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刻印の付与魔導師(エンチャンター)  作者: 大和・J・カナタ
第7章 アヴァロン王国
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07-12 落成式/新たな同盟国

これまでのあらすじ:王城が完成しました。


 完成した王城で、僕達は各国のお客さんを迎える準備をしている。

 今回、落成式に呼んだのは当然、身内ばかり……のはずだった。

 まず、イングヴァルト王国からは国王一家、アークヴァルド公爵家一家。

 加えてドーマ支部長とソフィアさん。この二人を連れて来た理由は、後で。

 兵士の詰所から、拉致……もとい、僕の一存で国王陛下の護衛役として指名されたノエルさん。


 ミリアン獣王国からは獣王一家、そして宰相一家。

 なんと、宰相の娘さんがブリックの婚約者なのだと言う。宰相と同じ白い毛並みの虎人族、マチルダさんだ。

 ヴォルフィード皇国からは皇帝一家、ヴォークリンデ公爵家一家。

 オーヴァン魔王国からは、魔王アマダムに付き従って来た四伯爵。

 この辺は、マチルダさん以外は予測していたよ。こちらの参加者達は、一部を除いて非常に静かだ。


 そう、サプライズゲストのせいである。


「いっやぁ、こいつは見事な出来だなぁ」

 獣人族の英雄・拳聖ベアトリクス。

「全くだ、それにしてもあのハナタレ小僧が一国の王になるとはなぁ」

 ダークエルフ族の英雄・剣鬼ローレン。

「世の中解らないものね、ユートは確かに只者では終わらないとは思っていたけれど」

 エルフ族の英雄・大魔導師エメリア。

「ハハハ、相変わらずちっこいなアマダム!」

 ドワーフ族の英雄・特級鍛冶職人ガンツ。

「うるさいよ! 身長で言えばガンツと大差無いだろう!」

 魔人族の英雄アーカムこと、当代の魔王アマダム・ガルバドス・ド・オーヴァン。


 そして……。

「これがお前らの新居かー。いやー、とんでもねぇな!」

「ユート、もしかしてまた()()()んじゃない? 自重しないと駄目よ?」

 先代魔王討伐の勇者レオナルドと、人間族の英雄・聖女アリア。

 そう、勇者レオナルドとその仲間が勢揃いしたのだ。


 そう、()()()である。


「久しい」

 素っ気ない口調で僕に話しかけて来たのは、残る一人の英雄。竜人族の英雄、竜騎士リンドヴァルム。通称リンドさんだ。

 外見は三十代前半くらいに見えるが、実際は二百歳は超えているそうだ。

 青い髪の毛をしているのだが、これはおじさんの生まれた部族の特徴だ。そう、瑠璃竜の血統である瑠璃の部族出身なのである。


「やぁ、リンドさん。今日は来てくれてありがとう、久し振りに会えて嬉しいよ」

「ご無沙汰しております、リンドさん。今日はどうぞ楽しんで行って下さいね」

 面識のある僕とキリエが挨拶をすると、リンドさんは口元をちょっとだけニッと笑みの形にした。寡黙な人で、あんまり喋らないのだ。


 婚約者達は緊張気味だ。リンドさんだけならここまで緊張はしなかっただろう。

「失礼するぞ、リンドヴァルム。アヴァロン王、話の最中に横から入る無礼を、まずは詫びさせて貰おう」

「いいえ、()()()()。こちらこそ、真っ先にご挨拶すべき所を、大変失礼しました」

「構わぬよ、ワシより先にリンドヴァルムが話しかけたのだからな。話には聞いていたが、本当に勇者殿と聖女殿の息子だったか、グハハハハ!」

 そう、ジークハルト竜王国が国家元首、竜王陛下である。


