07-08 建国五日目/義理の親
これまでのあらすじ:竜人族の使者を歓待しました。
連続だ。そう、四日連続で寝不足なのだ。だというのに、別に身体がだるいとか辛いとか無い。
それに……その、そっち方面の意味での夜戦も、連日だというのに衰えていない。ちょっと自分で自分が気持ち悪い。
まぁ、衰えていない原因は僕じゃなくて相手にある気もするけど。僕の腕枕で幸せそうな寝顔を晒すリインを見て思う。
無論、その身体を隠すものは無い……いや、寒くないように布団は掛けているけど。こんな美しい婚約者を前にしたら、萎えるなんて有り得ないだろう。
「うぅん……ユートさん……」
寝ぼけ眼で、僕に擦り寄るリイン。その愛らしさに、僕は抱き締める手に力を込めてしまった。
「んん……もっと……」
そう言いながら抱き着いてくる。
……お、起きなきゃ。いや、そっちの意味じゃなく、そろそろ起きて身支度をしなきゃ!!
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食堂に向かうと、そこには既に竜人族の四人が揃っていた。
「おはようございます、アヴァロン国王陛下」
コムイさんの挨拶を皮切りに、それぞれ朝の挨拶をしてくれる。
「おはよう、皆さん。ゆっくり眠れたかな?」
「はい、お陰様で」
「とても寝心地の良いベッドでビックリですよ!」
「本当に。うちにも置きたいくらいです」
ダンテさん、ハルトさん、カルナさんがそんな事を言う。気に入ってくれたようで何よりだ。
このアーカディア邸のベッドは低反発マットレスと羽毛布団という、個人的に最強だと思うコンボである。寝心地抜群なのだ。
その内、販売でもしようかな?
……
竜人族の皆は、今日帰還する予定だそうだ。まぁそれはそうだろう、次期族長としてやる事もあるだろうしな。
朝食を皆で済ませ、帰る前に一応謁見という形で挨拶をすることに。
「では、この親書を竜王陛下に渡して貰いたい」
「はっ、確かにお預かり致しました」
一応謁見なので、僕も口調を王様モードにする。慣れないのよねぇ。
あぁ、忘れない内にこれも。
「それと、これを。竜人族の英雄・リンドヴァルム殿への手紙だ」
僕の言葉に、竜人達が目を見開く。
「リンドヴァルム様ですか!? も、もしやお知り合いで?」
あれっ、僕が勇者と聖女の息子って事は、知られていないのか? なら、内密にしておいた方がいいな。
「あぁ、少々縁あってな。竜王国へ伺う際に、挨拶に行くと伝えて欲しい」
「か、畏まりました! 必ず!」
「頼む」
恐縮しきりの竜人達に、謁見の終了を伝える。王様モード、オフだ。
「さて、それじゃあ送っていこう。ミリアンの王都で良いのかな?」
「えっ、あっ、はい!」
王様モードと素では温度差あるよね、解る解る。
僕は門弾で転移魔法陣を開き、竜人達をミリアン獣王国の王都レオングル前に送っていく。
その際、僕を見つけた獣人に囲まれそうだったので、挨拶もそこそこに退散した。まだ、英雄扱いには慣れないよ……。
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さて、それでは今日の予定だ。
「何するかなぁ……」
予定、入ってない。
「予想より早く、外壁が完成しましたからね」
「少しくらい、休息日になさったらどうですか? ユートさん、ここ最近はずっと忙しかったのですし」
その”ここ最近は”って、もしかして夜戦も含まれてますか。
「それが良いですよ、ご主人。あちこちに行ったり、外壁を作ったり、落ち着く暇も無かったでしょう」
「屋敷でもユーちゃんは、書類や他の事でも頑張っていましたし」
あっ、これ夜戦込みだ。解ってて言ってるな、キリエ。この小悪魔さんめ、天使だけど。
意地悪の仕返しは意地悪かな、今度僕のベッドに来る時に……あー、心を読めるキリエが、頬を染めて顔を背けた。
さて、休みにしても良いんだが、どうしたものか。やるべき事はまだまだあるからなぁ……。
いや、僕が休まないと他の皆も休みにくいよな。ここ最近、皆には色々無理をさせてしまったし、ゆっくりして貰うべきだ。
「よし、今日は休み! 僕も皆も休み!」
さて、お休みと一緒に報酬とボーナスを出す事にしよう。
この世界に銀行なんて無いからね、手渡しだ。
という事で、アーカディア邸の使用人及びドワーフ族の食客に、それぞれ銀貨八枚の報酬。
そして、テリー氏達へは一人に対し銀貨五枚を手渡す。
「ご主人、貰い過ぎじゃねぇですか!?」
「おいおい、何だよこの額は!!」
君等にはいろいろ苦労をかけたからね、ボーナス込みだよ。
「ユート、流石にこれは多すぎる!! パーティで銀貨五枚じゃなかったのか!?」
その予定だったけどいろいろ頑張って貰ったからね、上乗せしたよ。
「アヴァロン王国の王様は身内に甘いのです。という事で、受け取り拒否は認めません! 貯金するなり飲みに使うなり、好きにしろぃ!」
「「「「えぇーっ!?」」」」
今居るのは身内オンリーなので、はっちゃけて良いよね!
