……っ!?

「勘違いも程々にしとけ、クソ勇者。メグミはお前のものじゃない」


「貴様……こんな事をして、タダで済むと……」

 俺が痛みに耐えていると、ユート・アーカディアは地に伏す猊下に向けて歩み寄る。

「タダで済むと思うな、ってか? そっくりその言葉を返すよ、クロイツ教国教皇猊下」

 よりにもよって、奴は猊下の頭を踏み付けやがった。

「よく覚えとけよ、耄碌爺。俺は味方に対しては寛大だが、敵に対しては容赦は一切しない。お前達のスタンスが解らなかったから、今回は半殺しで済ませてやっただけだ。今後、俺に刃向かうなら覚悟を決めろ。お前の国が滅ぶ覚悟をな」

「ぎっ……ぎざまっ……!!」


 奴は……危険だ!! このままでは、世界が……っ!!

 痛みに耐えて、俺は何とか立ち上がる。

「ユート・アーカディアッ……!!」

 俺は確信した。俺達が召喚されたのは、こいつを倒すためだ……!!

「お前の思い通りには……させないっ!! メグミも……キリエ達も俺がっ……解放してみせる……っ!!」


 俺の宣言に、奴は溜息を吐く。

「いいかマサヨシ・カブラギ。馬鹿に対して”貴方は馬鹿なんですよ”って懇切丁寧に諭してやるほど俺はお人好しじゃない。それとな……」

 痛みで碌に動けない俺に、奴は卑怯にも腹パンを繰り出して来た。

「ぐぉぇっ!!」

 強烈な痛みで、意識が朦朧とする。

 くそっ、俺は……っ!! 

 俺、は…………。


************************************************************


 目を覚した時には、全て奴に奪われた後だった。

 クロイツ教国は、各国に声明を出す事を決定した。

 アヴァロン王国は、神が用意した勇者の為の地を簒奪した冒涜者の国だ。嘘偽りで塗り固められた王はクロイツ教国の神殿に押し入り、三人の勇者を不当に拉致した大罪人だ。

 魔人族との決戦を前に、まずはアヴァロン王国を打倒し、あるべき物をあるべき場所に還すべし、との事だ。


 勇者の名の下に、俺がユート・アーカディアから全てを取り戻してみせる。

 本当の戦いは、これからだ。

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