07-11 王城完成/落成式前夜
これまでのあらすじ:メグミ・ユウキ・マナが、アヴァロン王国に加わった!
クロイツ教国との一件から、半月が経過した。
僕達は遺失魔道具をフルに使って、王都として予定された区画の整地を完了し、つい昨日には内壁も土台を完成させた。そんな土台を見ながら、メグミが首を傾げる。
「内壁は、各国の専門家にやって貰うんですね?」
「うん。開拓からの建国ってのは基本的に、金になるんだ。友好国家の業者に依頼して、利益を与えるんだよ」
「あぁ、なるほど」
ちなみに、その間にも服飾デザイン等で入ってくるお金や、土木用の遺失魔道具のレンタル料で収入が凄い事になっていた。
更に言うと、ベアトリクス商会を通じて低反発マットレスと羽毛布団を販売させた。結果、友好国で飛ぶように売れている。
国庫が一旦空になる覚悟をしていたが、収入は増え続けているので意外と問題ない。
ちなみにベアトリクス商会の取り分は四割で、二割は店舗のある国へ。残り四割が僕の懐に入って来る。
……
そして、今日のメインイベント。
「いやぁ、半月で立派な城が出来たね!!」
「「「「「早すぎるよっ!?」」」」」
いやいや、そうでもないのだ。作業の進み具合は、衰えるどころか加速していったくらいだからね。
その要因はいくつかある。
腕の良い国家御用達の職人、僕の遺失魔道具。錬成の勇者と、魔導の勇者の助力。加えて魔力回復用として、婚約者達が準備した大量の疑似魔石。
更に言えば、職人達のために用意した部屋かな? ふかふかのベッド、美味しい食事、露天風呂。
職人達の士気は、毎日最高潮であった。
しかも、食事を作ったのがキリエ達や、うちの女性陣である事も手伝ったのだろう。
無論、アヴァロン王である僕の婚約者や使用人達に、手を出そうなどという愚か者は現れなかった。その辺り、しっかり代表から言われていたんだろうね。
さて、城は非常に立派な物が出来上がっている。
今まで見てきたイングヴァルト王城、ミリアン獣王宮殿、ヴォルフィード皇城、オーヴァン魔王城と比べても、勝るとも劣らない。あんまりその辺、差が無いようにしないとね。
なので、各国の城を良く知る城大工さん達に、色々相談したのだ。皆快く相談に乗ってくれて、とてもありがたかったなぁ。
明日は王城の落成式なので、各国の王達が来る予定だ。
これまでの屋敷・離れの屋敷は、現在宝物庫の中に収納している。王侯貴族等の宿泊用として、城壁内に建てるつもりだ。
掃除が大変そうなので、その内執事や侍女を増やしたいなぁ。一応、清掃用に遺失魔道具掃除機を作ろうと思ってたりする。
さて、各国の王を招いての落成式は明日。だがその前に、今夜は彼等とお祝いだ!