「これも、ある意味暴君なんでしょうかね」
「ユート様らしいですけどね」
苦笑いする嫁勢。
大丈夫、全部僕のポケットマネーから出てるから。というのも、実は例の服飾店でね……。
僕の出したアイディアの服が相当売れたらしくて……臨時収入が手渡されたのだ。
何でも、金貨百枚分も売れたらしい。大ヒットである。
以前、「アイディア料については、売れた時に応相談」となっていたのだが……あちらは八割支払う等と言い出したので、値段交渉が発生。
結局四割を貰える事になってしまった。それ以上は譲らないんだもん、店主。
なので臨時収入に、金貨四十枚が入っているのだ。少し、皆にも還元して良いよね!
……
皆は思い思いに休みを取る事にしたようだ。テリー氏達は装備を整える為に、イングヴァルト王国へ。
クラウス一家、ジル兄妹、メアリーはちょっと故郷へ顔を見せに。
マルクとジョリーンは自宅でのんびり。エルザは少し軽めの依頼を受けに、クエスト王国へ。リリルルも、恋人に会いに行った。
うんうん、善きかな善きかな。
「さて、私達はどうしますか?」
キリエの言葉に、僕は思案する。
折角だし、皆とゆっくりするのも良いんじゃないだろうか。だとしたら何処がいいか……と、そうだ!
リインやクリスは、まだタイミングが無くて連れて行っていない場所があるじゃないか。それに、“報告”もしなければならないだろう……色々な報告を。ほら、世界同盟の事とか、婚約の事とか、建国の事とかさ。
建国が決まってから、忙しくてその辺りが頭から抜けてしまっていたよ。
「僕達の実家に行かない? ついでに、海水浴でもしようか」
その言葉に、皆の表情が変わる。
「なら、ミリアンに寄りましょう。クリス様の水着を買わなければ」
それもそうだ。
僕達はミリアン獣王国の王都レオングルへ飛び、服飾店でクリスの水着を購入。ついでに父さんと母さんへのお土産を買って、孤島へと転移する。あー、久し振りの実家だ。
さて、父さんと母さんはリビングで寛いでいた。
「おっ、ユート達か!」
「お帰りなさい……あら、そちらの二人……」
父さんと母さんが、初めて会うリインとクリスに気付いた。
「お初にお目にかかります、レオナルド様、アリア様。私、ヴォルフィード皇国ヴォークリンデ公爵家が次女、リイナレインと申します」
「魔王アマダムの妹……クリスティーナ・ガルバドス・ド・オーヴァン……です」
リインの自己紹介で「公爵令嬢かぁ、へぇ~」という反応だったのだが、クリスの自己紹介で二人は目を剥いた。
「アマダムの妹だと!?」
「それって、あの“停止結界”に囚われていた……!?」
あっ、そっか。アマダムは魔人族の英雄。つまり、勇者一行の一員・アーカム(偽名)だ。
ならば、妹であるクリスの事も知っていたはず……。
「……ユート達が、助けてくれた」
その言葉に、視線が僕に向けられる。
「……やっちゃった、力技で」
テヘペロ。
クリスを解放した方法を教えた所、流石の二人も唖然としてしまった。
……
父さんと母さんに、これまでの事を報告する。
アーカディア島の事、世界同盟の事、アヴァロン王国建国の事、そして彼女達と婚約した事。
「……ユート、お前……メチャクチャやったなぁ……」
「レオ似だとは思っていたけど……正直、それを超えてメチャクチャじゃない……」
えー、それは言い過ぎじゃない? 全世界に名を轟かせる父さんと比べたら小さいよ。
「王様って言っても、小さい島国だし……」
「そもそも、建国する事自体が凄い事って解ってないですね、ユーちゃん……」
「ユート君の各地での活躍ぶりを、お二人に説明しましょう」
「そうですね、ユート様はレオナルド様やアリア様の息子という身分を隠して、一冒険者として身を立て、そして王にまで上り詰めたわけですから」
「おう、その辺詳しく教えてくれ。ユートは大人しく聞いとけ、な」
僕の事なのに、僕がハブられるの!?