「改めまして、ユート・アーカディア・アヴァロンです。武人としても為政者としても、高潔と名高い竜王陛下にお会い出来て、光栄です」

「竜王フレズヴェルグだ、宜しく頼むよアヴァロン王」

 僕達は、ガッチリと握手を交わした。そんな訳で、竜王陛下とリンドさんが電撃参戦したのだ。


 ……


 落成式に出す料理は、今回もビュッフェスタイルにした。この方が、色んな人と会話をしやすいからね。

 お客さん達には、城の一階にあるパーティールームに集まって貰っている。今はもう、各々のグラスに酒を注いで(未成年組は果実水)待っているだろう。


 ……あぁ、この格好にも慣れないといけないのか……。

 着ているのは上質な黒い軍服のような物に、紅いマント。軍服には叙勲した各国からの勲章を右胸に、アヴァロン王国の紋章をあしらったエンブレムを左胸に付けている。

 通称・王様装備である。


 ちなみにアヴァロン王国の紋章は、皆で築城中に考えた。

 竜のシルエットが描かれた円卓。これは勿論、アーカディア島の先代所有者である、神竜を意識している。

 円卓の周りに七つの剣。これは国家を成す七種族だ。

 この構図は世界同盟を意識している。七つの種族が円卓に就いて力を束ね、世界の脅威に立ち向かうようになって欲しい……そして、アヴァロン王国はその為に力を尽くすという意味を込めている。

 紋章は格好良い出来になったとは思うんだけどね。


「に、似合わないっ!!」

 豪勢な服に、僕の容姿が負けているとしか思えない。しかし、婚約者達は真逆の意見で……。

「いえ、格好良いですよユーちゃん!」

「ユート君にピッタリです!」

「正しくユート様の為にある服ですからね!」

「玉座にそれで座って下さい、ユートさん!」

「……いい、ユートすごくいい」

「先輩、とても素敵です!」

 君達の美的センスは大丈夫かと、問い掛けたくなった。


 ちなみに、皆は煌びやかなドレス姿だ。今回は全員お揃いの僕がデザインしたドレスなのだが……ヴェールの無いウェディングドレスみたいな感じだ。

 何故なら……一応、婚約披露パーティーを兼ねる事になったからだ。

 ほぼ身内とは言え、各国の王や英雄達を前に婚約の事を言わない訳にもいかないし。


 ドレスは、実際のウェディングドレスみたいにならないように、白以外の生地で仕立てて貰っている。

 キリエは髪色と同じ紺色。

 アリスは蒼。

 アイリは灰銀。

 リインは翡翠色。

 クリスは藤色よりの紫色。

 メグミは桃色だ。

「似合っているのは皆の方だ、とても綺麗だよ」

 僕の言葉に全員が照れた。言って僕も照れてしまった。


 ……


「……さて、あまり待たせるわけにもいかない……行くかぁ」

 意を決して、僕は自室から婚約者達と一緒にエレベーター玉座で下降する。謁見の間の下にあるパーティー会場にも、行ける様になっているのだった。

 僕の遺失魔道具アーティファクトを見た事がない面々が驚いて目を丸くしているが、とりあえず置いておこう。


「本日は、アヴァロン王国の王城落成式に参加してくれた事を、心から嬉しく思います。改めまして、アヴァロン王国国王のユート・アーカディア・アヴァロンです」

 僕がお辞儀すると、盛大な拍手が起こった。

「また本日は、私と婚約してくれた彼女達を皆さんに改めてご紹介するため、婚約披露パーティーを兼ねさせて頂きました。身内を中心に集まって貰った為、規模はささやか……らしいですが、僕的にはこれで多いと思ってしまう現状。早く慣れないとなーとは思ってます。まぁ、ささやかながら面子は豪華だからいいよね!」