「それでは、王城建設に関わって下さった皆様! この度は本当にありがとうございました! 乾杯ッ!!」
僕の乾杯の音頭で、一斉に乾杯の唱和とグラスが重なる音が響く。
乾杯の後は、皆で思い思いにバーベキューを楽しんで貰う。僕達の所へ来て挨拶をする人達も多く、ちょこちょこ食べつつ和やかに会話をする。
僕も時間がある時は、建城作業を手伝ったりしていたしね。職人さん達は気の良い人が多くて、話もとても楽しい。
「いやぁ、陛下の奥方様達は美人揃いで羨ましい限りですよ」
「ウチの嫁なんか、おっかなくておっかなくて」
「あはは、今回の仕事で報酬も入るでしょうし、家族サービスも出来るでしょう」
「俺の酒代にいくら貰えるかねぇ」
「しかし陛下は何と言うか、王様になったばかりとはいえ親しみが持てますな」
「ええ、応援したくなるというか、不思議な魅力を感じますぜ」
「おだてても何も出ませんよ。ところでここに秘蔵の酒が」
「「「出てる出てる!!」」」
こんな感じで、堅苦しさの無い会話を楽しんでいた。
キリエ達は肉や野菜を焼きながら、僕の所に持って来てくれたり、話に参加したりしている。
クラウス達も、職人さんに混じってワイワイやっているみたいだな。テリー氏達も同様だ、皆笑顔だね。
そして、ユウキとマナ。僕達と同じエリアで、一緒に食べたり飲んだりしている。
「どうだいユウキ、マナ。楽しんでいる?」
「ええ、お陰様で」
「楽しいですよ、陛下!」
「陛下はやめろって。ここには慣れたかな?」
もう、亡命して半月だしね。
「皆、優しいですし、毎日充実している気がしますよ。勇者より、こっちの方が向いているかもしれないです」
そんな事を言って苦笑するユウキ。錬成魔導師という、付与魔導師ほどじゃないけど戦闘に向かないジョブだもんなぁ。
とはいえ、勇者としてのステータス上昇がある。ゴブリンレベルとの戦闘には、然程不安は無いと思うんだけどね。
まぁ、これまでの比較対象がマサヨシだったし、生来の戦闘向きじゃない性格がね。
「そだねー、クロイツ教国やヒルベルト王国より、ここの方が好きだよ。居心地が良いし、皆も特別扱いしないで対等に接してくれるしね!」
社交的な性格のマナだから、傅いたり敬ったりしながらも、本心を隠して接してくる連中が多かっただろう。それに、あわよくば懇意になり、自分や自分の家族の嫁に……なんて打算とかもありそうだしね。ドロドロしてるからさ、貴族社会。
それに比べたら、アヴァロン王国はありのままの自分でいて問題無いからな。何せ特別な連中が多いから、勇者が浮かない。
……
さてと、そろそろ宴もたけなわかな?
「はーい、皆さん注目!」
僕の声に、参加者全員の視線が集まる。
「今回、皆さんのお陰で素晴らしい城が建ちました。その感謝の印として、ご用意した物がありますので受け取って下さい! はいっ、それじゃあ並べ野郎どもーっ!!」
僕の号令に、職人達が整列し出す。並んでいる順番に、職人達に僕自ら封筒を手渡して行く。
封筒の中身は銀貨五枚と、アヴァロン王国王城落成記念の純金メダルだ。
「おいおいおいおいっ陛下!? これっ!?」
「僕達アヴァロン王国からの感謝の気持ちね、受け取り拒否は出来ないのがアヴァロンルールだから、そこんとこヨロシク!」
「「「「えぇぇっ!?」」」」
戸惑う職人達六十名ほどに、どんどん手渡していく。
ありがとね、これで美味い酒でも飲んでくれたまえ! 家族サービスもな!!
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さて。王城落成に伴い、僕達も屋敷から王城へ居を移す。
王城は……うん、広いな。そもそも城壁がすげぇ。跳ね橋は東西南北に設置されていて、深くて広い堀に架けられている。
「やっぱりお城には堀だよね」
「そうですね、防衛を考えると堀は重要です」
「そもそも、王都に不埒物が入れるとは思いませんけどね」
何故僕を見るのかな?
跳ね橋を渡り切り、僕達は立派な城壁を潜り抜ける。
「おぉ、こりゃ広いな……そして、城遠いな!!」
工事の時は門弾で跳んでいたからな。改めて自分達の城の規模に驚かされる。
城壁内部の庭園予定地を歩いて行くと、そこに一軒の屋敷がある。三階建ての屋敷で、ここは賓客を迎える際に使用する屋敷だ。位置的には城壁と城の間だね。
屋根にはイングヴァルト王国の国旗。イングヴァルト王国関係者専用の宿泊施設だ。
東西南北の各大陸に合わせた区画に、それぞれの宿泊施設を設けている。
「この屋敷も、増えるかもしれないんですね」
アイリの言葉に首肯する。
「同盟国家が増えたら、また新しく移築するよ」
宝物庫からね!!