イングヴァルトでの冒険者としての活動。
ミリアンでの騒動。
天空島での神竜の試練。
ヴォルフィードでの出来事。
クエストでの出来事。
オーヴァンで起きた戦争と、その顛末。
四カ国会談での出来事、世界同盟や建国、そして婚約。
更に、僕の好きな所……。
「って、そんなんはいい! 言わんでいい! 言わないでお願いだから!!」
「何を照れてんだ、五人も嫁を……おっと、六人目も決まっていたんだっけか。今度連れて来いよ」
「べっ別に照れてなんかいないよ! あと、ちゃんと連れて来るよ!」
「どんな子かしら、楽しみだわ~♪」
「めっちゃ良い子だよ! 楽しみにしとけよ! んで、この話題もうおしまいっ! 海水浴行くよ!」
半ば無理矢理、キリエ達を連れて海岸へ向かう。父さん達も一緒に来るらしい。
……
さて、皆の水着姿を見せて貰いました。姉さん達はいつもの水着。
「今度、新しいのに新調しましょうか、メグミさんが合流した時にでも」
うっ……確かに見たい。皆の別の水着姿も、そしてメグミの水着姿も……。
さて、まだ水着姿を見た事が無かったクリスだが……紫色のビキニ姿である。それも、腰部分と胸元部分が……紐で結ぶタイプの。
白い肌のクリスに、紫はよく映える。
「……どう」
「……可愛い」
何で僕まで単語で返したんだろ。とりあえず、クリスは嬉しそうに微笑んでくれたから良いか。
さて、折角なので泳いだり、遊んだりするのだが……。
「用意しておきました、浮き輪にゴムボート、そしてビーチボール! 海で遊ぶならやっぱりコレだね!」
「おぉ~!」
「何だコレ、面白そうだな?」
「ユートは物作りになると、妥協しないわよねぇ」
折角なので、用意した海遊びグッズを皆に体験して貰う事に。
「……ぷかぷか」
「これは気持ち良いですねぇ……」
クリスとリインが、浮き輪でプカプカと浮いている。
「意外と乗り心地良いですね」
「はい、それに思ったよりも広いです」
「お義母様、漕いでみましょうか」
「そうね、一緒にやりましょう」
その横で、ゴムボートに乗ったアリスとアイリ、キリエと母さんの二組。女性陣は思い思いに楽しんでくれているようだ。
「さて、じゃあ魚でも釣るか?」
「あぁ、昼ご飯用の食材は買い出してきたよ。バーベキューにしよう」
「おぉっ、流石我が息子」
おだてても何も出ないよ。肉はいっぱい仕入れて来たよ。
……
海から戻って来た皆と一緒に、バーベキューを開始。
「ほれ、焼けたぞー」
「ありがとうございます、レオナルド様」
「駄目よリインちゃん、これからはお義父さんって呼ばないと」
「おっ、おとっ……!!」
母さんの言葉に、リインが硬直した。そんなところも可愛い。
「そうですね、もう今から呼んで慣れておくべきでしょう」
キリエが皆に視線を巡らせる。全員、硬直した。可愛い。
「も、もしかして私達もですか!?」
「そりゃそうだ、ほれ呼んでみ?」
期待に満ちた顔で、父さんと母さんが待ちの体勢。おずおずと、クリスやリインが口を開く。
「お義父さん……」
「お義父様、お義母様……でよろしいですか」
そんな二人に、父さんと母さんは満面の笑みだ。
「あ、お義母様。こちら食べ頃ですよ」
「あら、ありがとうアリスちゃん」
「お義父様、お酒足しますか?」
「おう、ありがとなアイリ! ユート、本当にお前はいい娘さん達に恵まれたなぁ」
アリスとアイリは既に会っていた事もあり、すぐに順応していた。まぁ、最初からその気だったらしいしね。
うーん、所でこういう時って、ソース焼きそばとか作りたくなるなぁ……。探してみようか、中華麺っぽいモノ。
そんな感じで、昼食は賑やかに過ぎていく。
午後も、皆で一緒にビーチバレーなんぞやって楽しんだ。言ってもチーム分けとかはせずに、落とさないように皆で協力してボールを跳ねさせただけである。