 僕の発言に、そこかしこで苦笑している人達。いや、前世ではバイトの先輩に、挨拶には重くないジョークを交えるモノって聞いていたからさ。


「それでは紹介します」

 僕の言葉に続き、一緒に”天空王の玉座”に乗っていた婚約者達が前に出る。

「キリエ・アーカディアです。ユート・アーカディア・アヴァロン陛下とは義理の姉弟として育ちました」

「イングヴァルト王国アークヴァルド公爵家が長女、アリシア・クラウディア・アークヴァルドで御座います」

「ミリアン獣王国出身、アイリと申します」

「ヴォルフィード皇国ヴォークリンデ公爵家が次女、リイナレイン・デア・ヴォークリンデに御座います」

「……オーヴァン魔王国、魔王アマダム・ガルバドス・ド・オーヴァンの妹、クリスティーナ・ガルバドス・ド・オーヴァンです」

「地球……いえ、異世界から勇者として召喚されました、メグミ・ヤグチと申します」

 それぞれがカーテシーをしながら挨拶をし、全員の自己紹介が終わった所で拍手が巻き起こる。


 拍手が止むのを見計らって、僕は言葉を紡いだ。

「心優しく魅力的な彼女達と婚約した事は、僕の人生において最上級の喜びです。彼女達と共に、アヴァロン王国を豊かな国にしていきたいと思います」

 僕は、レイラさん達が持って来てくれたグラスを手に取り立ち上がる。

「皆様、本日は本当にありがとうございます。心ゆくまで樂しんでいって下さい。それでは……」

 グラスを掲げ、挨拶を締める。

「乾杯!!」


************************************************************


 僕達は基本的に挨拶回りで、酒は進むが料理はあまり食べられていない。

 後で、残り物でも摘むとしようか。残飯処理係系国王……。


 各国家は入り混じり、話に花を咲かせている。

 その中でも存在感溢れるのは、やはり勇者レオナルドと七人の英雄達。アーカムの正体が、魔王アマダムだと知った人達は驚いていた。

 勇者のファンであるドーマ支部長やソフィアさんが、滅茶苦茶緊張しながらもこっちを見て来たので、父さん達に紹介する羽目になった。

 緊張するのも仕方がないだろう、その席には各国の王も集っていたのだから。僕は、ほらホストだから……新米国王だから混じらなかったよ。


 殿下勢や貴族勢が集まるテーブルも、随分と華やかだった。

 婚約者持ちがアルファ・リアと、ブリック・マチルダさんだけなのに驚いてしまったよ。


 挨拶周りが一通り終わると、婚約者達は王妃勢の下へ向かう。

 王妃としての心得を聞いて来る、なんて言っていたが……皆はそのままで良いんだよ? 

 その為、僕は一人で各国のトップの下へと向かった。


「おぉ、ユート君。挨拶周りは終わったのかな?」

「アンドレイ叔父さん、一応終わったよ。婚約者達は妃勢の所だから、こっち来たんだ」

「そうかそうか。ユート殿、尻に敷かれぬように気を付けるのだぞ? 最初が肝心だからな」

「左様、女性は怒らせると怖いからな」

「実感籠もってますね、獣王陛下も皇帝陛下も」

 僕のツッコミに、二人の視線が逸れた。待て、アンドレイ叔父さんもか!?


「グハハハ! これがアヴァロン王か……なるほど、各国の王と懇意にしていると聞いていたが、随分と気安い関係なのだな」

 そうかな?

「アンドレイ叔父さんやアマダムはともかく、獣王陛下と皇帝陛下には気を付けているつもりなんですけどね」

 ほら、アンドレイ叔父さんは叔父だし、アマダムは友人だから。

「ふむ……コレが世界同盟か。ワシはアヴァロン王を知らなんだから、獣王がどれだけ絶賛しても、直接会ってから参加するか否かを決めるつもりだったのだがな」

 そういえば、竜王国には獣王陛下が声を掛けてくれて、四人の使者を送って来たんだったな。


 そんな竜王陛下が、目を細めて僕に向き直る。

「アヴァロン王。それだけの力を持ち、貴殿は何を目指す」

 酒の席だと言う事を忘れる程に、その声は威厳に満ちあふれていた。その眼からは、僕を見定めようという意思をひしひしと感じさせる。

 ならば、こちらも王として嘘偽りない本心で返答しよう。それがアヴァロン王としての、誠意だろうからね。


「そうですね、まずは悪魔族を撃退して……後は、世界各国が平和に向かって協力し合えるような、そんな状態に持っていきたいと思ってます」

 簡単な道程ではないだろう。僕の代でできる保証もないし。

 でも、やらないよりはやる方がいい。

「それは、自分と自分の大切な人達の為です。そして、後の世代により良い世界を……それが王様としての僕の役目だと思っています」

 僕達の子供や、世界中の子供達。そして、その先に続いてく世代。未来を生きる者達への、ささやかな贈り物にしたい。


「……そうか」

 竜王陛下の目が、穏やかなものになったのを感じる。

「使者に送った四人からも、貴殿の人柄は伺ったよ。皆、絶賛しておったわ」

 マジか。アヴァロンを気に入って貰えたんだな、それなら嬉しい。

「ワシは貴殿が気に入ったよ、アヴァロン王。後程、世界同盟に参加する為の話をさせて貰いたい」

「はい……喜んで」

 竜王国なら、大歓迎だ。


 その後、僕は父さん達の方へ。

「父さん、今日は来てくれてありがとう」

「おう、ユート! まさか比喩じゃなく一国一城の主になるとはなぁ……我が息子ながらやる事がでけぇな」

「レオはアンドレイに王位に就くのを打診されたら、”王様とか面倒臭いから、逃げるわ! ”とか言って、私を連れて出奔したんじゃない」

 そんな裏話があったのか!! 