庭園予定地を歩き進み、ようやく城は目前なのだが……屋敷の一階分くらいの高さがありそうな、白磁の階段が待ち構えていた。作っといてなんだけど、すげぇな。
とりあえず階段を登っていくと、噴水と花壇で彩られた庭園が出迎えた。ここにはその内、彫像なんかを起きたいとアリスが言っていたが……僕の像は絶対に要らないからね?
そして、いよいよ城の内部に入る為の扉が目前にある。
「では、ユートさん!」
「……開けよう?」
婚約者達のリクエストに応え、大きな両開きの扉を開ける。
……
「……おぉ」
内装は婚約者勢に任せたので、僕も見るのは初めてなのだが……やべぇなコレ。
白磁の床、その先にある赤い絨毯が敷かれた幅広の階段。階段の脇にはこれまた両開きの扉があり、その先はパーティーホールとなっている。
このパーティーホールは四方に二つずつ扉があり、その先には同様のエントランスがあるのだ。
そう、東西南北それぞれにエントランスを設えている。一階はエントランスとパーティーホールだ。
「これは豪華過ぎないかな?」
「いえ、これくらいで良いんですよ」
「そうそう、これくらいしなければ!」
そ、そんなもん?
幅広の階段を登って行き、二階に上がるとまた扉だ。パーティー会場の上は、会議室になっている。世界同盟によって開かれる世界会議の為の部屋で、世界会議室と名付けられた。
中央に円卓、そして同盟参加国専用の国家の紋章をあしらった玉座とか色々置いてある。
各エントランスの方にある扉の中は、控室だ。これは各国の賓客専用で、世界会議やパーティー前の準備等に使用して貰うつもりだ。
そして、その上の部屋。三階の扉を開くと謁見の間だ。
謁見の間は更に天井が高く、大きな天窓が取り付けられており、そこから太陽の光が部屋の中心に射し込んでいる。部屋の中心には丸い石の円盤があり、その中心に玉座がある。
実はコレ、遺失魔道具です。遺失魔道具”天空王の玉座”……命名は婚約者勢なので、ルビ無し。
簡単に言ってしまえば半径二メートルのこの円盤が、魔法エレベーターである。エレベーター玉座……。
「これまでは跪く側だったんだけどなぁ……」
「その内慣れますよ、ユーちゃん」
そうかなぁ……。
この謁見の間より上部には、居住区画がある。
居住区画はこの三階までとは打って変わって、ちょっと近代的な装いだ。登るには、謁見の間の四隅の円柱型の塔から行けるのだが、こちらは螺旋階段とエレベーター両方を設置。移動は各個人、お好きな方で。
形状的にはロの字型をしているが、広さが広さなので相当に広い。吹き抜け部分は小庭園になっており、バーベキューとかできるよ!! 小庭園に面した内側は、近代的なガラス張りの廊下になっている。
居住区画の内部は、使用人勢が四階・五階。六階フロアはゲストルーム、七階には中核メンバー用の部屋を用意している。
更にその上にあるのが、婚約者の為の八階フロア。何故か全二十部屋もある。
このお部屋は、それぞれが二階建ての作りになっていたりする。ぶっちゃけ一部屋だけで、地球の高級マンションの一室くらいの広さがあるよ。
これらの部屋にはリビング・ダイニング・ベッドルーム・ドレスルーム・ウォーキングクローゼット・トイレ・バスルーム……更に、露天風呂まで完備。
露天風呂は外から決して見れないように、“不可視”の刻印付与結界が施されている。僕のお嫁さん達の裸を、他人に見せるはずが無いだろう?
そして居住区画の中心に、三階建ての僕の部屋がある。これは婚約者達の発案。
七階部分にあるのが、王としての執務室だ。ちなみにここが、エレベーター玉座の終点。
一応、僕の部屋は透明な塔で支えられており、強度的には心配ない。これは、婚約者による創造魔法“透明化”によるものだ。シースルーエレベーター玉座……。
その上にあるのが、八階にある僕のプライベートルーム。
高さは婚約者の部屋と同じだが、それぞれの部屋と空中回廊で繋がっている。これは婚約者達の意向だ。夜這いしろと言われているのだろうか。
更にその上、九階。ここに、ベッドルームとバスルーム・露天風呂がある。
ちなみに、バカみたいにでかいベッドが置かれたベッドルームが中央にあり、その周りが全部露天風呂です。その構想を最初に聞いた時、一瞬ラブホ? と思ってしまったのは内緒である。
更に、この部屋の屋上。ここには天空庭園があるのだ。そこには仲間全員が集まっても余裕があるくらいの広さがある。
この説明だけで、僕の部屋が頭おかしいレベルだって解るだろう?