しかし、勇者・聖女・魔王の妹・大迷宮踏破者が揃うと、落とさずに千回とかいけるのね……前世では考えられない数だったわ。
……
その後、僕達はアヴァロン王国に二人を誘った……のだが、今回は辞退されてしまった。その理由は……。
「息子と義娘達の新居に行くのに、手土産の一つも無しじゃダメだろ。何か作っておくから、また今度な」
「それに、メグミちゃん? もまだなんでしょう? どうせ行くなら、合流した後がいいと思うのよ」
そんな事を言い出したのだ。そして僕は、二人がこういう態度の時は、絶対に意見を曲げないと知っている。
「父さんはあんま気にし過ぎないでいいからね。メグミの事を考えると、確かに母さんの言う通りか。うん、じゃあそうしようか」
少々残念だが、機会がこれっきりというわけでもない。
ついでに、二人には新作遺失魔道具“魔導通信機”を手渡す。これで、いつでも連絡が取れる。
「ついにこんなモノまで作ったのか……」
「相変わらず、自重しないのねぇ……」
「失敬な、目立ち過ぎないように気を付けてるよ! ねぇ?」
僕が視線を向けると、嫁勢が全員目を逸らす……えっ、自重無しだと思われてる!?
「まぁ、それについては追々……」
「えー……自重してるよ……?」
……誰も、フォロー、くれない。
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さて、夕飯は全員勢揃いだ。
テリー氏達も、イングヴァルトから戻っている。こっちに来れるように、”携帯通話機”を渡しておいて正解だったね。
皆で食事をしながら、互いの今日の出来事を話して盛り上がる。早くメグミも来れたらいいなぁ……それに、ユウキやマナも来てくれればいいな。
そんなメグミからの定時連絡。
『無事に教国に入りました。明日には教都に入り、報告をします』
『久々に長旅だっただろ。お疲れ様、メグミ』
『先輩に同行していると、転移魔法に甘えてしまいますね。たまには歩かないといけないなって、痛感しました』
うーん、僕も歩かないといけないかな。
『先輩……その、報告を済ませたら……』
『あぁ、メグミ。君を僕のお嫁さんとして迎えに行く』
『……っ! はいっ、先輩っ!』
そしたら、先輩呼びを改めさせないといけないかな? まぁ、それは追々かな。
その後、少し話をするのだが……。
『鏑木さんが、やけに機嫌がいいんですよね……ちょっと、正直気持ち悪いくらいに』
メグミに気持ち悪いとまで言われる勇者マサヨシ……哀れなヤツよのぅ。
『……何かあったらすぐ報せてくれ、俺ならメグミのすぐ側に行けるからな』
『……はい。その時は頼らせてもらいます、先輩』
少し、警戒しておいた方が良いだろう。
……
メグミとの通信が終わると、クリスがやって来た。
「……ユート、いい?」
「勿論、おいでクリス」
部屋に招き入れるが、これはもしかして……。
「なぁ、皆が俺の部屋に来る時、メグミの定時連絡の後にしてるだろ」
「……正解」
どうやら、側に居られないメグミの為に、通信の時間を設けていたらしい。うちの婚約者達は、互いに互いを思いやっているんだと実感し、胸の内が暖かくなった。
「皆、優しいね……そんな君達だから、僕も惹かれたんだと思うよ」
「……ん」
僕の胸元にスリスリする、クリス。何この可愛い生き物。
「……ユート、する?」
超ストレートに誘いますね!? まぁ、返答は決まっていますが。
「うん、する」
そう告げて、クリスを優しく押し倒す。
そのままクリスと顔を寄せ合い、口付けを交わす。小柄な身体に手を這わせ、その衣服を優しく脱がせる。クリスも僕の衣服に手を掛けて、互いに開けさせていく。
その日、僕は明け方までクリスを求め続けてしまった。