「しっかし……こうして父さんと七人の英雄が揃うのを見ると、凄まじいメンバーだね」

 僕の言葉に、周囲に居た参加者が首を何度と縦に振る。

「余は偽名だったし、レオとアリアも出奔したからなぁ……全員が揃うのは、先代を討伐した祝杯以来か?」

「あぁ……」

「それ以外も、自分の故郷に帰ったからな。時々顔を見せに行く事はあったけど、こうして集まる事は中々なぁ」

 懐かしむように、アマダムとリンドさん、ベアトリクスさんが視線を虚空に向ける。


「そう言えば、国にとっては英雄だろ? 何で国の重職とかに就いてなかったんだ?」

 僕の疑問に、皆が苦笑する。

「持ち上げられ過ぎて、気が萎えたってのもあるけどな」

「私達頼りになっては、世界は先に進めないでしょう? だから、私達は楽隠居する事にしたのよ」

 ローレンさんとエメリアさんの言葉に納得した。何でも英雄頼りになっては、新しい世代は成長しないだろうからな。

「チビ以外はな!」

「お前も身長変わらないだろ、ガンツ!」

 やけにガンツ爺さんがアマダムをからかうなぁ。

 後で母さんに聞いたところ、爺さんとアマダムは昔から喧嘩友達なんだそうだ。


 ……


 宴もたけなわ、といった所で、各国家から……そして、英雄達から贈り物を頂いた。

 イングヴァルト王国からは、四つの豪勢なシャンデリアだ。

 ミリアン獣王国は、美しい紋様が描かれた大きな四枚の絨毯。

 ヴォルフィード皇国からは四つの彫像で、僕の話した神竜を再現したらしい。

 オーヴァン魔王国は、十二枚で一組になるという絵画。

 ジークハルト竜王国からの贈り物は、四王竜の加護を表すという宝石で作られた、四つの時計。

 これらは、それぞれのエントランスに飾らせてもらう事にした。


 そして、父さんたちからも。

「俺達からは、皆でまとめてなんで悪いんだがな」

「何言っちゃってんの!? 凄いよ、コレ……!!」

 父さん達からは、アヴァロン王国の国旗をプレゼントされた。合計八枚だ。そう言えば、王城に旗とか用意していなかったんだよね。

「図案とかは、キリエに確認しておいたのよ」

「王城に旗を用意しなかったのは、キリエの手回しか!」

「ふふふ、気付くのが遅いですよ、ユーちゃん?」

 流石は十五年間、姉として僕の側に居ただけある……手強い! 


************************************************************


 その日、招待客はアヴァロンに宿泊していく事になった。

 急遽決まったので、南側にジークハルト竜王国用の屋敷を宝物庫ストレージから出したよ。


 父さん達はどうするかと相談したりしたが、何とかそれも解決させた。父さん達は、王城内にある来客用のフロアに泊まることしたのだ

 多分、今頃勇者と七人の英雄達は飲み会だろう、酒豪揃いというか、酒豪しかいないし。


 今日は婚約者達の襲撃(夜這い)も無いようなので、僕も自室でのんびり出来る。ベッドで眠る前に、神竜の卵に目をやる。

「……お前さんがどんな意図で、僕にこの島を譲ったのかは解らないけどね。僕なりに、この島を豊かにしていくつもりだよ。見守っててくれよな、神竜さんよ」


 加護や島、コイツからは沢山の物を貰っている。

 それに僕の部屋に常に置いている神竜の卵に、いつの間にか愛着が湧いてきていた。たまに、こうして話しかけたりするくらいにはね。

 この島を譲り受けた直後は、絶対にリベンジする! くらいの気持ちだったのにねぇ。


 コイツが孵化したら、どうなるんだろ? もしかして、幼生体で生まれてくるのか? 流石にサイズから言って、元のサイズって事は無いだろう。

 コイツが孵化する日が、少し楽しみだったりするんだよね。

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