……
謁見の間を見て呆けていると、キリエを皮切りに婚約者達がある提案をして来た。それは……。
「さぁ、玉座に座ってみましょう!」
「そうです、ユート君!」
「ユート様の玉座に座る姿、見たいです!」
「ユートさん、行きましょう!」
「……行く、ユート」
「先輩先輩、私も見たいです」
「え、えぇ~……やんなきゃダメ?」
その他、獣人勢やドワーフ勢、テリー氏のパーティ、ユウキとマナにも懇願され、已む無く玉座に座る事に。
「え、えと……こう?」
努めて自然体で玉座に座ると、皆が一斉に跪いた!! ちょっ、何やってんの!? 待って、クレアちゃんまで何やってんの!?
「何事!?」
「いえ、やはり城の主が玉座に就いたのですから」
「ここは、慣れて貰うためにも雰囲気を出そうかと」
「何が起こったのかと思ったよ……」
……しかし、丁度いいタイミングかもしれない。
「それじゃあ皆、顔を上げてくれ」
僕の言葉に、全員が顔を上げた。
「まずは礼を言わせて欲しい。これまで僕に付き合ってくれた事、心から感謝しているよ。皆のお陰で、こんな素晴らしい城も出来上がった。アヴァロン王国として、まずは第一歩が踏み出せたと思うんだ。だから、ありがとう」
僕の言葉を、皆が真摯に受け止めてくれている事が解る。だから、僕も心からの素直な気持ちで、皆に伝えたい事を伝えよう。
「知っての通りの新米国王だ、至らない事も多々あると思う。それに、皆に迷惑をかける事もあると思う。それでも、皆と……そしてこれから増えていくだろう国民の為に、僕は僕に出来る事を全力でやっていきたいって思っている。だから……」
玉座から立ち上がり、皆に頭を下げる。
「これからも、どうかよろしく頼む」
僕の言葉に、最初に手を叩いたのはキリエだった。
それは、拍手。その拍手がアリス、アイリ、リイン、クリス、メグミと続き……ユウキ、マナ、獣人達、ドワーフ達、テリー氏達に伝播した。
大切な人達の拍手に囲まれて、僕はきっと今初めて“王”になったんじゃないかと思う。
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さて、僕達はそれぞれ部屋に戻ったわけなのだが……。
「おぉ……やはり広いですね」
「アヴァロン王の寝室ですから、やはりこれくらいは無いと」
キリエ、アリスがそんな事を言っているが……何故、自室に戻らないのかな?
「えーと、どしたん? 僕の部屋に来て」
「それは勿論、ユート様のお側に居たいからです」
「はい、折角の王城で過ごす初めての夜ですもの」
……うん、流石にこれは予想していなかったよ?
「ユート……疲れてる?」
「あの、先輩がお疲れなら……側にいるだけでも良いので……」
寝間着姿で僕の部屋に来た婚約者達。
「あー……うん。とりあえず……君達はここに居る野獣を起こしましたので、覚悟するように」
六人相手だ、今夜は手加減なしでいくぞ。
数時間後。僕は、息も絶え絶えの状態で寝そべる、一糸纏わぬ婚約者六人の身体を、暖かいお湯で湿らせた布で拭いてあげつつ確信する。
「……これ絶対に、神竜の加護あたりが怪しいわ」
六人相手に優位性を保ち続けた激しい夜戦。普通の人間なら有り得ないって。
しかし、六人相手ってのはすげぇ光景だった……もう自分でも何やってんのか解かんなかったよ。
ハーレム物のエロゲ主人公とか、化物だよ。
でも良いもん見せてもらった、神竜には感謝しとこう。




